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警視庁オカルト係の盲犬  作者: 千秋 颯@6/18「一途に溺愛されて~」アンソロ発売!


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第5話 星空

 今より無力で愚かだった子供の頃。

 親戚同士の大きな集まりの中、大人の目を盗んで真夜中の外の世界へ飛び出す事があった。


 不満を抱く大人たちへのちょっとした反抗心。

 彼らに反発する事で、日々募らせる苛立ちを誤魔化していた。

 そんな、目的のないつまらない散歩。


 だというのに、散歩の度に連れ出してやる幼い少年は、毎度目を輝かせて外の景色を見ていた。


 ある時、見晴らしの良い丘で夜空を見ていた少年の声がいつもより明るくて、星が好きなのかと聞いた。

 少年は大きく頷く。

 その素直な反応が純粋に可愛らしいと思って、もっと喜ばせてやろうと思って、いつだったか授業で習った星座の話をした。


 その話を聞く少年の目は夜空に浮かぶどの星よりも澄んでいた。


「季節によって、見える星が違うんだってさ」

「そーなの?」

「ん。だから季節が変わった時はまた教えてやるよ」

「うん!」


 無邪気に喜ぶ少年の様子が微笑ましくて、小さく吹き出す。


「そんなに星が好きだとは思わなかったな」

「んっとね、あさはみんな、色々はなしててげんきでしょ? でもぼくはお星さまみたいに、しずかに見まもってくれる方がすきだなぁ。それにねぇ」


 少年の小さい手がこちらの服の袖を掴む。

 大きな瞳に無数の星の光を反射させて、少年はへにゃりと柔らかな笑みを見せた。


「よし兄がいっしょにいてくれるから、やっぱりよるがすき」


 幼少から、訳も分からない理由から否定ばかりされてきた自分を心の底から好いて、求めてくれる存在。

 この幼い少年の屈託のない笑顔と、偽りのない純粋な言葉は自分の荒んだ心を何度だって救ってくれていた。


 胸の内が温かいもので満たされていくのを感じながら、自分は少年の頭を撫でてやるのだった。



***



 夜が更けた頃の空には半分の月と無数の星が散りばめられている。

 それを自室の窓からぼんやりと見上げていた安達の耳に、女性の声が届く。


『ちょっとぉ、安達クン? お話聞いてますかぁー!』


 持っていたスマートフォンの画面に表示されるのは『早乙女さん』の文字。

 仕事絡みの話で通話をしていた安達は考え事を中断して返事をする。


「すんません、聞いてなかったっす」

『はぁ~~~? それが明日仕事を頼むセンパイに対する態度か~!?』


 早乙女の大きな声がスマートフォン越しに音割れをしていた。

 部屋が分かれているとはいえ、別室では慧が眠っている。

 彼を起こしてしまってはいけないと安達は通話の音量を下げた。


『仕事道具の使用状況! 報告し忘れて帰ったでしょ~?』

「ああ……。そういえば」

『しっかりしてよねぇ。バディに何かあった時の私達の命綱であり、同時に命を削りかねない代物でもあるんだから』

「全て使ってませんよ。使ってたら流石に思い出してますって」

『ホントかにゃ~?』


 説教の気配をいち早く察知した安達は顔を顰める。

 視線の先には机の上に置かれたままの『仕事道具』がある。


『ウチらに支給されてる武器は特殊だからね。弾一つひとつだってすっごく貴重な上、一般人に目撃されれば当然騒ぎになりかねないんだよん。使う時は気を付ける事』

「はい」

『眼鏡の使用は十秒以内。それを超えれば情報処理が追い付かなくなった一般人の脳や身体に負担が掛かるからねぇ。それから――』

「わかってますって。そもそも現状、俺がこれを使うような場面に当たらないよう、気ぃ回してくれてるのは早乙女さんや主任達でしょ」

『にゃはは、それもそっかぁ。ま、万が一に備えての復習だよーん。あでも、報告の癖がついてないのはフツーに問題だからそこは気を付けてくれたまえ』

「はい。すみませんでした」


 安達の視界に入った時計は午前二時を示している。

 明日も予定が入っている手前、そろそろ眠るべきだろうと考えた彼は電話先に意識を傾けながらも仕事道具の収納やカーテンを閉めるなど、就寝の為の支度を始めた。


『あー……それと、けークンの調子はどう?』

「今日、報告の時にすれ違いましたよね」

『そーじゃないでしょ~? 彼が年不相応に取り繕えるのは知ってるからねぇ』


 軽く言い返しはしたものの、早乙女が何を言いたいのかを安達は悟っていた。

 彼は神妙な面持ちで思案してから小さく息を吐く。


「日常生活に特段問題は。()についてはまだ近づけないようにしているので分かりませんが……一年や二年で平気になるようなものではないでしょう」

『んー、そうだよねぇ。心配だなぁ』

「申し訳ないんですけど、もう少し時間をいただきます。慧の様子はきちんと見ておきますから、早乙女さんが心配するような事は……」

『んぁ? 違う違う。ウチが心配してるのはキミの事だよ~安達クン』

「はい?」

『自覚ないだろうけど、キミって結構危なっかしいからねぇ。特にけークンが絡むと……』


 想定外の返答に驚き、聞き返したのも束の間。

 安達の意識はふと、扉へと向けられる。

 僅かにドアノブが動く気配があったのだ。


「……慧?」

『ん、けークン起きてるん?』


 扉の外へ声を掛けるも、扉が開く気配はない。

 廊下へ意識を傾ければ寧ろ、床の軋む音が遠ざかっていくのを感じた。


「早乙女さん。他に大丈夫なら切りますけど」

『ああ、うんうん。だいじょぶよーん』

「はい。それじゃ、明日はよろしくお願いします」

『おやすみーん』


 安達は通話を切ると自室の扉を開ける。

 顔を出せば、電気のついていない廊下を手探りで進む慧の姿があった。

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