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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第三十三話 冬のある日

好きな人に気持ちを伝える日。

昔は、言えない想いを小さな箱に込めていた。

今は、ちゃんと言葉にできる。



バレンタインの日。


私は少しだけ緊張していた。


何年も前。


小学生だった頃も。


同じように緊張していた。



小さな袋を握りしめて。


渡すタイミングをずっと考えて。


結局。


「はい。」


それだけしか言えなかった。



今は違う。


隣にいる人は。


もう「好きだけど言えない相手」じゃない。


大切な人。


恋人。



「湊くん。」

「ん?」


待ち合わせ場所で名前を呼ぶ。


昔と同じ呼び方。


でも。

込める気持ちは変わった。



「これ。」


チョコを渡す。


湊くんは受け取って笑った。


「ありがとう。」


その笑顔を見て。


昔の記憶が蘇る。



「毎年、ありがとうって言ってくれてたよね。」


思わず言う。


湊くんが少し驚く。


「覚えてる。」

「覚えてるの?」

「うん。」



湊くんは箱を見ながら笑う。


「小学生の頃も、もらった。」

「……うん。」

「嬉しかった。」



少しだけ間があく。


「でも。」


湊くんが続ける。


「あの時は、柚がどんな気持ちでくれてたのか、全部は分かってなかった。」



胸が熱くなる。


「今は?」


聞く。


湊くんは迷わなかった。


「分かるよ。」



静かな声。


でも。

ちゃんと届く。


「今は、俺も同じ気持ちだから。」



涙が出そうになる。


小学生の頃。


好きだった人に渡したチョコ。


届いていたのか分からなかった気持ち。



何年も経って。


遠回りをして。


今。


ちゃんと届いている。



「柚。」

「ん?」

「これからも。」


湊くんが笑う。


「毎年、隣にいてほしい。」



昔なら。


その言葉だけで何も言えなくなっていた。


でも今は笑って答えられる。



「うん。」


「私も。」



帰り道。


昔と同じ街を歩く。


でも。


もう迷わない。



小学生の頃。


言葉にできなかった好き。


離れてしまった時間。


再会して、もう一度見つけた気持ち。



全部があったから。


今がある。



あの日。


勇気を出して伝えた言葉。


「……ここ。」


そこから始まった関係は。


長い時間を越えて。


今。


「これからも一緒にいよう」


という約束になった。



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