第二話 休み時間
好きになる理由なんて、あとからいくらでも見つけられる。
でも、好きになった瞬間だけは、いつ思い返しても理由なんてなかった。
一時間目が終わるチャイムが鳴ると、教室は一気ににぎやかになった。
「神崎くん!」
「ねぇねぇ!」
「前の学校ってどこ?」
あっという間に。
湊くんの机の周りに人だかりができる。
男の子も女の子も関係なく。
みんな転校生が気になって仕方ないみたいだった。
私は席に座ったまま。
筆箱を開けたり閉めたりしていた。
本当は、私だって気になる。
でも、輪の中に入る勇気なんてなかった。
「柚。」
隣から莉央が肘でつついてくる。
「行こ!」
「え?」
「神崎くんのとこ!」
「え、いいよ……。」
「なんで?」
「なんとなく。」
莉央は不思議そうな顔をした。
「転校生だよ? 話しかけたいじゃん。」
私は笑ってごまかした。
「莉央、行ってきなよ。」
「じゃあ、一緒に!」
「私はいいよ。」
その一言を言うだけで精一杯だった。
莉央は「変なのー。」と笑いながら、みんなの輪の中へ走っていった。
私はその背中を見送る。
湊くんは質問されるたびに、
「うん。」
「そう。」
「違うよ。」
短く答えていた。
決して冷たいわけじゃない。
ちゃんと相手の目を見て話している。
でも、自分からたくさん話すタイプじゃないんだ。
そんなことが、少し見ているだけでなんとなくわかった。
そのときだった。
ふいに、湊くんが顔を上げた。
目が合う。
ほんの一瞬。
それだけだった。
私は慌てて目をそらして、机の上の連絡帳を見つめた。
心臓がどきどきする。
変だな。
走ったわけでもないのに。
「柚ー!」
廊下から莉央が大きく手を振る。
「鬼ごっこしよ!」
「うん!」
私は立ち上がって教室を飛び出した。
走るのは好きだった。
笑うのも好きだった。
友達と遊ぶのも好きだった。
なのに。
教室を出る前に、もう一度だけ振り返ってしまった。
湊くんは、まだみんなに囲まれていた。
その日、初めて目が合った。
たったそれだけの出来事なのに。
その日の夜、お母さんに言った言葉は、朝とは少しだけ違っていた。
「今日ね、転校生が来たの。」
「へぇ。どんな子だった?」
私は少しだけ考えてから、小さく笑った。
「……なんかね、気になる子。」




