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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第二十八話 特別な約束

昔できなかったことを、今ならできる。

時間が戻るわけじゃない。

でも、もう一度始めることはできる。



「柚。」


湊くんから連絡が来たのは、平日の夜だった。


『今度の日曜日、空いてる?』


最近では珍しくない連絡。


でも。

なぜか少しだけ緊張する。


『空いてるよ』


返信すると。

すぐに返事が来た。


『行きたい場所がある。』



日曜日。


待ち合わせ場所に着くと。

湊くんは少し懐かしそうに笑った。


「覚えてる?」

「え?」

「この辺。」


周りを見る。


そこには、昔よく歩いた街並みがあった。



「小学生の頃さ。」

湊くんが言う。


「柚と行きたい場所、いっぱいあったんだよね。」


驚いた。


「そうなの?」

「うん。」


でも。

小学生だった私たちには。

行ける場所なんて限られていた。


学校。

公園。

近所の道。


それだけで十分楽しかった。



「今なら。」


湊くんが続ける。


「もっと色んなところ行ける。」


その言葉に。


胸が温かくなる。



歩きながら。

昔話をする。


あの時の先生。

クラスのこと。

卒業式の日。

離れてしまった日のこと。


笑いながら話す。


でも。

不思議だった。


昔の話をしているのに。

気持ちは過去に戻っていない。



「柚。」

「ん?」


湊くんが立ち止まる。


少し真剣な顔。


「俺さ。」


一瞬。


空気が変わる。



「柚といると、落ち着く。」


予想していなかった言葉。


「昔から知ってるから、じゃなくて。」


湊くんは続ける。


「今の柚だから。」



胸がいっぱいになる。


ずっと怖かった。


湊くんにとって私は。


ただの昔の友達なのかもしれない。


ただ懐かしい存在なのかもしれない。


そう思っていた。


でも。

違った。



「私も。」


自然と言葉が出た。


「湊くんといると、安心する。」


昔みたいに。


でも。

昔とは違う意味で。



湊くんは笑った。


「そっか。」


それだけ。


でも。

その笑顔が嬉しかった。



帰り道。


駅までの道。


手を繋ぐこともない。


好きと言うこともない。


でも。

二人の間には。


昔より近い何かがあった。



「また行こう。」


湊くんが言う。


「うん。」


私は答える。



昔の約束は。


「またね。」


だった。


今の約束は。


「また行こう。」


だった。



少しずつ。


私たちは。

昔の続きをしているんじゃなくて。


新しい時間を作っている。

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