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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第三十一話 恋人になった日々

関係が変わったからといって、人は急には変われない。

でも、同じ時間の中に、小さな幸せが増えていく。



付き合い始めてから。

私たちは、相変わらずだった。



「おはよう。」


朝の短いメッセージ。


「今日忙しい?」


仕事終わりの連絡。


「今度、ご飯行こう。」


そんな何気ないやり取り。



昔の私なら。

湊くんから連絡が来るだけで、一日中嬉しかったと思う。


今は。

嬉しいだけじゃない。


安心する。


この人が自分の隣にいることを、ちゃんと感じられる。



ある休日。


二人で買い物に出かけた。


特別な場所じゃない。


ただ街を歩いて。


気になるお店に入って。


疲れたらカフェで休む。


そんな時間。



「昔と変わらないね。」


私が言う。


湊くんが笑う。


「そう?」

「うん。」

「どこが?」


少し考える。


「一緒にいると落ち着くところ。」



湊くんは少し照れたように目をそらした。


昔なら。

そんな表情を見ることはなかった。


いつも余裕があって。

何でもできる人に見えていた。


でも今は。

私だけが知っている顔がある。



「柚。」

「ん?」

「俺さ。」


湊くんが少し迷う。


「付き合ってからの方が、柚のこと好きになってる気がする。」



胸が温かくなる。


「どういうこと?」


聞くと。


湊くんは笑った。


「昔は、優しい子だなって思ってた。」


「でも今は。」


少し間を置いて。


「頑張ってるところも、弱いところも知ってるから。」



言葉が出なかった。


好きになる理由は。


大きな出来事じゃない。


毎日の小さな瞬間。



帰り道。


手を繋いで歩く。


小学生の頃にはできなかったこと。


でも。

不思議と一番嬉しいのは、手を繋げることじゃなかった。



昔から知っている人が。


今も隣にいること。


離れていた時間を越えて。


また出会えたこと。


それが一番幸せだった。



「また来ようね。」


私が言う。


「うん。」


湊くんが答える。



昔の「またね」は。


次に会えるか分からない約束だった。


今の「また来ようね」は。


未来を一緒に想像できる約束だった。

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