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側妃クラリッサは笑壺に入る  作者: くさき いつき


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第15幕 権力者は親

 王太子の正妃殿下の言葉は重い。改めて実感するわ。

 本来、側妃が王宮を離れて移住するなんてできない。子を成す役割を果たした後ならまだしもね。

 でも、マリアンヌ様の進言のお陰で、レケメデル領に住む算段がつきそうなのよ。その前に、一つ、大きすぎる壁を乗り越えないといけないけどね。

 私はにっこりと笑みを浮かべて向かいに座る方々を見る。


 陛下と王妃殿下。


 こうして面と向かってお話するのは婚姻式後の晩餐会以来ね。その時は和やかに終えることができたけど、今回はどうかしら。緊張で思わずソファに深く座りこんでしまいそうよ。気をつけなくちゃ。


「本日はお時間を頂きありがとう存じます」


「わたくしも話せて嬉しいわ。ペリドート宮での生活には慣れたかしら」


 にこやか。だけど、いきなり釘を刺された気分よ。慣れたか慣れていないかで言えば、すっかり日常ではあるの。アウジリオ様がいないことも含めて。

 でも、ここで慣れたとうっかり言ってしまえば、ペリドート宮から出る機会をなくしてしまいそうよ。


「皆、よくしてくれているお陰で、つつがなく暮らせていますわ」


「良かったわ」


 ふふふ、と笑みをこぼす。


「アウジリオとはどうかな」


 陛下は空気を読めなかったようだ。笑顔が固まってしまったわ。

 だけど、これはきっと助け舟よ。ここで笑って流してはいけない。移住が、領地経営の夢が遠のく。


「この二ヶ月ほどの間でお会いしたのは三回だけなので、あいにく何もありませんわ」


 子ができるようなことはもちろん、それ以前の夫婦らしい交流も皆無だもの。三回の内一回は正式なものではなく乱入された結果だしね。

 側妃として役割を果たせていない報告なので、不甲斐なさはあるけど、同時に清々しくもある。公式に訴えることができたのだもの。


「そうか。交流は難しそうか」


 溜め息交じりの確認。陛下と王妃殿下だって把握されているわよね。


「申し訳ございません」


 深く頭を下げる。すぐに面を上げるよう、声が掛かったわ。


「申し訳ないのはこちらもよ。アウジリオの執着を見誤ってしまったわ」


 頭こそ下げられないものの、王妃殿下の言葉は王族としてではなく親として謝意を示されたものだった。

 そして、親をして執着と表現されるアウジリオ様のマリアンヌ様への想い。純愛、溺愛と言えば聞こえは良いかもしれないけど、結局は執着なのよね。王族としての責務を重視するのなら、側妃と建設的な関係を築くべきでしょう。

 マリアンヌ様はきちんと正妃として側妃を認めて行動されていたわ。今では友人だと思ってくださっている。まぁ、そこはアウジリオ様が純愛を貫いたから、という部分もあるからね。アウジリオ様が全面的に悪いとも言えないところよ。


「アウジリオ様は私とは何もありませんが、マリアンヌ様とはより仲が深まってはいます」


 マリアンヌ様は、ちょっとお疲れの状態だけど……。呆れたりはあっても、まだ嫌悪はされていないはず。


「きっと継嗣の問題も解決しますわ」


 希望的観測でしかないけどね。側妃を迎えたことでお二人の子作りが活発になったのなら、私の存在も全く無駄ではなかったのだろう。たぶん。


「その日が来るよう、わたくしたちも配慮しましょう」


 その配慮が二人目、三人目の側妃にならないようにしないとね。マリアンヌ様の負担を減らせることがないか考えていきたいわ。

 私たちはタイミングを見計らったように、同時に紅茶を一口飲んだ。

 仕切り直しね。


「そなた、マリアンヌから話があったが、レケメデル領に移住を検討しているのは真か」


 陛下からの確認。本日の本題ね。


「はい。側妃としての役目は果たせませんでしたが、王族としての責務は果たしたいと考えております」


「レケメデル領で不思議な鉱物が見つかったとか」


 昔からあったみたいだけどね。王家に報告がいったタイミングで発見とはなるのよね。


「ええ。活用はまだ検討段階ですが、薬草とは別の特産になればと」


「そうか、新たな役割を自ら探し出したのだな」


「はい、お役に立ちたいと思います」


 微笑めば、もうお二人とも積極的に反対の意志は示されなかった。


「ファビオとも協力していくのでしたね」


 王妃殿下の顔が母親になる。ご自身が生した子ではなくても、きちんと息子だと思われているのだわ。一緒に暮らした時間があるお陰かしら。


「はい。レケメデル領の発展のために、良い関係を築いていきたいと思います」


「あの子も、色々と気苦労させてしまった。どうか、支えてやってくれ」


 陛下も父親の顔ね。

 王族であっても子を思う気持ちは変わらないのだと感じる。


 私がファビオ様に対してできることは多くはないと思うけど……。隣領になるのだし、共に発展していけるようにしたいわね。

 あとは……婚約者?

 ファビオ様は伴侶を望まれているのかは分からないけど、公爵領の発展にも後継者は必要になるのよね。

 ベルとディアはどうかしら。身近なところで考えてみたけど、あまりしっくりとはこなかった。それなりに仲睦まじい夫婦にはなれるかもしれないけど、アウジリオ様の執着具合を見た後だと何か違う。相性って難しいわね。


 陛下と王妃殿下とのお茶会は、思いの外、穏やかに終えることができた。

 移住の許可も下りたわ。

 いい感じに王宮で過ごせていると、安堵した。

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