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親父が帰って来たと思ったら、黒冠大迷宮から使者が来た


黒い輪が、門前で震えた。


最初に気づいたのはイトだった。


梁の端で、腹の先から伸ばした戻る糸を細い脚で押さえていた小さな蜘蛛が、ぴくりと体を起こす。黒く染まりかけていた糸の先端が、墨を薄めた水のように、少しずつ元の灰色に戻っていく。


「戻る」


イトが短く言った。


その一言で、張り詰めていた本家の門前が、一瞬で止まった。


ザガが門から素早く振り返る。

ナナが右奥の戸の前で、ほんの少しだけ姿勢を戻す。

ミズハの水桶の水面が、冷たい凹みを戻す。

イシコが地面に置いていた石の手を、さらに強く押し当てる。

ベロが鍋の蓋を、かちりと開ける。

まめじいが筆を止めて帳面を見下ろす。

ニコが素早く新しい板を脇に抱える。

豪志が、祈る姿勢のまま呼吸を忘れて固まる。


ヒナだけが、梁の上でばさりと大きく翼を広げた。


「親父?」


受付小屋の奥で、黒い輪の裂け目が、ぐにゃりと波打つように開いた。


まず飛び出してきたのは、クロの右首だった。


「肉」


第一声が、それだった。


門前に漂っていた張り詰めた空気が、その一言で半分だけ元に戻った。


ベロが杓子を持ったまま、真顔で力強く頷く。


「ある」


「多めにな」


「多めだ」


右首は、満足そうに鼻を鳴らした。


次に、中央と左首が黒い輪を抜ける。最後に、弁当の包みを大事そうに肩にかけた牧人が、少し足元をよろけさせながら出てきた。


顔色は悪くない。


ただ、気の遠くなるような面倒な手続きを、何枚も何枚も読まされた後のような顔をしていた。


ヒナが梁からふわっと飛び降りる。


「親父!」


ザガも、槍を引きながら一歩近づいた。


「戻ったか、親分」


ナナが右奥の戸の前から、短く言った。


「戻った」


ネムが右奥の布団から、眠そうに顔を出す。


「親父、寝る?」


ミズハが、冷たい水筒を迷わず差し出した。


「熱は? 頭、変に熱くない?」


イシコが地面に手を置いたまま、嬉しそうに言う。


「石、本家、つながった」


イトは、戻る糸を細い脚でゆっくり巻き取りながら、小さく体を沈めた。


「親父、戻った」

「糸、おしまい」


牧人は、自分を取り囲む本家の面々を順番に見回した。


それから、少し困ったように、けれど心底安心したように笑った。


「戻った。お前ら、何もなかったようだな。……飯はあるか」


ベロが、温かい大釜の前で胸を張って答える。


「ある。温めてた」


「助かる。腹が減って倒れるところだった」


ヒナが大きな目を潤ませかけて、それをごまかすように笑った。


「やだ、最深部っていう世界の終わりみたいな場所から帰ってきて、それ!?」


ザガが、深く、諦めたように息を吐く。


「それでこそ親分だと分かってしまうのが、どうにも締まらないな」


豪志が、がたがたと震えながら両手を握りしめて叫んだ。


「親分さん! おかえりなさい! 最深部用の遠足のおやつ、足りましたか!?」


ザガの大きな手が、豪志の後頭部を無言で押さえた。


「遠足じゃねえ。静かにしてろ」


牧人は、豪志を見て笑った。


ニコが素早く板を出した。


親父、戻った

若頭、肉多め


牧人はその手作りの板を見て、ようやく肩から余計な力が抜けた。


「ああ、それでいい。我が家に帰ってきた気がするな」


まめじいが、待ちかねたように帳面を開く。


「では親父殿、若頭殿、黒輪より帰還。帰還路、仮再接続。そして……家主名、仮登録、でございますな」


牧人は、飯の椀に手を伸ばしながらすぐに言った。


「まめじい、そこは一番小さな字で、端の方に書いとけ」


「本家の重要機密事項でございますよ」


「目立つと澄玲さんが頭を抱えるだろ。小さく書け」


ヒナが翼をぱたぱたさせながら首を傾げる。


「家主名? 変な役職でももらっちゃったの?」


クロの右首が、待ってましたと言わんばかりに牙を見せた。


「捨てられない場所の親父だ」


門前が、一瞬で静まり返った。


牧人は、右首を睨みつけた。


「お前は余計なことを真っ先に言うな」


ヒナが少し遅れて、お腹を抱えて吹き出した。


「えっ、親父が最深部で、変な二つ名をもらって帰ってきた!」


ニコが、嬉しそうに新しい板を出そうとした。


牧人は即座に手を突き出して遮った。


「ニコ、その板は出すな」


ニコは、板を抱えたまま、本当に残念そうに止まった。


その時だった。


門前の敷居の向こう側で、空気がすっと重く、冷たく沈んだ。


飯の列の端にいた小型魔物たちが、本能的な危険を察知してぴたりと動きを止める。ぷるが、ぷるんと嫌そうに一歩後退した。ミズハの水桶の水面が、墨を落としたように黒く揺れる。


