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共同告知は、配信より燃えた


会談が終わった後も、すぐには解散にならなかった。


会談で出た言葉を、そのまま外へ流すわけにはいかない。


だが、何も出さなければ、もっと悪い言葉で広まる。


それが全員の共通した結論だった。


ローは記録石を抱えたまま、石卓の端で深く息を吐いた。


「……これ、公開できたら数字は出たんですけどね」


澄玲が即答した。


「公開しません」


「タイトルだけでも」


「出しません」


「【速報】親父、都市圏に保護宣言」


「出しません」


「【続報】親父、奥に触るなと警告」


「出しません」


国枝が低く言った。


「三船さん。今日は、数字ではなく責任が発生する日です」


ローは記録石を見た。


「責任は伸びなくていいですね」


「ええ」


カレンも書類を閉じながら言った。


「本日の内容は、個人配信で扱うものではありません」

「外へ出すなら、監察局、迷宮庁、都市防衛局の確認を経た共同告知になります」


ローは肩を落とした。


「共同告知」


「はい」


「一番、数字が出ない言葉です」


澄玲は言った。


「数字を出す必要はありません」


ヒナが梁の上で笑った。


「やだ、ローの顔が死んでる」


ザガが言った。


「生きてるだろ」


「顔は死んでる」


ローは真顔で言った。


「今、だいぶ死んでます」


牧人は首をかしげた。


「そんなに出したいのか」


ローは牧人を見た。


「出したいというか、出したら伸びるというか」


「伸びるなら、余計にまずいんじゃないのか」


「正論です」


ヒナが笑った。


「やだ、親父が一番まとも!」


ザガが低く言った。


「たまにはな」


「たまにはって何だ」


牧人が少し嫌そうな顔をした。


---


その場で、共同告知の文案を作ることになった。


カレンが迷宮庁の文面を作る。

澄玲が監察局の確認文を足す。

都市防衛局の連絡担当が、水越へ確認するための控えを取る。

国枝は言い回しが商売上まずくないかを見る。

ローは横で、使えないタイトルを量産していた。


豪志も横で、使えない言い換えを量産していた。


「冥門組本家、弱き者を守る!」


ザガが言った。


「却下」


「親分さん、奥を荒らす者を許さず!」


「却下」


「親分さん、ここに仁義を」


「却下だ!」


ヒナが梁の上で笑った。


「やだ、ローは配信タイトルで、豪志は映画タイトル!」


ローが少しだけ豪志を見た。


「方向性は違うけど、気持ちは分かる」


澄玲が即座に言った。


「分からないでください」


カレンも言った。


「正式告知に感情的な副題は不要です」


豪志は真剣に頷いた。


「分かりました。副題は不要」


ザガが警戒した。


「何が分かった」


豪志は胸を張った。


「主題だけで勝負します」


「違う」


---


カレンが読み上げる。


「冥門組本家周辺における一時滞在者および保護対象の扱いについて」


ローが小声で言った。


「硬い」


澄玲が言った。


「硬くていいです」


「誰も開きませんよ」


「開く必要がある人が開けばいいです」


ローは黙った。


カレンは続けた。


「一、冥門組本家周辺に滞在する者について、本人意思確認を経ない移送は行わない」


牧人は澄玲を見た。


「これ、さっきのやつか」


澄玲が頷いた。


「はい。勝手に連れていかない、です」


「それなら分かる」


ローが小声で言った。


「そのまま書いた方が開かれます」


カレンは無表情で言った。


「正式文書なので」


「はい」


カレンは二つ目を読む。


「二、未成年者、負傷者、衰弱者その他判断が難しい者の移送については、市属ダンジョン監察局の確認を要する」


ネムが右奥から顔を出した。


「泣くなら、だめ」


澄玲は少しだけ表情を緩めた。


「その内容も含みます」


ネムは頷いた。


「含む」


ローが呟いた。


「ネムちゃんの方が強い見出しを持ってる」


ザガが睨んだ。


「見出しにするな」


カレンは三つ目を読む。


「三、右奥寝床区画および封環層入口付近への無断立ち入り、無断調査、破壊的行為を禁止する」


牧人は頷いた。


「奥、勝手に荒らすな、だな」


「はい」


カレンは、少しだけ悔しそうに頷いた。


「そうです」


ヒナが笑った。


「迷宮庁が、また親父語に負けた!」


カレンは咳払いした。


「四、当該区域は正式避難施設ではなく、現地実態に基づく暫定確認区域である」


牧人はすぐに澄玲を見た。


「何て?」


澄玲は言った。


「まだ正式な施設ではない、という意味です」


「家だぞ」


「だから困っています」


ザガが低く言った。


「また最初に戻ったぞ」


カレンは最後を読む。


「五、今後の運用については、関係機関で継続協議する」


ローが小さく言った。


「最後まで硬い」


国枝が言った。


「硬い方がいいんですよ」


「燃えないじゃん」


「燃やす文書ではありません」


ローは告知文の一行を指で叩いた。


「本人意思確認を経ない移送は行わない」

「右奥寝床区画および封環層入口付近への無断立ち入り禁止」

「これ、言い換えれば」


国枝が先に言った。


「親父、都市圏に保護宣言」


ローは目を見開いた。


「国枝が言った!」


「世間がそう読む、という話です」


「言った!」


ヒナが梁の上で笑った。


「やだ、国枝さんまでタイトル脳になってる!」


国枝は咳払いした。


「今のは、商人としての世論予測です」


ローは頷いた。


「うん。世間がそう読む」


澄玲は頭を押さえた。


「読まれないように文面を調整しているのに」


カレンは冷静だった。


「読まれます」

