第22幕 薬草茶は甘い
翌日、私たちは早速南部に足を運んだ。今回も念のために作業服スタイルよ。でも、今回は薬草畑ではなく、統括役に当たるマチルダの家に案内されたわ。周囲の家よりは気持ち大き目ではあるけど、扉を開ければすぐダイニングの村の家よ。木造なのも変わりない。腰掛けた椅子も木製の素朴なもの。
「あの、お越しくださり、ありがとうございます」
マチルダは相変わらず緊張した様子だけど、言葉遣いは丁寧ね。
「急に訪れて申し訳なかったわね。薬草採取の仕事に影響はなかったかしら」
「は、はい。大丈夫です。グループ組んで、回してますので」
「そうなのね、良かったわ」
薬草栽培の管理をきちんと行われているのね。曾祖父が土地を開墾したと言うし、昔からの慣習もあるのかもしれない。
「あ、えっと、お茶です」
お茶を出すタイミングを迷ったようにカップを並べていく。メイドがいるような家じゃないからね。
カップに注がれたのは、透き通るように明るい黄色のもの。
これは、紅茶かしら?
ちらりと改めて室内を見回してみるけど、紅茶を常備できるような暮らしには見えない。それは隣に座るファビオ様も同じようで、疑問を口にする。
「この村では紅茶の茶葉にも力を入れているのか?」
「い、いえ、紅茶なんて、とても。申し訳ございません、このようなお茶しかなく」
縮こまらせてしまったわ。
怒ったりしていないから安心してほしいと笑みを浮かべる。
「普段からよく飲んでいるものなの?」
「はい、薬草は、その、有り余っていますので」
薬草?
「これは薬草のお茶なの?」
「は、はい。その、カモミールの花の部分を使ったお茶です」
先日視察に来た時に、カモミールやミントがよく採れると言っていたわね。
そっとカップを手に取ってみる。りんごのような甘い香りがほのかにする。色味もそうだけど、いかにも薬草茶だった昨日のものとは随分違う。
一口飲んでみる。
……不味くない。苦味が全くない訳ではないけど、すっきりとした柔らかな味わいだわ。
これが、薬草のお茶?
「美味しいな」
ファビオ様が感嘆の声を漏らす。
ええ、本当に、素直に美味しいわ。でも、今まで流通していないわよね?
「このお茶はこの村でしか飲まれていないの?」
「どう、でしょうか。あ、でも他の村ではカモミールはあまり育てていないようで、お茶にまで回してないかもしれません」
こんなに美味しいのに?
この味なら、もっと普及していそうだけど……。不味い薬草茶を敢えて王族や公爵に出す意味はないだろうし、北部では育てるのが難しいのかしら。
「花を、そのまま湯につけているだけなので、その、保存期間もあんまり……」
なるほど。カモミールを採取して、花の部分をその日飲むお茶に使っているということね。
確かに保存期間が短いのでは、他領まで流通させるのは難しいわ。
でも、紅茶も生の葉を使っている訳ではないはず。
「花を乾燥させたりはしていないの?」
「そう、ですね。茎や葉よりは弱いですが、花も薬効が全くないこともないので、乾燥させた分は、薬に、回してます」
ちらりとファビオ様を見る。ブオナパルテ領にもカモミールの花の部分を使った薬は卸されているのだろうか?
「確か、花びらを使った薬もありましたが、やはり効き目が弱いようで幼い子供用に少しあるぐらいだったはずです」
「みんな、薬だと思っているし、それも効き目の小さい子供用の認識しかないということ?」
「薬をお茶にしようとは思わないでしょう」
「それは、そうですね」
「あの、何か、問題が……?」
花の部分をほとんど卸さずに村でお茶として消費していること。領地の財産を勝手に使っていると怒られるのか。そんな不安が垣間見える。
そのことは完全には否定できない。
でもね、それ以上に朗報なのよ。ただ不味いと思っていた薬草茶が、既に美味しく飲める状態になっているのだもの。
もちろん改善点はある。地産地消だけでなく、他の領地や他の国へ流通するためには花びらのままでは難しいわ。あくまでも薬草という認識を変える必要もあるだろう。
でも、美味しいの。
ちゃんと貴族の舌にも耐えうる味わいなのよ。
しかも、この村では溢れかえるほどに採取されているもの。
特産品になる可能性を秘めているわ。
「ありがとう、マチルダ」
「え?」
「私はこのお茶をレケメデル領の特産品の一つにしたいと思うの」
「この、お茶を、ですか?」
自分たちが普段飲んでいるもの。紅茶を買うお金はないからこその代替品でしかないと思っていたもの。
それが特産品になると言われても、ピンとこないのかもしれない。
「ええ、流通できるように整えていく必要はあるけれどね。花の部分も捨てずに残しておいてもらえるかしら?」
「あ、はい、分かりました……」
不安そうな顔に、私は笑みを向ける。
「もちろん必要な経費は払うし、家庭で消費する分は今まで通りで構わないわ」
「はい! かしこまりました!」
うん、明るい返事ね。自分たちの生活がより良いものになるかもしれない。その希望をこのまま育てていきたいわね。
「ファビオ様もご協力いただけると嬉しいですわ」
「もちろん、喜んで」
即答に安心する。
薬草の加工技術は、薬草茶づくりにもきっと役立つはずよ。そして、それはブオナパルテ領にとってもプラスとなる事業になるわ。
それにカモミール以外の薬草も、花の部分を使えば美味しい薬草茶が出来上がるのでは? 検討の余地はあるわよね。考えることは多い。
私はもう一口、カモミールのお茶で喉を潤した。