門の向こうに、すっと人影が立っていた。


見た目は、普通の人間だった。


黒い外套をまとい、銀の鋭い留め具をつけた、仕立ての良い細身の男。だが、足元に伸びる影だけが、どう見ても人間のものではなかった。


影の縁が、ぎざぎざと棘のある冠の形を作っている。


黒い冠。


ザガの目が、一瞬で獲物を狙う戦士の鋭さに細くなる。


「……親分」


牧人は、ベロから飯の椀を受け取りかけた手を、空中で止めた。


「……今度は何だ」


まめじいが、帳面の端を見つめながら低く囁いた。


「黒冠大迷宮の、正式な使者かと」


牧人は、門前の男をじっと見つめた。


黒冠。


最深部の石板で、最後に嫌なしつこさで接続要求を出してきた、あのS級迷宮。


名前だけ聞くと、黒いキャベツでも届きそうだが、門前に立っているのはどう見ても使者だった。


疲れている。


牧人は、自分でそう思った。


黒冠の使者は、門前の敷居の前でぴたりと立ち止まり、胸に手を当てて深く、静かに頭を下げた。


「黒冠大迷宮は、冥門組本家との、直接の接触を求めています」


牧人は、目の前の、まだ温かい大根が載った飯の椀を見つめた。


美味そうな湯気が、ふわりと立ち上っている。


それから、使者の足元の、不気味なぎざぎざの影を見つめた。


「……飯を食ってからでも、いいか?」


黒冠の使者は、本家の想定外すぎる生活感に、人生で初めての対応を迫られたように、少しだけ困った顔をした。


---


使者は、名をセイランと名乗った。


黒冠大迷宮の影冠使。


役職名なのか、種族名なのか、ただの格好つけなのかは分からない。少なくとも牧人には分からない。分からないものは受付で処理する。それが本家のやり方である。


まめじいは帳面を開いた。


「お名前を」


「セイラン」


「所属を」


「黒冠大迷宮」


「ご用件を」


「冥門組本家との正式接触。帰還路反応の確認。家主名検出に伴う照会」


まめじいの筆が、すごい勢いで走った。


ヒナが梁の上で小声を出す。


「やだ、まめじいが好きそうな言葉ばっかり」


「記録者として当然の反応でございます」


まめじいは少しだけ嬉しそうだった。


牧人はその横で飯の椀を持っている。


まだ食えていない。湯気が少しずつ減っている。由々しき事態だ。


セイランは、そんな牧人の椀を見た。


「先に、お食事を」


「いいのか」


「はい。こちらが急に訪ねた形ですので」


「話が分かるな」


ザガが低く言った。


「親分、警戒しろ」


「飯を先に食わせてくれるって、いい人だ」


「それだけで判断するな」


ベロが鍋の前から言った。


「飯は判断材料だ」


ザガは黙った。


ベロに言われると、なぜか少し説得力がある。


セイランは門前を見回していた。


黒冠の影を足元に沈めたまま、飯の列、小型魔物、人間の避難者、受付小屋、右奥の戸、鍋、板、梁の上のヒナを順番に見ている。


その目には、警戒だけではないものがあった。


困惑。


かなりの困惑。


「ここは、交渉所ではないのですか」


牧人は椀を持ったまま頷いた。


「受付もある」


「飯の列もあります」


「飯も出る」


「……交渉所で、飯が出るのですか」


ベロが鍋の前から真顔で答えた。


「出る」


「交渉相手にも?」


「並べば」


ニコが板を出した。


飯は、並べば出る


セイランは、その板を見た。


黒冠大迷宮から来たらしい重い使者の目が、ほんの少し揺れた。


ヒナが梁の上で口元を押さえる。


