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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第二十三話 知らない顔

知っていると思っていた人にも、知らない時間がある。

その知らない部分を知った時、もっと大切に思うことがある。



その日は、湊くんの仕事関係の人たちとの食事だった。


「無理に来なくてもよかったんだけど。」

待ち合わせ場所で、湊くんが少し申し訳なさそうに言う。


「ううん。」


私は笑った。


「誘ってくれて嬉しかったから。」



お店に入ると。


そこには、普段私が知らない湊くんがいた。


仕事の話をする姿。

相手の話を聞く姿。

周りに気を配る姿。


小学生の頃から知っているはずなのに。

知らない顔だった。



「神崎くんって、本当に頼りになるよね。」


隣にいた女性が笑う。


「昔からそうだったのかな?」


その言葉に、少しだけ驚く。


昔から。

確かにそうだった。


勉強もできて。

何でもそつなくこなして。

周りから頼られる人だった。


でも。

私が知らなかった湊くんもいた。


悩んで。

努力して。

失敗して。

それでも今の場所にいる湊くん。



食事の途中。


湊くんが誰かの相談に乗っている姿が目に入った。

真剣に話を聞いている。

相手が安心したように笑う。


その姿を見て。

胸の奥が温かくなった。



帰り道。


二人で駅まで歩く。


「疲れた?」

湊くんが聞く。


「ううん。」

私は首を振った。


「なんか、不思議だった。」

「何が?」

「湊くんが。」


少し言葉を選ぶ。


「私の知らないところで、ちゃんと大人になってたんだなって。」



湊は少し笑った。


「当たり前じゃん。」

「でも。」


私は続ける。


「小学生の頃の湊くんしか知らなかったから。」


その言葉に。


湊くんは少し黙った。



「俺も。」

湊くんが言う。


「柚のこと、昔のままだと思ってた。」

「え?」

「でも違った。」


湊くんは前を見る。


「大人になった柚を知って、知らないところがいっぱいある。」



なんだかその言葉が嬉しかった。


昔から知っているから特別なんじゃない。


知らない部分があるから。


もっと知りたいと思える。



駅に着く。


「今日はありがとう。」

私が言う。


「こちらこそ。」

湊くんが笑う。


少し歩いてから。


湊くんが振り返った。


「柚。」

「ん?」

「仕事の時より、今の方が楽。」


突然の言葉。


「え?」


湊くんは少し照れたように笑う。


「柚といる時。」


心臓が跳ねた。


それは告白じゃない。


でも。

今の私には十分すぎるくらい特別な言葉だった。



帰りの電車の中。


窓に映る自分を見る。


昔の私は。

湊くんが好きだった。


今の私は。

湊くんのことを、もっと知りたいと思っている。


それはきっと。

昔とは違う恋だった。

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