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『あの日の「ここ」から』  作者: てぃな


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第十八話 知らなかった君の時間


昔のあなたを知っている。

でも、今のあなたのことは何も知らない。

だからもう一度、知っていきたいと思った。



あの日、再会してから。

私たちの距離は、少しだけ変わった。

毎日連絡を取るわけではない。

昔みたいに、学校で顔を合わせるわけでもない。


でも。

ふとした時に思い出す。


「あの時、楽しかったな。」


そう思える人が、また私の日常に戻ってきた。



スマホが震えたのは、ある平日の夜だった。

画面を見る。


湊くんからだった。

一瞬、動きが止まる。


昔なら。

何も考えず開いていたはずなのに。


今は少し緊張する。

メッセージは短かった。


『この前はありがとう。久しぶりに会えて嬉しかった。』


たったそれだけ。


でも。

その一文を、私は何度も読み返していた。



数日後。


また連絡が来た。


『もし時間あったら、今度ご飯でもどう?』


画面を見ながら、少し迷った。


嬉しかった。

でも、少し怖かった。


小学生の頃。

私は湊くんのことが好きだった。


でも今の私は。

あの頃の私じゃない。


そして。

今の湊くんも。

もう、あの頃の男の子じゃない。



待ち合わせの日。

少し早めに着いた私は、窓際の席で彼を待っていた。


「木下さん。」


顔を上げる。

湊くんだった。


スーツ姿。

落ち着いた表情。

小学生の頃、ランドセルを背負っていた男の子と同じ人だとは思えない。


でも。

笑った時の表情だけは、少しだけ昔を思い出した。


「待った?」

「ううん。今来たところ。」


そんな会話。

どこにでもある普通の会話なのに。

なぜか嬉しかった。



食事をしながら、私たちは少しずつ話した。

中学のこと。

高校のこと。

大学のこと。

仕事のこと。


知らなかった時間。

知らなかった景色。


湊くんの人生には、私の知らないものがたくさんあった。


「高校、楽しかった?」

私が聞く。


「うん。」

湊は少し笑った。


「大変だったけど。」

「湊くんでも大変なんだ。」


思わず言うと、


「俺、昔からそんな完璧じゃないよ。」

そう返された。


その言葉に、少し驚いた。

小学生の頃の湊くんは。

何でもできる人に見えていたから。



「柚って。」


突然、名前を呼ばれた。

一瞬、時が止まる。


何年ぶりだろう。

名前で呼ばれるのは。


湊くんは少し照れたように笑った。


「あ、ごめん。」

「ううん。」


嫌じゃなかった。

むしろ。

胸の奥が少し温かくなった。


「昔から変わらないよね。」

「え?」

「人のこと、よく見てるところ。」


私は笑った。


「そんなことないよ。」


でも。

少し嬉しかった。

小学生の頃の私を知っている人が。

大人になった私のことも、ちゃんと見てくれている。



帰り道。

駅までの短い時間。

昔の話をした。


「公園、まだあるかな。」


湊くんが言う。


「あると思う。」

「久しぶりに行ってみたいな。」


その言葉に。

胸が少しだけ高鳴った。


昔の場所。

昔の思い出。


でも。

今度は違う。


小学生の私たちじゃない。

大人になった私たちで。

もう一度、同じ場所に行く。


そんな未来が。

少しだけ楽しみになった。

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