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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第一話 春風と転校生

初恋なんて、誰にでもある。

でも、十八年も続く初恋は、そう多くないと思う。


春になると、あの日のことを思い出す。

校庭に咲いていた桜。

風が吹くたび、花びらが砂場まで運ばれてきて、休み時間になるとみんなで拾って遊んでいた。


小学4年生。

10歳だった私には、まだ「初恋」なんて言葉は少し難しかった。

だから、あの日の気持ちを説明するなら、きっとこんな言葉になる。


――あの子、なんだか気になる。


それが、すべての始まりだった。



「みんなー、席について。」

朝の教室はいつもにぎやかだった。

ランドセルを机の横に掛ける音。

友達を呼ぶ声。

昨日見たテレビの話で笑っている子。

窓から入る春の風がカーテンをふわりと揺らした。

私、木下 柚は、隣の席の莉央と話をしながら、連絡帳を机の上に出していた。


すると先生が教卓の前で手を叩いた。

「今日は、新しいお友達を紹介します。」

教室が一気に静かになる。

でも、その静けさはほんの一瞬だった。


「男の子かな?」

「どこから来たんだろう。」

「転校生だって!」

あちこちから小さな声が聞こえてくる。

私もなんとなく教室のドアを見つめた。


ガラッ。

ゆっくりとドアが開く。

先生の後ろから、一人の男の子が入ってきた。

白いTシャツ。

紺色のハーフパンツ。

少し日に焼けた膝。

真っ白な上履き。

どこにでもいそうな男の子なのに、不思議と目が離せなかった。


「自己紹介、お願いね。」

先生が優しく言う。

男の子は小さくうなずいた。

「神崎 湊です。よろしくお願いします。」

それだけだった。

名前を言って、軽く頭を下げる。

たったそれだけ。


でも教室の空気が少しだけ変わった気がした。

「かっこいい……。」

誰かが小さくつぶやいた。

何人かの女の子が顔を見合わせて笑う。

私は何も言えなかった。

ただ、もう一度だけ湊くんを見たいと思ってしまった。


「神崎くんの席は……」

先生が教室を見回す。

「木下さんの後ろね。」

「えっ。」

思わず声が出た。

すぐに口を押さえる。


周りの子がくすくす笑って、先生も少し笑った。

「どうしたの、木下さん。」

「な、なんでもないです。」

慌てて首を振る。

心臓がどきどきしている。

どうしてなのか、そのときの私はまだ知らなかった。



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