第13幕 植物は宝庫
レケメデル領の北側は山だ。
木々が生い茂っているので、薬草畑とは異なる薬草も手に入る。ここもレケメデル領を支える大切な場所ね。ただ野生の動物も多いので、狩りの腕に自信がないと暮らしていくのは難しい。
それに加えて、人が住める土地はあまり広くない。南側に比べると、あまり発展している雰囲気はない所よ。
馬車も通りづらいから、途中からは歩きになってしまったわ。予め聞いていたから、今日も長袖長ズボンスタイルよ。
「いやぁ、北部はねぇ、南部とはまた違った面白いものがあるんだよぉ」
そんな土地に何故かネイサンがついてきているわ。いや、案内人を買って出てくれたからなんだけど。私の友人だし、信頼はできるけど。
王族の一行にサクッと混ざる商人って……。こういう機を見るに敏なところは商人として大切よね。子爵家の三男坊をしていた頃よりも、活き活きとしているわ。
「資料では特に目新しいものは上がっていなかったけど、商品として確立していないものがあるのかしら?」
「そうだねぇ。確立していないというか、持て余しているというか?」
はっきりとしない答えね。前を歩くネイサンの背中は困っている雰囲気はない。どこか楽しんでいる様子もある。私が関わることで、新しい商売のネタができると思っているのかな。
隣を歩くファビオ様を見遣ると、真剣な面持ちだった。
「何か思い当たるものがあるのでしょうか?」
「いや、領が割譲される際にも何か陳情が上がっていただろうかと思い返していたのですが、こちらにも届いていなかったかと」
「そうなのですね」
アドリアンも何か隠している様子はなかった。
だのにネイサンが把握しているもの。
山と森。少し離れた場所に湖。自然豊かな土地だし、何かが出てきてもおかしくはないわよね。
そして、それは村長が手に持ってきたもので現実となる。
「いやぁ、綺麗っちゃ綺麗なんすが、それだけですし、中身を取り出せもしねぇもんで。これが鉄や銅とかなら良かったんですがねぇ」
初老と思しき村長は弱り切ったように話してくれる。皺の多い無骨な彼の手の上にあるのは、鉱物に閉じ込められた植物。
美しくも幻想的。
鉱石が出る土地として名を馳せている場所ではないはずだけど……。直轄領で王家が把握していないなんてことあるのかしら。
ふと案内された部屋を見回す。特に飾り立てた様子もない。質素と言えば清貧を重んじているようにも聞こえるけれど、平たく言えば貧しさを隠せてはいない。村長の家でさえ。レケメデル領の主産業は薬草。収穫量が少ない北部では仕方ないとはいえ、早急に改善策を講じる必要がある場所だわ。
ちらりとファビオ様を確認する。
下手に権力を持たないように貴族たちの横やりで領地を切り取られた形になっているけど、その貴族たちは把握していたのだろうか。
活かせるものは何もない、と捨て置いたのかしら。
でも、可能性はある。
もし、この鉱物に閉じ込められた植物にも薬効があるのなら。あるいは宝石としての価値をつけることができるのなら。
「この鉱物はたくさん採れるのかしら」
「へぇ、森はコケが生い茂ってるとこも多いんですが、その近くからよく出てきます。けど、何も加工もできねぇもんでして。土地は硬いんで、開墾もままならず」
薬草地として開拓するのも骨が折れる、と。
「一つ、良いだろうか?」
黙って話を聞いていたファビオ様は、不意に村長に話しかける。村長の顔が青くなっているわ。特に威圧的な雰囲気はないけど、高貴さが滲み出るからかしら。私は、ほら、張りぼてだからね。
「ど、どうぞ、こちらです」
それでも、不敬にならないようにと応える村長は、しっかりとした人だわ。指先が震えているけども。
「少し試させて頂きます」
鉱物に閉じ込められた植物を受け取ったファビオ様が、私に確認を取る。試すって何だろう? と思いつつ頷く。悪いことにはならないでしょう。
