第十七話 あの日の続きを
思い出は、時間が経つほど薄れていくものだと思っていた。
でも、本当に大切なものは、久しぶりに触れた瞬間に色を取り戻す。
「久しぶりに集まらない?」
莉央から連絡が来たのは、再会から数週間後だった。
画面に並ぶ名前。
莉央。
大和。
そして。
湊。
その文字を見た瞬間。
ほんの少しだけ、指が止まった。
何年も見ていなかった名前。
なのに。
不思議なくらい、すぐに昔の景色が浮かんだ。
教室。
後ろの席。
休み時間の笑い声。
毎年のバレンタイン。
私は小さく息を吐いた。
「久しぶりだな……。」
⸻
待ち合わせ場所に行くと、そこには懐かしい顔があった。
「柚!」
莉央が手を振る。
変わっていない。
明るくて、周りを笑顔にするところ。
「久しぶり。」
大和も笑う。
昔より少し大人っぽくなっていたけれど、話し方は昔のままだった。
そして。
少し離れた場所に。
湊がいた。
「木下さん。」
昔とは違う呼び方。
でも。
優しい声だった。
「神崎くん。」
そう呼ぶと、湊は少しだけ笑った。
「その呼び方、懐かしい。」
その一言に、胸が少しだけ揺れた。
⸻
4人で話していると、不思議なくらい昔に戻った。
小学校の先生の話。
運動会の話。
公園で遊んだ話。
「そういえばさ。」
莉央が笑う。
「柚、毎年バレンタイン渡してたよね。」
「え!?」
急に言われて、顔が熱くなる。
「子供だったから!」
慌てて言うと、大和が笑った。
「毎年ちゃんと作ってたもんな。」
「余計なこと言わないでよ。」
恥ずかしくて笑う。
その時。
湊が静かに言った。
「でも。」
みんなが見る。
「嬉しかったよ。」
一瞬。
言葉の意味がわからなかった。
「……え?」
湊は少し照れたように笑う。
「毎年、ありがとうって思ってた。」
知らなかった。
そんな風に思ってくれていたなんて。
小学生の頃の私は、
ただ受け取ってくれることが嬉しかった。
でも。
湊も、ちゃんと覚えていたんだ。
⸻
楽しい時間は、あっという間だった。
帰る時間になる。
駅へ向かう道。
偶然、湊と二人で歩くことになった。
昔なら。
何も考えず話せた。
でも今は。
少しだけ緊張する。
「……木下さん。」
「ん?」
「その呼び方。」
湊が少し笑う。
「なんか変だね。」
私も笑った。
「私も思ってた。」
少し沈黙。
でも。
嫌な沈黙じゃなかった。
「昔は。」
湊が言う。
「普通に呼んでたのに。」
胸が少しだけ跳ねる。
「……そうだね。」
昔の距離には戻れない。
でも。
完全になくなったわけでもない。
⸻
駅の前で別れる。
「また。」
湊が言う。
その言葉に、あの日の記憶が重なった。
卒業の日。
「またね」と言った小学生の私たち。
あの時は、こんな未来が来るなんて思っていなかった。
「うん、またね。」
今度の「またね」は。
昔とは少し違う意味を持っていた。