「やだ、黒冠の使者が板に負けそう!」


ナナが右奥の戸の前から、セイランの足元を見た。


「影」


セイランは一瞬だけナナを見る。


「黒冠の証です」


「危ない?」


セイランは、少しだけ返答に迷った。


「普段は、身分を示すものです」

「ただ、黒冠の影は、命令があれば形を変えます」

「相手を縛ることも、防ぐこともできます」


ナナは即答した。


「受付」


セイランは沈黙した。


「……影を、ですか」


ニコが、今度は別の板を出す。


変なものは受付へ


まめじいが頷いた。


「本家では、用途不明物は事前申告でございます」


セイランは、黒い冠の影を足元に沈めたまま、少しだけ目を伏せた。


「黒冠大迷宮の正式な証です。武器として持ち込んだものではありません」


「ただし、拘束・防御に使える可能性あり、と」


まめじいの筆が走る。


「用途、黒冠証明。非常時、影による干渉あり。受付確認済み」


セイランは、何かを言おうとしてやめた。


ヒナが梁の上で笑った。


「やだ、黒冠の影が受付通った!」


ザガは笑わなかった。


「笑うな。通さないよりはいい」


「ザガが真面目!」


「相手が相手だ」


セイランは、ザガを見る。


ザガも、セイランを見る。空気が少しだけ固くなる。


そこへ、毛玉の小型魔物が一匹、ぴょこぴょこと列から外れかけた。ぷるが、ぷるんと体で止める。毛玉は素直に戻る。


セイランの視線がそちらへ流れた。殺気でも警戒でもない。単純に、見慣れないものを見た顔だった。


「魔物が、列に並ぶのですね」


牧人は椀の飯を一口食べてから答えた。


「飯は順番だからな」


「黒冠では、並びません」


「奪うのか」


「奪う者もいます。命令で配られる場合もあります。そもそも食べない者も多い」


「それは、落ち着かなさそうだな」


セイランは一瞬だけ、返事に詰まった。


その顔を、ミズハが見ていた。


「あなたも食べる?」


セイランは少し驚いた顔をした。


「私は、使者です」


「使者でも、お腹は減るでしょう」


ベロが鍋を鳴らした。


「並べ」


セイランは、門前の飯列を見た。


人間がいる。

魔物がいる。

毛玉がいる。

物資運びがいる。

豪志もいる。

豪志は列なのかどうか分からない位置にいる。


セイランは、しばらく黙っていた。


黒冠の影が、足元でわずかに揺れる。


それから、静かに言った。


「では、並びます」


ヒナが梁を叩いて笑った。


「やだ、黒冠の使者が飯列に入った!」


ニコが板を出した。


黒冠、並ぶ


牧人は板を見た。


「それは出していい」


ニコは少し誇らしげに板を掲げた。


セイランは、飯列の最後尾に立った。


その姿はかなり異様だった。


黒い外套。

冠の形をした影。

S級迷宮の使者。

その男が、小型魔物の後ろに静かに並んでいる。


豪志が、小声で言った。


「親分さん、これ、歴史的瞬間では」


ザガが低く答える。


「黙ってろ」


「でも、黒冠の正式使者が飯列に」


ナナが短く言った。


「豪志、説明しない」


ニコが板を出した。


豪志、説明しない


セイランは板を見た。


「理解しました」


豪志は胸を押さえた。


「初対面の黒冠の使者さんにまで、俺の取り扱いが伝わった……!」


ヒナが吹き出した。


「豪志、本家の注意事項として完成してる!」


セイランは列の中で椀を受け取った。


ベロが無言で飯をよそう。


