内通者を見つけたら、親父がまず脅した相手を探した
朝飯の列が終わったあと、イトが梁の上で止まった。
細い糸が一本、雨よけの端へ下りている。
糸の先にいたのは、人間だった。
若い男ではない。
老人でもない。
三十前後の、細い女だった。
二日前から、雨よけの端にいた者だ。
誰とも揉めない。
飯も少なめでいいと言う。
足裏検査にも素直に並ぶ。
夜は右奥ではなく、雨よけの端で丸くなって寝る。
目立たない。
目立たないことが、今日だけは目立っていた。
イトが言った。
「紙」
ザガが顔を上げた。
「紙?」
「服」
「中」
女の顔が、わずかに強張った。
ナナが短く言う。
「立って」
女は立とうとして、膝を震わせた。
クロの右が目を開ける。
「何を持ってる」
声は低かった。
女は答えなかった。
答えない代わりに、腹の前で両手をぎゅっと握った。
ヒナが梁の上で翼をすぼめた。
「やだ。空気が悪い」
ベロは鍋の蓋を閉めた。
「飯のあとに揉めるなよ」
ザガが女の前に立つ。
「出せ」
女は首を振った。
ナナが一歩近づく。
「出せ」
女はまた首を振る。
その時、イトの糸が、女の袖口に触れた。
破らない。
締めない。
ただ、布の中にあるものの形だけをなぞる。
イトが短く言った。
「板」
「線」
「門」
まめじいの顔が変わった。
「通行板の写しですな」
女の膝が、崩れた。
雨よけの下が、一瞬で静かになる。
ザガが低く言った。
「内通か」
クロの右が立ち上がりかけた。
中央の首が、女を見た。
左は、黙っている。
女は床に手をついたまま、震えていた。
「すみません」
声が小さすぎて、雨よけの端までしか届かなかった。
「すみません、すみません、すみません」
ヒナが息を止める。
牧人は鍬を持ったまま、少し離れたところから見ていた。
「何をした」
まめじいが、イトの糸を見て言った。
「封環層入口の位置」
「通行板の配置」
「灰粉の受け口」
「右奥へ入る道」
「そのあたりを書き写したのでしょう」
ザガの顔が険しくなる。
「最悪じゃねえか」
女は額を床につけた。
「殺さないでください」
クロの右が、低く鳴った。
「殺されても仕方ないことをした自覚はあるんだな」
女は泣きそうな顔で頷いた。
「あります。でも、断ったら、弟を」
牧人が眉を動かした。
「弟?」
泊まり込み調査の続きで滞在している澄玲も雨よけに来た。
女は震えながら、服の中から折りたたんだ紙を出した。
ニコが拾おうとしたが、澄玲が先に止めた。
「触らないでください」
澄玲は布を一枚出し、紙を受け取った。
「脅迫文です」
ザガが聞く。
「読めるか」
澄玲は目を通した。
「差出人名なし。ですが、内容は明確です」
女の名前。
弟のいる場所。
雨よけに入った日付。
書き写せと言われた項目。
封環層入口。
通行板。
飯の列。
足裏検査。
右奥。
灰色の線。
最後に、短く書いてある。
逆らえば、弟を都市側の保護区から外す。
ヒナが低く言った。
「やだ、ひどい」
ナナの目が細くなる。
「保護区から外す?」
澄玲は紙を閉じた。
「都市側の仮避難枠を利用した脅しです」
ザガが唸る。
「都市防衛局か」
澄玲はすぐに答えなかった。
「断定はできません」
「でも都市側だろ」
「都市側の名前を使っています。ただし、正式な文書ではありません」
国枝が門前から静かに入ってきた。
「強硬派筋でしょうね」
ザガが見る。
「分かるのか」
「紙が安い。文面が雑。けれど、避難枠の内情は知っている」
国枝は脅迫文を見た。
「正式部署の文ではありません。ですが、正式部署の情報に触れられる者が、外へ流した文です」
澄玲は頷いた。
「私も同じ見方です」
女は泣きながら言った。
「弟は、本当にそこにいるんです」
「私が逃げたら、弟だけは入れたって」
「でも、ここのことを書けって」
「書かないと、弟を追い出すって」
クロの右が牙を剥いた。
「だから、うちを探りに来たのか」
女は震えた。
「すみません」
クロの右が前へ出ようとした。
牧人が言った。
