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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第二十九話 ……ここ。

言えなかった言葉は、時間が経っても消えない。

ただ、伝えるタイミングを待っているだけなのかもしれない。



その日は、久しぶりにあの公園に来た。


小学生の頃。

何度も遊んだ場所。


ランドセルを背負って歩いた道。

何でもない話をして笑った場所。



「懐かしいね。」

私が言う。


「うん。」

湊くんも頷く。


でも。

昔とは違う。


隣にいる人は同じなのに。

私たちはもう、あの頃の子供じゃない。



夕方の公園。


人は少なかった。

風が少し冷たい。


ベンチに座って、しばらく話をした。


仕事のこと。

最近あったこと。

これからのこと。



「柚。」


名前を呼ばれる。


昔から何度も聞いた声。


でも。

今日は少し違って聞こえた。


「なに?」


振り向く。


湊くんは少しだけ迷っていた。



「俺さ。」


一度、息を吸う。


「昔から柚のこと、大切だった。」


心臓が跳ねる。


「でも。」


湊くんは続ける。


「昔の好きと、今の好きは違うと思ってる。」



静かな公園。


時計の音も。


風の音も。


全部聞こえる気がした。



「小学生の頃。」


湊くんが笑う。


「柚は、俺にとって初めて安心できる人だった。」

「転校してきて、不安だった時に。」

「何も言わずに助けてくれた。」



その話を聞いて。


胸が熱くなる。


あの日のこと。


私にとっては小さな出来事だった。


でも。

湊くんにとっては違った。



「でも今は。」


湊くんを見る。


真剣な目。


「昔の思い出が大切だからじゃない。」


「今の柚が好き。」



涙が出そうになった。


ずっと聞きたかった言葉。


でも。

自分からは聞けなかった言葉。



「私も。」


声が少し震える。


「湊くんのこと、昔から好きだった。」


「でも。」


少し笑う。


「今の湊くんだから、もっと好きになった。」



湊くんが笑った。


小学生の頃に見た笑顔と。


少しだけ似ていた。


でも。

今は違う。


大人になった湊くんの笑顔だった。



「長かったね。」


私が言う。


「うん。」


湊も笑う。


「本当に。」



帰り道。


昔と同じ道を歩く。


でも。


昔とは違う。


隣にいる意味が変わった。



小学生の頃。


言えなかった気持ち。


大人になった今。


やっと伝えられた。



あの日。


「……ここ。」


たった一言から始まった関係は。


長い時間を越えて。


やっと新しい一歩を踏み出した。

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