具は多い。特に大根が大きい。


セイランは椀を見下ろした。


「これは」


「飯だ」


ベロが答える。


「黒冠でも飯は食うだろ」


「食事というものはあります。ただ、深部では温度が薄い」


「温度が薄い?」


牧人が聞いた。


セイランは椀から立つ湯気を見た。


「黒冠は、眠りと影の迷宮です。深く入るほど、感覚が静かになります」

「食事も、眠りも、痛みも、喜びも」

「すべてが、影に沈む」


その説明に、門前が少しだけ静かになった。


ヒナも、笑うのをやめた。


ベロが短く言う。


「熱いうちに食え」


セイランは匙を取った。


一口、食べる。


顔は大きく変わらない。だが、目が少しだけ動いた。


「……温かい」


ベロが頷く。


「飯だからな」


「味がします」


「当たり前だ」


「いいえ。黒冠では、当たり前ではありません」


その一言で、牧人はセイランを見た。


黒冠の使者は、椀を両手で持っていた。


影は足元で冠の形を保っている。だが、さっきより少しだけ小さく見えた。気のせいかもしれない。飯の湯気のせいかもしれない。


牧人は思った。


飯は、強い。


敵か味方か分からない相手でも、熱いものを食う時は少しだけ同じになる。熱い。うまい。腹に入る。そこで一度、人間も魔物も、影の使者も、ただの腹のある存在になる。


だから飯は大事だ。


ベロは最初から知っている顔をしていた。


「それで」


ザガが低く言った。


「黒冠は、何を求めてる」


空気が締まった。


セイランは椀を置き、姿勢を正した。


「黒冠大迷宮は、冥門組本家との接触を求めています」

「特に、守谷牧人殿」

「あなたが最深部で仮登録した家主名と、帰還路の反応について確認したい」


牧人は顔をしかめた。


「家主名は仮だ」


「承知しています」


「本当に承知してるか?」


「黒冠では、仮と正式の差は重いものです」


「それならいい」


「ただし、観測された名は、すでに深部に届いています」


「それはよくない」


ヒナが笑いかけて、止まった。


セイランの声が、少しだけ重かったからだ。


まめじいが帳面を開いたまま聞く。


「黒冠側では、どのように観測を?」


「帰還路が一部目覚めたことで、黒冠深部の眠り道にも細い反応が出ました。同時に、冥門組本家の家主名が届いています」


牧人は嫌な顔をした。


「その名前、どこまで届いたんだ」


セイランは、少しだけ言いづらそうに間を置いた。


「捨てられない場所の親父、と」


門前が静かになった。


一秒。


二秒。


三秒。


ヒナが梁の上で崩れた。


「うわ、黒冠にも届いてる!」


豪志が両手を握った。


「黒冠公認の親分さんの二つ名ですね!」


ザガが豪志を睨む。


「黙れ」


「でも、これは大事件ですよ!」


「だから黙れ」


ニコが板を出した。


親父、黒冠にも親父


牧人は板を見た。


「出すな」


ニコは板を裏返した。


親父、遠くでも親父


「もっと出すな」


ベロが鍋の前で言った。


「親父は親父だろ」


「ベロまで言うな」


ナナが短く言った。


「親父」


ヒナが笑いすぎて梁を叩いた。


「親父は親父だよね!」


セイランは、その騒ぎを見ていた。


黒い冠の影が、足元で少し揺れる。


「……黒冠側では、もっと厳粛な名として受け止められています」


「厳粛に受け止めないでほしい」


牧人は本気で言った。


「仮登録だからな」

