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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第二十六話 気付いた時には ~湊視点~

大切な人がいることと、好きな人がいること。

その違いに気づくのは、いつも少し遅い。



湊は、自分でも不思議だった。


忙しい日でも。

疲れている日でも。

ふとした瞬間に、柚のことを考えている。



『今日は寒いね』


そんな短いメッセージ。


たったそれだけなのに。


自然と笑ってしまう。


『風邪ひかないようにね』

返信する。


送った後で。

少しだけ考える。


昔の自分なら。

こんなふうに誰かを気にかけることを、特別だとは思わなかった。



「神崎。」


仕事仲間に呼ばれる。


「最近、機嫌いいよな。」

「そう?」

「うん。」


湊は少し笑う。


「そう見える?」

「見える。」


相手は迷いなく答えた。


「木下さんといる時。」


その名前に。

少しだけ反応してしまう。



「昔からの友達なんだっけ?」

「うん。」

「いいな。」

「何が?」

「なんかさ。」


相手が笑う。


「神崎がそんな顔する相手、珍しいから。」



そんなことを言われても。

最初は意味が分からなかった。


そんな顔。

どんな顔なのか。

自分では分からない。



でも。

一人になった時。

ふと思った。


柚といる時。

無理をしていない。


かっこよく見せようともしていない。

失敗した話もできる。

弱いところも見せられる。


昔の自分が。

初めて安心できた相手。


それが柚だった。



小学生の頃。


柚は少し遠慮がちだった。


でも。

誰より周りを見ていた。


大人になった今も。

それは変わっていなかった。


変わらない部分を見るたびに。

嬉しくなる。



「昔から大切だったから。」


そう思っていた。


でも。

本当にそれだけなのか。



雨の日。


傘を寄せた時。

柚が笑った顔。

仕事の話を聞いてくれた時。


「ありがとう」と言った声。

公園で昔の話をした時間。


全部思い出す。



気づいた。


俺は。


柚の過去が大切なんじゃない。


今の柚が大切なんだ。



昔好きだった子。


ではなく。


今、会いたいと思う人。

声を聞きたいと思う人。

隣にいてほしいと思う人。



「……遅いな。」


一人で呟いて笑う。


もっと早く気づいていてもよかったのに。



でも。

今だから分かることもある。


小学生の頃の気持ちと。

大人になった今の気持ちは。


同じじゃない。


だけど。

どちらも嘘じゃない。



次に柚に会ったら。


少しだけ、ちゃんと向き合ってみよう。


そう思った。

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