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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第二十四話 特別な距離

本人だけが気づいていないことがある。

誰かを大切にしている時、人は無意識にその人を特別扱いしている。



「木下さんって、昔からあんな感じなんですか?」


仕事の休憩中。


同僚の女性が、ふと聞いた。


「え?」

「神崎さんと話してる時。」


その言葉に、私は少し驚く。


「どういう意味ですか?」

女性は笑う。


「なんか、柔らかいなって思って。」



自分では気づいていなかった。


湊くんと話す時。


私は昔のように緊張はしなくなっていた。




「昔からの知り合いなんですよね?」

「はい。」

「いいですね。」


そう言われて。


少しだけ胸がざわついた。


いいですね。


その言葉の意味を考えてしまう。



その日の帰り。


湊くんから連絡が来た。


『この間、大丈夫だった?』


短いメッセージ。


仕事の集まりのことだと思う。


『大丈夫だったよ。ありがとう。』


返信する。

すぐに返事が来た。


『ならよかった。』


たったそれだけ。


でも。

その一言が嬉しかった。



数日後。


仕事で少し落ち込むことがあった。

大きな失敗ではない。


でも。

自分の力不足を感じる出来事だった。


誰かに話すほどでもない。

そう思っていた。



「柚。」


名前を呼ばれる。


振り向くと湊くんだった。


「顔に出てる。」

「え?」

「無理して笑ってる時の顔。」


驚いた。


そんなところまで見ていたなんて。



「大丈夫だよ。」

反射的に言う。


昔からの癖。

心配をかけたくなくて。

平気なふりをする。


すると。

湊くんが少し困ったように笑った。


「昔からそうだよね。」

「え?」

「大丈夫じゃない時ほど、大丈夫って言う。」



胸が詰まる。


覚えている。


昔の私も。


そうだった。



「でも。」


湊くんが続ける。


「俺には言っていいよ。」


その言葉に。


心が揺れる。



小学生の頃。


私は湊くんに助けてもらったことは少なかった。


いつも。

隣にいるだけだった。


でも今。

湊くんは私の弱いところも見てくれている。



「ありがとう。」

小さく言う。


湊くんは笑った。


「うん。」


それだけ。


でも。

その距離が心地よかった。



帰り道。


私は思った。


昔から知っている人。


でも。

昔にはなかった関係。


今の私たちは。


少しずつ。


友達より近くて。


恋人より遠い。


そんな場所にいる気がした。

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