「正式じゃない」

「あとで本家のみんなにも確認する予定のやつだからな」


まめじいが筆を止めずに言った。


「すでに重要事項として記録中でございます」


「止めろ」


「止められませぬ」


「なぜだ」


「重要でございますので」


牧人は頭を抱えた。


本家でも、最深部でも、黒冠でも、話が勝手に進んでいく。


しかも、全部「仮」のはずなのに、仮のまま広がっていく。


仮設寝床。

仮受付。

仮登録。

仮接続。

仮の家主名。


本家の仮は、だいたい正式になる。


嫌な実績がありすぎる。


セイランは椀をもう一度見た。


「この飯も、仮ですか」


ベロが即答した。


「飯は飯だ」


「なるほど」


何がなるほどなのか、牧人には分からなかった。


ただ、セイランはその一言で少しだけ納得した顔をした。


黒冠では、いろいろなものが影に沈むのだろう。


本家では、飯は飯だ。


たぶん、その差は大きい。


「家主殿」


セイランが言った。


牧人はすぐに顔をしかめる。


「その呼び方はやめてくれ」


「では、守谷牧人殿」


「それで頼む」


セイランは、少しだけ視線を落とした。


足元の冠影が、ゆっくり濃くなる。


「黒冠深部が、冥門組本家の名に反応しています」


牧人は動きを止めた。


ヒナの笑いも止まる。

ザガの目が細くなる。

まめじいの筆が止まった。

ナナが右奥の戸の前で、少しだけ姿勢を変えた。

ベロの鍋をかき混ぜる手も、ゆっくり止まる。


黒冠深部。


その言葉だけで、門前の空気が変わった。


牧人は、ゆっくりセイランを見た。


「反応って、何に」


「守谷牧人殿の名に、そして、灰環最深部で仮登録された家主名に」


牧人は嫌な顔をした。


「あの長いやつか」


「はい」


「忘れてくれないのか」


「黒冠は、一度拾った名を簡単には落としません」


牧人は、少しだけ黙った。


捨てられない場所の親父。


あれは名前ではない。

少なくとも、牧人はそう思っている。


だが、最深部はそう扱った。

黒冠も、それを拾った。


話が、また増えた。


セイランは静かに続けた。


「現時点で、黒冠深部の御方から直接の命はありません」

「ですが、黒冠の奥がこちらを見ています」


「見てるだけか」


「はい」


牧人は最近、その言葉を信用していない。


クロは、見ているだけで列を整える。

黒い輪は、開いているだけで水面を止める。

まめじいは、聞いているだけで話を帳面にする。


世の中には、見るだけで済まないものが多すぎる。


ザガが低く言った。


「親分」


牧人は椀の湯気を見た。


黒冠。

深部。

家主名。

見ている。


話が、また増えた。


牧人は深く息を吐いた。


「とりあえず」


全員が牧人を見る。


牧人は言った。


「見るだけなら、飯はまだ要らないな?」


セイランは、完全に言葉を失った。


ヒナが、少し遅れて吹き出した。


「やだ、親父が黒冠深部の飯の要不要を確認してる!」


ベロが鍋の前で真顔で言った。


「来るなら、並べ」


ニコが板を出した。


黒冠、来るなら飯


牧人は板を見た。


「それはまだ出すな」


黒冠の影が、足元でかすかに震えていた。


怒ったのか。

笑ったのか。

それとも、ただ見ているだけなのか。


誰にも分からなかった。


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