「ですが、正式文書として必要以上に煽らないことが重要です」


都市防衛局の連絡担当が、控えを畳んだ。


「この文面で、水越統括官に確認を取ります」


澄玲が頷いた。


「お願いします」


牧人は聞いた。


「それ、今日出るのか」


カレンが答える。


「確認が取れれば、夕方には」


「早いな」


「早く出さなければ、別の言葉で広まります」


ローが自分を指した。


「俺ですか?」


澄玲が即答した。


「あなたも含みます」


ローは静かに記録石をしまった。


「しまいました」


ザガが言った。


「偉いじゃねえか」


「褒められると複雑です」


---


夕方前。


本家の門前に、共同告知の写しが掲示された。


ニコが板の横に、紙を貼った。


紙の文面は硬かった。


冥門組本家周辺における一時滞在者および保護対象の扱いについて


一、冥門組本家周辺に滞在する者について、本人意思確認を経ない移送は行わない。

二、未成年者、負傷者、衰弱者その他判断が難しい者の移送については、市属ダンジョン監察局の確認を要する。

三、右奥寝床区画および封環層入口付近への無断立ち入り、無断調査、破壊的行為を禁止する。

四、当該区域は正式避難施設ではなく、現地実態に基づく暫定確認区域である。

五、今後の運用については、関係機関で継続協議する。


その横に、ニコの板が二枚並んでいた。


勝手に連れていかない

奥、勝手に荒らすな


通りかかった避難希望者が、紙と板を見比べた。


「……板の方が分かりやすい」


ニコは頷いた。


「分かる」


カレンは遠くからそれを見て、静かに目を閉じた。


「負けた気がします」


澄玲が言った。


「伝わることも大事です」


「分かっています」


ローは記録石を持っていなかった。


持っていなかったが、目は完全に配信者だった。


国枝が言った。


「三船さん」


「撮ってないよ」


「顔です」


ローは真顔に戻した。


「撮ってない」


ヒナが梁の上で笑った。


「顔だけで注意されてる!」


豪志は共同告知の前で腕を組んでいた。


「硬いですね」


ザガが言った。


「お前が言うな」


「でも、親分さんの言葉の方が分かりやすいです」


「それはそうだ」


豪志はニコの板を見た。


勝手に連れていかない

奥、勝手に荒らすな


「やっぱり、これですね」


ニコは頷いた。


「これ」


豪志は勢いよく言った。


「つまり、親分さんは二行で都市を動かしたわけですね!」


ザガが豪志の頭を軽く押さえた。


「大きくするな」


「はい!」


---


共同告知は、都市側にも同時に回った。


市属ダンジョン監察局の掲示。

迷宮庁の共有欄。

都市防衛局の内部通達。

避難民窓口の張り紙。


ローは配信していない。


だが、人は読む。


読む者は、勝手に意味を足す。


冥門組が保護権を主張した。

中立地帯化が進んでいる。

封環層入口を実効支配している。

人間を囲い込んでいる。

いや、避難民を守っているだけだ。

都市側が勝手に連れ戻す方が危ない。

奥を荒らすな、は当たり前ではないか。

当たり前を言っただけで告知になるのが異常だ。


日が沈む頃には、まとめ屋が動いていた。


配信ではない。

公式文書の切り抜き。

過去映像の再共有。

白閃牙事件との比較。

親父発言の文字起こし。

ニコの板の目撃談。


ローは自分の画面を見て、少しだけ笑った。


「出してないのに伸びてる」


国枝が隣で言った。


「今日は、それで我慢してください」


「我慢するよ」


「顔がしていません」


ローは真顔に戻した。


「我慢している」


ヒナが梁の上から覗いた。


「ロー、配信してないのに楽しそう」


ローは言った。


「自分でつけてない火を見るのは、勉強になります」


澄玲が冷たい目を向けた。


「火を楽しそうに見ないでください」


「はい」


---


都市防衛局。


水越篤臣は、共有された共同告知と、澄玲の補足記録を見ていた。


副官が言った。


「守谷牧人は、保護宣言をしたと見るべきでしょうか」


水越はしばらく黙っていた。


それから言った。


「本人は、そう思っていない」


「では」


「だが、外はそう見る」


水越は補足記録の一文で指を止めた。


ここに来たやつを、勝手に連れていかないでくれ。

あと、家の奥を勝手に荒らすな。


水越は低く言った。


「これが厄介だ」


副官は首を傾げた。


「発言が、ですか」


「違う」


水越は紙面を見た。


「本人が、本当にお願いのつもりで言っていることだ」


副官は黙った。


水越は続けた。


「政治家なら、交渉できる」

「組織長なら、条件を切れる」

「脅迫なら、対抗できる」


水越は告知文を机に置いた。


「だが、あれは本気で困っているだけだ」

「だから周りが勝手に意味を持たせる」


副官が言った。


「対応は」


水越は短く答えた。


「方針を変える」


「封鎖ですか」


「違う」


水越は告知文を指で叩いた。


「勝手に連れていくな」

「奥を荒らすな」

「この二つを破る馬鹿を、こちらから出すな」


副官は頭を下げた。


「了解しました」


水越は窓の外を見た。


「善人であることと、危険でないことは別だ」


少し間を置く。


「だが、善人を雑に扱うと、もっと危険になる」


---


旧帳場の奥。


石板に、薄い文字が増えていた。


家主、未記入。

呼称、親父。

仮記録。

保護対象、増加。

外側、割れあり。

奥部、侵入制限。

待機中。


誰も、その文字を読んではいなかった。


ただ、右奥の寝床では、ネムが小さく欠伸をした。


「奥、静か」


ぷるが、ぷるんと揺れた。


その静けさだけは、今夜、ちゃんと守られていた。


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