第20幕 苦いものは苦い
ファビオ様との話し合いの後、北部の村に行くことになった。
例の鉱物について改めて確認しようとなったのよ。
ついでに薬草茶をどのように飲んでいるのか、どう煎じているのか、その辺りも見てみたいと思うわ。北部と南部の気候の違いも関係したりするのかしら? レケメデル領は大きな領ではないけど、山に近い北部は、南部よりも幾分気温が下がるように感じるの。
そう言えば、南部にも例の鉱物は出ないのだろうか。見つからないのか、廃棄しているだけなのか。案外、気温等の環境も影響しているのかも?
「あの、この通り集めときやした」
北部の村長が一回り小さくなったように見えるわ。
村に着いて早々、回収してもらっている鉱物を確認したい、と告げるとすごく恐縮されたような態度を取られた。私って怖い?
「ありがとう。鉱物の色は結構種類があるのね」
極力笑顔を心掛けたのだけど、何故だか更に縮こまられたわ。
うん、そばにはファビオ様もいるものね。側妃と公爵。村長からしたら、心臓に悪いことかもしれない。
私自身は、今回も長袖長ズボンの割と簡素なスタイルに着替えたのだけど……。周りはそうもいかない。一緒に付いてきているアドリアンやモーリス、侍女に護衛に、とどうしても大所帯になってしまう。親しみやすさとは程遠い。身軽に行動できないことは少し残念。安全のためでもあるから、仕方ないとは思うけどね。
「へぇ、その、川の上か下かでも変わるようでして」
「そうなの?」
「は、はい。小さい粒なんかは子供たちの玩具になったりもしとります」
「玩具?」
鉱物が?
疑問を浮かべた私に、村長は更に詳しく話してくれた。
単純に様々な色の鉱物を集めて楽しむ、というだけでなく、友達と交換し合ったりしてコレクションしたりしているそうだ。本当に村にとって特別な価値を見出せない綺麗なだけなものなのね。
伯爵領での様子を思い返してみれば、小さな子供は色んなものを集めたがっていたわ。虫やら落ち葉やら。それこそ道端の石ころでもいいのよ。綺麗な真ん丸の石とか人気よね。そういうのは川の近辺にあったりするから、水汲みの手伝いのついでに拾ってくる子もいたわ。
あとは鉱物同士をぶつけて硬さを競い合う陣取りゲームみたいなこともしているそうな。
物々交換も陣取りも村の子供の情操教育に必要なことなのかもね。
「商売として取り上げることになったら、子供たちが悲しむかしら」
それはちょっと心が痛む。
けど、村長さんは笑った。初めて自然な表情を見られたわ。
「ご心配はねぇかと思います。移り気なもんですから。小遣い稼ぎする子もいるやもしれません」
そうして、やがては商人として自立していけるだけの知識や経験が身に着いていくのは、村としても悪いことではないそうだ。店を構える商人というより行商人かしらね。
「そう言えば、湖で獲れた魚を漬けたものを売る行商人がいると聞いたことがあります」
今まで黙って聞いていたファビオ様が思い出したように口を開く。
なるほど、そんな行商人もいるのね。湖の魚。川や海とはまた違ったものなのだろうか。レケメデル領特有の個体であれば、これも特産品にできるかも? でも、湖だと獲れる量も限られるわよね。それこそ行商人として稼ぐのが精いっぱいなのかもしれない。
「薬草以外の商売もあるようで安心しましたわ」
特産品になるかは一先ず横に置いて微笑む。
そして、本日の本題であるところの鉱物を、一つ手に取る。片手に収まる程度。比較的大きい方かしら。別のものも手に取ってみる。こちらは人差し指ほどの大きさ。
「鉱物の中の植物も一種類という訳ではないのね」
「へぇ、この辺りで採れる薬草ばかりでありやすが、色んなのがある、ありますな」
ファビオ様も近くのものを一つ手に取り、陽に透かすようにして確認する。
美しい鉱物と美丈夫。絵になるわね。この絵をつけた箱に入れるだけで売れるんじゃないかと思えてしまう。絵も安いものではないし、現実的ではないか。中身は使い道の分からないただの鉱物だし。がっかりお土産になっちゃうわ。
「確か、ネイサン殿が薬効の抽出を試しているのだとか」
あ、ファビオ様ともちゃんと情報共有できているのね。その辺はネイサンも抜かりないらしい。
「ええ。とはいえこの黄褐色の鉱物の部分自体をどうにかできた訳ではないですし、薬効を高められる最適解も未知数ですわ」
「先は長いようですね」
「ええ」
お互い苦笑をこぼしてしまう。
村長の目が泳いでいるわ。否定的な反応ではないから安心して。ゆっくりと微笑めば、少し安堵した顔になる。
「そ、そう言えば薬草茶も興味があるとか。お持ちいたしやす」
「まぁ、ありがとう」
村長の家を訪れて最初に出されたのは紅茶だった。だから、薬草茶とはどんなものかしら、と尋ねていたのよ。偉い身分の人に出すものという意識がなかったみたいで、少し慌てさせてしまったわ。そうね、紅茶を買えない領民が飲むものという話だったし、こちらから言わなきゃ出さないわよね。
そうして出された薬草茶はお湯出ししただけのもののようだわ。色は薄い黄緑よ。紅茶の茶葉のようなこだわった製法がある訳でもないらしい。
目の前で淹れてくれた薬草茶を、まずは村長が飲んでくれる。毒はありません、というアピールね。ゆっくりと飲み干すのを確認してから、私もカップを手に取る。
香りは……うん、草だ。土臭くないだけマシなのだろうか。じっと見続けるのも失礼ね。一口飲んでみる。
うん、不味い!
もう一杯! とはならない味だわ。薬草だから、舌が痺れるだとかそういうことはないけど、薬なら許せてもお茶としてはね。貴族で飲む人はいないだろうな。
隣を見ればファビオ様も顔を顰めている。以前にも飲んだことはあるそうだけど、変わりはないようだ。不味いらしい。
でも、用意してもらった手前、一刀両断するのも気が引ける。
とはいえ雰囲気でダダ洩れだ。村長も苦笑いだ。
「癖になる、と言う奴もおりやすが、慣れねぇとお辛いでしょう」
新しい紅茶が用意されたわ。私は笑顔で受け取った。
鉱物も薬草茶も特産品になる要素があることは変わりない。魚も気になる。だけど、どれも商品として売るには前途多難すぎた。
紅茶の湯気の向こうの薬草茶は、どろりとして見えた。




