第十話 夏休みの公園
人は、場所ではなく、誰と過ごしたかで思い出を作る。
あの夏の公園は、ただの公園だった。
でも私にとっては、忘れられない場所になった。
夏休みが始まって、一週間。
朝から蝉の声が響いていた。
「暑い……。」
大和が公園のベンチに座りながら言う。
「まだ何もしてないじゃん。」
莉央が笑う。
「暑いものは暑い!」
私は二人のやり取りを聞きながら、水筒のお茶を飲んだ。
夏休みになっても、私たちはよくこの公園に集まっていた。
小さい頃から遊んでいる、いつもの場所。
ブランコも。
砂場も。
少し古い滑り台も。
全部知っている。
でも今日は、一人だけ知らない人がいる。
「おーい!」
大和が手を振る。
公園の入り口を見る。
そこには湊くんが立っていた。
少しだけ迷うように周りを見ている。
「湊!」
大和が走っていく。
「来たじゃん!」
「うん。」
「遅い!」
「約束の時間ちょうど。」
「細かい!」
大和の言葉に、湊くんが少し笑う。
その様子を見て、私は思った。
学校とは少し違う。
教室では静かに座っている湊くん。
でもここでは。
少しだけ自然に笑っている。
「じゃあ鬼ごっこ!」
大和の声で、みんな走り出す。
「また?」
莉央が笑う。
「夏休みと言ったら鬼ごっこ!」
大和らしい答え。
私は走りながら、何度も湊くんを見る。
速い。
やっぱり速い。
「湊、速すぎ!」
大和が悔しそうに叫ぶ。
「普通。」
「また普通って言った!」
その会話がおかしくて、みんなで笑った。
少し休憩することになって、私たちはベンチに座った。
蝉の声が近い。
風は暑い。
でも、なんだか楽しかった。
「湊くん。」
私は気づいたら話しかけていた。
「ん?」
「この公園、初めて?」
「うん。」
湊くんは周りを見る。
「まだ知らない場所ばっかり。」
その言葉は、いつもの静かな声だった。
でも。
少しだけ寂しそうに聞こえた。
私は少し考える。
そして言った。
「じゃあ、これからいっぱい知ればいいよ。」
言ってから、少し恥ずかしくなった。
変なこと言ったかな。
でも。
湊くんは少し驚いた顔をして。
それから、小さく笑った。
「うん。」
その返事が、なぜか嬉しかった。
⸻
帰る時間になった。
夕方の公園は、昼間より少し涼しかった。
大和と莉央が先に歩いている。
私は少し後ろを歩いていた。
隣には湊くん。
「今日、楽しかった?」
私が聞く。
湊くんは少し考える。
「楽しかった。」
短い言葉。
でも、迷いがなかった。
「また来る?」
「うん。」
その答えを聞いて、私は笑った。
この町に来たばかりの湊くん。
まだ知らないことばかりの湊くん。
でも。
少しずつ。
この場所が「いつもの場所」になっていく。
そんな気がした。
夏の日。
ただの近所の公園が。
私にとって、大切な思い出の場所になった。