と、思ったら、ファビオ様の右手から炎が吹き上げる。部屋を明るくする炎に、ドキリとする。けれど、炎は精密にコントロールされているようで、勢いはあるものの鉱物を包む以上に広がる様子はないわ。火の魔法の扱いに長けたベルも、目を見張っているのが見える。さすがは王族の血筋、ということかしら。
「鉱物が溶けない?」
「そのようですね」
私の気付きに、ファビオ様も頷く。すると、炎が一瞬で消えて、今度は鉱物を覆い隠すように氷で包まれる。ひんやりとした空気が私にも伝わってくるわ。
「……壊れない」
急激に冷やされたはずなのに、鉱物はもちろん、その中の植物にもまるで影響はないようで形を保ったままだ。再び出した炎で氷を溶かされたけど、鉱物は変わらずファビオ様の右手にあるのだ。
「確かに加工は難しそうですね」
ちょっと心臓には悪かったけど、とても分かりやすくはあった。ファビオ様の魔力でもどうにもならないとなると、領民たちでは対処のしようもなかっただろう。
「え、ええ、わしらでもどうしようもなく」
「そうなのね、貴重な話をありがとう」
動揺していた様子の村長は、私の言葉に安堵したような笑みをこぼす。
突然商人に連れられて来た側妃と公爵。村長の心臓に悪い組み合わせだったわよね。更には強力な魔法を目の当たりにすることになったのだから。
でも、有用な物であるのなら、今回で終わりとはならないわ。
「活用できないか私の方でも考えてみますわ。見つけたら、出来る限り集めておいてもらえると嬉しいわ」
「へ、へぇ、かしこまりました」
安堵から一転、緊張させてしまったわね。
実際に活用できるかどうかは、まだ全然分からないけどね。レケメデル領の活路になれば良いと思うのよ。
それから村を見て回ったけど、他に目新しいものはなかったわ。南部に比べれば、やはり生活の苦しさが際立つ。狩りをした毛皮なんかはあるけど、領地で冬を越すものに使えはしても、領外のやり取りに使えるほどの量の見込みはなさそうだわ。かと言って希少性で売るにも難しそう。それこそオグレース領辺りに行けばたくさん手に入るもの。下手に縄張りを犯してもロクなことにはならない。
馬車に乗り込むと、当然のようにファビオ様とネイサンと一緒になったわ。護衛も兼ねているベルが、何故って顔になっているわ。
側妃、公爵、商人。よく分からない組み合わせよ。
でも、ネイサンに聞きたいことはあったし、丁度良いわ。
「ネイサンはどう活かせると考えているの?」
「そうだねぇ、あれって多分、太古のものだよね? 薬効すごそうじゃない? とは思うんだけどねぇ、一介の商人じゃ難しそうだよ」
飄々としているけど、私を連れていけば解決の糸口があると思っていたのよね。
「ファビオ様はいかがですか」
「魔法を専門に扱う魔法使いならあるいは、と思いますが、鉱物は専門外なものでして」
困ったような笑み。ファビオ様が試したのは、単純に言えば熱して冷ましただけだ。この鉱物に有用なのは別の魔法の可能性はある。
でも、私だって鉱物は専門外だ。
太古のものなら、昔から、それこそブオナパルテ領が直轄領だった頃からあったものよ。王族は今までも目にしたことは本当になかったのかしら。目にした上で何もしてこなかったのかしら。試して、かつ諦めたのか。
あるいはレケメデル領は薬草地。その固定観念が邪魔をしたのか。
王宮の図書室に何か資料が残っていないかしら。
「一先ず調べてみますわ」
結果、王族が動くべき判断が下れば、私がレケメデル領に移住する権利ももぎ取れるはずだわ。そうすれば魔法使いへの打診もしやすくなるはず。
「商品化の際には是非御贔屓に、側妃殿下!」
こんな時だけ王族扱いなのね。
調子の良いネイサンの言葉に、ちょっとだけ肩の力が抜けた。その分、ファビオ様から叱責が飛んだ際には、肩を持ってあげましょう。




