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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第二十五話 雨の日の帰り道

昔は、ただ一緒に帰るだけだった。

でも今は、その時間が特別だと思うようになっていた。



その日は、朝から雨だった。

天気予報では夕方には止むと言っていたのに。


仕事が終わる頃になっても、雨は降り続いていた。

駅へ向かおうとした時。


「柚。」


聞き慣れた声がした。


振り向く。


そこに湊くんがいた。


「湊くん?」


「傘、持ってる?」


私は少し笑った。


「一応。」


鞄から傘を出して見せる。


すると湊くんも笑った。


「昔から準備いいよね。」

「そうかな?」

「うん。」


その言い方が、なんだか懐かしかった。



駅までの道。


雨の音が静かに響く。

昔も、こんな日があった。


小学生の頃。


帰り道に雨が降ってきて。

傘を持っていない子を心配したり。

雨の日の学校が少し特別に感じたり。


そんな小さな出来事。



「柚。」

「ん?」

「昔ってさ。」


湊くんが前を向いたまま言う。


「毎日会ってたよね。」

「うん。」

「今考えると、すごいよね。」


笑ってしまう。


「小学生だからね。」

「そうだけど。」


湊くんも笑う。


「でも、あの頃は当たり前だった。」



当たり前。

その言葉に少しだけ胸が痛んだ。


小学生の頃。

湊くんが隣にいることは、当たり前だった。


でも。

卒業して。

離れて。

会えなくなって。

初めて気づいた。


当たり前なんて、ずっと続くものじゃない。



信号待ちで立ち止まる。


雨が少し強くなる。


湊くんが私の方を見る。


「濡れてる。」

「え?」

「肩。」


自分では気づかなかった。


湊くんが少し傘をこちらに寄せる。


「大丈夫だよ。」


「いいから。」


短い言葉。


でも。

昔とは違う優しさだった。



小学生の頃。


湊くんは、私の隣にいる男の子だった。


今は。

私を気遣ってくれる、一人の男性だった。


その違いに気づいて。

少しだけ戸惑う。



駅に着く。


「じゃあ、また。」


湊くんが言う。


「うん。」

いつもの別れ。


なのに。

今日は少し寂しかった。



電車に乗って。

窓に映る自分を見る。


昔の私は。

湊くんと帰れるだけで嬉しかった。


今の私は。

もっと一緒にいたいと思っている。



雨の日の帰り道。


何も特別なことは起きなかった。

手を繋いだわけでもない。

好きと言われたわけでもない。


でも。

少しずつ。


私たちの距離は変わっている気がした。

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