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警視庁オカルト係の盲犬  作者: 千秋 颯@6/18「一途に溺愛されて~」アンソロ発売!


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第2話 先輩と後輩

 斉藤は一年前に結婚し、今は寮ではなく賃貸を借りて妻と二人暮らしをしている。

 彼の話だと、その家に『何かがいる』ように感じるという。


「初めは家のものが記憶と違う場所に置いてあるとか……無意識に普段とは違う場所に置いたのかなってくらいの違和感だったんだ。でもいつからか物がなくなるようになっていって」

「一応聞くけど、奥さんとか、ストーカーとか……そういう可能性はないんだよな」

「絶対に違う。夏美には確認したし、初めはストーカーや泥棒の線も疑ってカメラもつけた。でも、そういうのじゃないんだ」

「誰かが侵入した様子はなかったとか?」


 安達の問いに斉藤は首を振る。

 その顔は青白く、汗が滲んでいた。


「それだけじゃないんだ。……明らかにバレずに盗めるような大きさじゃない物まで消えてるんだよ」

「たとえば?」

「炊飯器とかトースターとか」

「デカくはあるけど、持ち運べはするか」

「言っただろ、防犯カメラをつけていたんだ。玄関や窓……侵入できる場所にはカメラを置いていた。にも拘らず、人影も家電も移動する様子はないんだ」

「そりゃ奇妙だな。何かいるって考えちまうのも分かるっつーか」

「だろう?」


 安達は顎を撫でて暫し思案する。

 何やら考え込んでいた安達だが、彼が何か口を開くよりも先に彼のスマートフォンが鳴る。

 画面を確認した安達は小さく息を吐いた。


「わり、そろそろ戻らねーと」

「ああ、こっちこそ悪いな。変な話で引き留めて」

「いや。もし斉藤が良いなら、知人の霊媒師連れてくことも出来るけど」

「え、は? マジ?」

「おー。よく知らんけど、そこそこ腕がいいらしい。ダメ元で試すのはありかもな。明日休みだし、多分向こうも都合つけられるけど、どうする?」

「……悪い、頼んでもいいか?」


 斉藤は元々、オカルトの類の話を信じる性格ではない。

 そんな彼が霊媒師という言葉に怪訝そうな反応を示す可能性も安達は考えていたが、想定以上にあっさりと斉藤は頷いた。


(これは態度に出ている以上に相当参っていそうだな)


 安達は明日、斉藤の家を訪ねる事で話を付ける。

 斉藤は明日も勤務の為、訪問時は妻である夏美について貰える様頼んで置くとの事だった。


「しっかし、まさかお前に霊媒師やら、オカルト系の知人がいるなんてなぁ。そんなイメージなかったから意外だったな」

「突然知り合いに霊媒師がいるとか言えないだろ。怪しすぎる」

「違いないな。……じゃ、悪いけど、明日頼んだわ」

「おー」


 手を振って離れていく斉藤を見送ってから安達も歩き出す。

 刑事部捜査一課――安達が属している事になっている部署の大部屋を通り過ぎ、更にフロアを変え、彼はその階の一番隅の小部屋へ足を踏み入れた。


「戻りました」

「おー、遅かったねぇ」


 二つずつ、互いに向き合う形で縦に並べられたデスクが三組。

 六つのデスクの上には積み重なったファイルや書類のほか、その使用者の好みや個性を感じさせる雑貨などが散乱している。

 その中で最も散らかっているデスクに座る二十代後半程の女性、早乙女(さおとめ)真綾(まあや)が安達へ声を掛けた。

 どうやら他のデスクの持ち主は皆不在のようだ。


「すみません、少し気になる話を耳にして」

「お、気になる話?」

「俺の同期なんですけど、もしかしたら怪異の被害を受けているかもしれなくて」

「ほー。なんだなんだ、てっきり今からの仕事が気乗りしなくてただサボっているのかと思っていたよん」

「早乙女さんが押し付けてきた突発的な仕事の事なら、今も納得いっていませんけどね」

「にゃははは。それでー? 同期クン? チャン? の件は大丈夫そうなのかい?」


 安達は外出の支度をする為に早乙女の向かいのデスク――自分の机に手荷物を置く。

 すると早乙女が何食わぬ顔で缶コーヒーに手を伸ばして来た為、安達はそれを軽い手刀で防いだ。


「さあ。それに関しては一旦明日確認してきます」

「ありゃ。明日非番じゃなかったっけ?」

「休み返上の覚悟なら警察を志した時にしてますよ。それに……うちの部署なんて特に、あってないようなものでしょ」

「あーね」

「とはいえ、非番の人間だけで動いて有事に巻き込まれれば面倒ですし、お目付け役兼、報告書をまとめてくれる人は欲しいところですよね」

「……へ」


 安達は仏頂面を満面の笑みへ変え、早乙女に缶コーヒーを押し付ける。

 確かに笑顔を浮かべているはずの彼の表情には、どこか拭いきれない威圧感があった。


「詳細は後程連絡しますので。明日、よろしくお願いしますよ」


 早乙女は先程、先輩と後輩という立場の差を利用し、電話で安達に仕事を押し付けていた。

 それを根に持っている安達は意趣返しの為に、半ば無理矢理、早乙女にある約束を取り付けたのだった。



***



 午後四時頃。

 ある中学校の付近に車を停めていた安達は、バックミラーに映った正門の前に立つ生徒を見つける。


 安達は車を降りると正門へ向かって足を進めつつ、相手の名を呼ぶ。


(けい)

「義一」


 目元を細長い帯で隠し、白杖を持っていた少年は安達の声に反応し、そちらへ顔を向けたのだった。

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