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側妃クラリッサは笑壺に入る  作者: くさき いつき


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第18幕 報告は僥倖

 ネイサンからもたらされた情報は、悩ましいものだった。


「それは確実なものなの?」


「僕の商会だけじゃなくて、他の商会も同様だからねぇ。確実だと思うよ?」


 無情な答えが返ってきた。

 でも、国全体で見れば悪いことじゃないのよ。レケメデル領においては深刻な問題というだけで。

 辺境伯領であるオグレース領からの薬草の国内供給量が増え始めている。

 うん、悪いことじゃないの。一つの領で薬草を独占することは、レケメデル領に何かあった時に致命的なことになるもの。側妃として、王族として歓迎すべきことよ。

 ただレケメデル領の状況がより悪くなっただけだ。


「早急に新しい特産が必要になるわね」


「と言ってもレケメデル領の主産業は薬草だからねぇ。今から何か育てる?」


「うーん、農地の空きってあるのかしら?」


 私たちは顔を見合わせて、溜め息をつく。

 再度、領の現状を把握し直した方が良さそうね。鉱物の中の植物と同じ薬草がどれくらい自生しているのかも、併せて確認しなくちゃね。領民からの陳情もより事細かく聞くことで、思わぬ収穫もあるかもしれない。


 やるべきことはたくさんあるわ。


 悲観して立ち止まっているなんてもったいない。今の段階で他領の情報を把握できたことを僥倖と思いましょう。


「ありがとう、ネイサン。これからも迷惑にならない範囲で、色々と教えてくれると嬉しいわ」


「クララの役に立てるのは僕も嬉しいから、気にしなくていいよぉ」


 ふわりとした態度に和む。

 紅茶を一口飲めば、すっかり気持ちも落ち着いたわ。


「しばらくは慌ただしい状況になるでしょうけど、またお茶もできると良いわね」


「そうだねぇ」


 あ、そうだわ。ファビオ様から手紙が届いていたのよ。ネイサンも聞いているかしら?


「そのうち、ファビオ様を招待しようと思うのよ。ネイサンからも伝えたいことはある?」


「僕から?」


 ネイサンは意外そうに首を傾げる。

 あれ、鉱物に閉じ込められた植物について、一緒に調べていこうと話したわよね。


「ブオナパルテ公爵殿下からお話があれば、喜んで」


 ちょっと引っ掛かる言い方だけど、まぁ、子爵家三男坊の現商人なのだし、元第二王子で現公爵に対して礼儀を弁えて距離を置くのは、本来間違っていないのよね。ネイサンの態度があれだったから違和感あるだけで。


 いや、ファビオ様もネイサンにはもう慣れてしまっているかも?


 身分差はあるし、性格も態度も真逆に見える二人だけど、だからこそ良い関係を築けると良いわね。違った視点で物事を見ることができる人がいるのは大事なことよ。

 うん、まぁね、ファビオ様のネイサンを見る目がたまに冷たくなっていた気もするけどね、これからだからね。協力体制を取るのなら仲良くしたいものよ。


 悩ましいことはあれど、お茶は美味しく頂くことができたわ。

 ネイサンは、商会の仕事があるため報告を終えて早々に帰途についた。

 忙しいなか、来てくれたのよね。ありがたいわ。


「クララ、部屋の確認、良いかしら?」


 一息つこうかな、と思ったらディアが声をかけてきた。


「あら、もう作業は終わったの?」


「ええ。後はクララの確認が必要なだけでしてよ」


 荷物自体はそんなに多くなかったものね。王族としては可愛らしい量よ。貧相と思われたら問題だけど、大丈夫でしょう。たぶん。この領主館もそんなに大きな建物ではないし。

 実際、確認してみた部屋は、綺麗に整えられていたわ。


「隣は、ダニエラの控えの部屋ね」


 衣裳部屋の奥の扉を開けると専属メイド用の部屋だった。さほど広くはないけど、ダニエラは充分だと言う。


「部屋は寝て着替えるだけですもの。ずっとお傍にいますから問題ありませんよ」


「そう?」


 まぁ、確かに大体傍にいるし、ついて来られない場所に行っている間は部屋を整えてくれているものね。


「ベルとディアの部屋はどう?」


「すぐ隣だよ。いつでも駆け付けられるよ」


 ベルはにっこり笑顔だ。侍女としても貴族令嬢としても駆けては駄目だと思うけど、護衛騎士の役割も兼ねているからね。気にしないでおこう。


「ディアも大丈夫?」


「ええ。大丈夫よ。でも、自室よりも図書室の方が気になるわね。あまり蔵書は多くないようでしてよ」


 ディアマンテ宮やペリドート宮に比べればね。あくまでも領主館だもの。領地の歴代の資料を保管しておく場所の意味合いの方が大きいと思う。


「そうねぇ、増築する必要はあるかしら?」


「今後、例の鉱物についてどれだけ資料を収集する必要があるかによるかもしれませんわ。新しい特産とするなら機密漏洩防止のために、別途資料庫を用意した方が無難かも」


 懸念する部分は、最もだと思う。

 レケメデル領の新しい基幹事業として育てていくなら必要なことよね。


「そうね、あとは研究室も必要かしら?」


「研究室?」


 ベルが首を傾げるけど、ディアは納得した顔だ。


「あった方が良いかもしれませんわね。薬になるのか宝石になるのか、まだ分からないけど、どちらにしても必要になるでしょうね」


 新しい資料庫と研究室。つまりは新たに工房を建てないといけない訳だ。


「またお金がかかるわねぇ」


 思わず溜め息が出た。

 でも、レケメデル領の発展のためにも必要なことよね。問題は例の鉱物の詳細がまだ判明していないことよ。工房を建てるにしても、活用方法によって内装や設備は変わるもの。

 優先事項をきちんと判断していかないといけないわ。

 アドリアンとは別の補佐も立てる必要がでてくる。人事権って臨時で来ている側妃にもあるのかしら?

 考えることはいっぱいね。

 でも、それは苦悩ではなく期待だった。


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