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側妃クラリッサは笑壺に入る  作者: くさき いつき


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第23幕 作業場は必要

 工房を作ろう。


「え、工房?」


 領主館に戻ると、私は今後の方針を告げた。けれど、周囲は何故か困った顔をしているわ。ベルの声が端的ね。執務室に呼ばれたアドリアンは眉根を寄せている。


「側妃殿下、大変申し上げにくいのですが、領地に工房を建てる予算は難しく……」


 あら、工房という言い方が良くなかったかしら。そんな大規模なものを私は想定していなかった。財政にゆとりがないのは分かっているからね。


「工房、と言うより作業場かしら?」


「作業場、ですか?」


 思わず問い返してしまったことに、アドリアンは慌てて口を閉じる。そんなことで不敬とか言わないから、もっと自由に発言して欲しいところね。まだそこまでの友好が築けていないから、仕方ないのかな。


「ええ。いずれは工房を建てたいとは思うけど、まずは作業場よ。特産となる物を研究するための場所は必要でしょう?」


「指示を頂ければ必要な人員を手配致しますが……」


「そうね。特産品として形になれば、領民たちにも手を貸してほしいと思うわ。でも、まずは私自身で色々と試してみたいのよ」


 アドリアンは目を見開いているわ。王族が直接あれこれするのは珍しいわよね。けれど、領地を運営していく上で、要になるものは自分で把握しておきたいの。

 これはわがままかしらね。


「かしこまりました」


 でも、アドリアンは頷いてくれた。まだ短い付き合いだけど、型にはめない方が良いと思われたのかな。


「近くに空き家があればそれを活用しても良いけど、この領主館内に作業場にできるところはあるかしら?」


「そうですね、ないこともないのですが、半地下になるかと……」


 まぁ応接室や客間じゃ難しいわよね。だからと言って王族に半地下を使わせるのは悩ましいのだろう。料理人やメイドが出入りするところだし。


「構わないわ。よろしくね」


 笑顔で伝えれば、もう頷くしかないの。今は負担に思うかもしれないけれど、きちんと成果を出して領地に還元していく心積もりよ。

 アドリアンが退室したところで、ファビオ様が首を傾げる。


「この場に私がいても良かったのですか?」


 直轄領の内部を見せたようなものだからね。元第二王子、公爵としても懸念に思うところではあるよね。

 でも、私は協力者だと思っているわ。


「ええ。お願いがありますの」


「何でしょう?」


「薬草の加工に詳しい者を、一人、派遣頂けないでしょうか?」


 既に領地内に派遣してもらっている人とは別によ。頼ってばかりで少し心苦しいところはあるけど、私の作業の補佐として専任の技術者が必要なの。

 ファビオ様は顎に手をあて、少し考えた様子。


「どういったことを考えているかお聞きしても?」


「もちろんですわ」


 即否定の言葉ではなくて安心したわ。結構無理を言っている自覚はあるからね。いずれブオナパルテ領にも利が出るようになるはずだけど、現時点は優秀な人員の引き抜きと言われても仕方ないもの。


「レケメデル領を領地として発展させていきたいのが、第一ですわ」


 立て直しの先に発展があるの。

 離縁するまでの二年でどこまでできるかは分からない。でも、その道筋はちゃんと作っておきたい。


「そのためには薬草以外の特産品が必要になりますわ」


 これはファビオ様も認識されているところね。そして、私が今特産品となる可能性があるものを提示していく。


 まずは北部で見つかった鉱物に閉じ込められた植物。

 次に南部ですでに飲める状態になっている薬草茶。

 そして湖の魚も活用できるのなら活用したい。


 候補は結構あるの。でも、他領にまで流通させるのには色々と問題もあるの。特に鉱物に関してはね。最初に目をつけたのに活用方法が全く定まっていないわ。その分、一番可能性が大きいものでもあるわ。けど今以上に調べるには、たぶん魔法使い等の外部の力が必要よ。特産品として形になるまでのお金がかかる事業だわ。


 そこで薬草茶よ。

 王族や貴族の舌にも耐えうる味のものがあるのだもの。流通すれば鉱物の方にも取り組んでいける目途が立つはずよ。その為にも加工技術が必要なの。レケメデル領内で賄えるなら一番だけど、視察した限りでは難しいだろう。私も薬草の知識が足りないわ。


「だから、私専任の技術者が欲しいのです」


 まっすぐにファビオ様の目を見つめる。

 やがて、笑みを浮かべてくださった。柔らかい。美しい緑の瞳だわ。


「分かりました。一人でよろしいですか?」


「ええ。とびきり優秀な人をお願い致します」


 私も笑顔を返す。

 もちろん無償で、という訳にはいかない。特産品として利益が出る状態になれば、ブオナパルテ領にも還元できる形になるよう、適切な契約が必要よ。きちんと書面にまとめなければね。

 でも、一先ず協力を得られる確約ができたのは嬉しいわ。


「ところで、魚はどうするのですか?」


 特産品になるかもしれない三つ目のものね。

 実のところ、可能性の話だけで、具体的にはまだ何も考えられていないの。


「まだ食べてもいないので……。一度、口にしてみてから詳しく検討しようと思いますわ」


「それが良いかもしれませんね」


「ちなみにファビオ様は食されたことはあるのですか?」


 ブオナパルテ領にも行商人が足を運んではいるようだけど、領主の口まで運ばれることはあるのかしら。


「美味しかったですよ」


 極上の笑顔で返されたわ。

 壁際にいるベルがごくりと喉を鳴らし、ディアの肘鉄をくらっているわ。

 私も是非食べてみよう。強く決意した。


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