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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第三話 給食の時間

人を好きになった瞬間は覚えていても、

好きになられた瞬間は、自分では知らない。


四時間目が終わるチャイムが鳴ると、教室は一気に明るい声であふれた。


「給食だー!」

「今日、からあげだよ!」


給食当番の子たちが白衣に着替え、机を運ぶ音が教室中に響く。


私は莉央と机をくっつけながら、なんとなく後ろを気にしていた。

湊くんは先生に教えてもらいながら、ぎこちなく机を動かしている。

転校初日だもん。

わからないことばかりだよね。

そんなことを思うだけで、なんだか胸がくすぐったかった。


「いただきます!」


みんなの声が重なる。

私はお盆の上の牛乳パックを手に取った。

いつものように角をつまんで開く。


そのとき。

後ろから、小さな声が聞こえた。


「……あれ。」


私はそっと振り向く。


湊くんが牛乳パックを見つめ、何度も開けようとしていた。

角をつまんでも、うまく開かない。

反対側を引っ張ってみても、やっぱり開かない。

前の学校とは違う牛乳パックなのかもしれない。


どうしよう。

教えてあげたい。


でも、まだ一度も話したことがない。

急に話しかけたら変かな。


私は牛乳パックを持ったまま、小さく息を吸った。

くるりと後ろを向く。


「……ここ。」


自分の牛乳パックを少し持ち上げて、角を指さす。

言葉は、それだけ。


湊くんは私の手元を見て、小さくうなずいた。

同じように角をつまんで、ゆっくり開く。

ぺりっ。

きれいな音がした。


「あ、開いた。」 


その声に、私は思わず笑ってしまう。

湊くんも少しだけ笑った。


「ありがとう。」


たった一言。

それだけだった。


「うん。」


私はそれだけ返して、慌てて前を向く。

なんだか顔が熱い。

給食を食べ始めても、落ち着かなかった。

からあげを口に入れても。

スープを飲んでも。

耳の奥では、さっきの「ありがとう」が何度も聞こえる。


その日の給食の味は覚えていない。

でも、湊くんが初めて私に笑ってくれたことだけは、今でもちゃんと覚えている。


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