第七話 気付いたのは私じゃなかった
自分の気持ちほど、自分では気づけないものなのかもしれない。
いつも隣にいる誰かの方が、先に見つけてしまうことがある。
「柚。」
帰りの準備をしていると、莉央が私の机の横にやってきた。
「なに?」
「最近さ。」
莉央が少しだけ笑う。
「神崎くんのこと、よく見てない?」
「えっ。」
思わず声が大きくなる。
「み、見てないよ。」
「そう?」
莉央はいたずらっぽく笑った。
「今日も昼休み、神崎くんが走ってるところ見てたじゃん。」
「それは……。」
言葉に詰まる。
確かに見ていた。
でも。
「だって、転校してきたばっかりだし。」
私は慌てて言う。
「どんな子なのかなって思っただけ。」
莉央は「ふーん」と言いながら、にやっと笑った。
「そっか。」
「なにその顔。」
「別にー。」
そう言って莉央は笑った。
私は少しだけ頬が熱くなる。
でも、本当にわからなかった。
どうして莉央がそんな顔をするのか。
どうして湊くんのことを考えると、少しだけ胸が変になるのか。
その日の放課後。
靴箱で靴を履き替えていると、外から声が聞こえた。
「湊!」
大和の声。
見ると、校庭の方で大和が手を振っていた。
「明日もサッカーやろうぜ!」
湊くんは少し離れた場所でランドセルを背負いながら、小さく手を上げる。
「うん。」
短い返事。
最初に見た時の湊くんは、少し遠い人に見えた。
淡々とみんなの質問に答えていて。
何を考えているかわからなくて。
でも今は。
少しずつ笑うようになって。
少しずつ話すようになって。
少しずつ、この教室に馴染んでいる。
「柚。」
莉央が隣に立つ。
「なに?」
「嬉しそう。」
「え?」
「柚が。」
私は慌てて首を振った。
「そんなことないよ。」
莉央は笑うだけだった。
帰り道。
私は何度も考えていた。
湊くんが笑ったこと。
名前を呼んでくれたこと。
ありがとうって言ってくれたこと。
でも。
その時の私はまだ知らなかった。
この小さな「気になる」が。
何年経っても消えない、大切な気持ちになるなんて。