「待て」
クロの右が止まった。
「親父」
声が低い。
「入口の位置を流した。右奥も流した。子どもも寝てる場所だ」
「分かってる」
「なら」
牧人は女を見た。
「怖かったのか」
女は何も言えなかった。
ただ、泣きながら頷いた。
牧人は少し考えた。
それから言った。
「怖くてやったなら、まず怖い方を止める」
雨よけの下が、また静かになった。
ザガが眉を寄せる。
「親分」
「この人がやったことは悪い」
「悪いどころじゃねえ」
「でも、弟を使って脅したやつがいるんだろ」
牧人は脅迫文を見た。
「先にそっちだ」
クロの右が低く言った。
「甘い」
牧人は首を横に振った。
「甘くはない」
クロを見る。
「この人をここで潰しても、脅したやつはまた別のやつを使う」
クロの中央の首が、牧人を見た。
牧人は続けた。
「脅迫したやつを止めないと、またやる」
まめじいが低く息を吐いた。
「親父殿らしい判断ですな」
ザガはしばらく黙っていた。
それから、女に言った。
「逃げるなよ」
女は震えながら頷いた。
「逃げません」
イトが梁の上から言った。
「逃げない」
「逃げる足、ない」
女は、そこで初めてイトを見上げた。
イトは短く続ける。
「怖い足、外」
ザガの顔が変わる。
「まだいるのか」
イトは頷いた。
「いる」
「見てる」
「紙、待つ」
ミズハが戸の方を見た。
「外に仲間がいるのね」
国枝がすぐに言った。
「受け取り役ですね」
澄玲が手帳を閉じる。
「今出れば、相手を確認できる可能性があります」
ザガが槍を取る。
「行くぞ」
牧人も、そばに立てかけてあった鍬を手に取った。
ザガが即座に振り返る。
「親分は待ってろ」
「俺に言ってきたやつだろ」
「だから危ねえんだよ」
ナナが戸の前に立った。
「戸は見る」
「右奥も見る」
ミズハが、女の方を一度だけ見て言った。
「逃げないようにじゃないわよ。変なやつが入らないようにね」
女は、何も言えずに俯いた。
豪志が雨よけの端から飛び出しかけた。
「親分さん! 俺も行きます!」
ナナが即座に言った。
「行くな」
「なぜ!」
「うるさい」
「理由がそれですか!」
ザガが槍を取ったまま言う。
「それで十分だろ」
豪志は胸を張った。
「でも俺、こういう時こそ役に立つ男です! 相手が逃げたら、全力で追いかけて、追い付きそうなところまでは行きます!」
「追い付けよ!」
ナナは女の方を一度見た。
「豪志、ここ」
「ここ?」
「この人が怖がったら、ベロを呼ぶ」
「この人が逃げそうなら、ネムを呼ぶ」
「変な奴が入ってきたら、叫ぶ」
豪志は真顔になった。
「分かりました。俺、叫びます」
ザガが低く言った。
「普段から叫んでるだろ」
「つまり適任ですね!」
「違う」
ベロが鍋の蓋を押さえながら言った。
「豪志、鍋の前では叫ぶなよ。汁が跳ねる」
「任せてください。鍋以外に向かって叫びます!」
ヒナが腹を抱えた。
「やだ、叫ぶ方向だけ指定された!」
ナナが短く言った。
「残れ」
「はい!」
豪志は雨よけの内側に戻り、女の少し離れた場所に立った。
「大丈夫です! 俺、見張ります! でも怖くない見張りです!」
女は泣き疲れた顔のまま、少しだけ困ったように頷いた。
ネムが短く言った。
「うるさい」
「でも、こわくない」
豪志は小さく拳を握った。
「初めて褒められた気がします!」
「褒めてねえ」
ザガが言った。
澄玲が脅迫文を布越しに持ち直した。
「私も行きます」
ザガが顔をしかめる。
「監察官まで来るのか」
「都市側の仮避難枠を使った脅迫です。市属ダンジョン監察局の案件になります」
澄玲は女を見る。
「それに、相手の身分や札を確認する必要があります」
国枝も一歩前に出た。
「私も同行します」
ザガがさらに嫌な顔をした。
「国枝さんまで?」
「避難枠を脅しに使う者は、荷の流れにも触れている可能性があります。商人側の顔も、確認しておきたい」
牧人は頷いた。
「じゃあ、一緒だな」
ザガは舌打ちした。
「どんどん増えるな」
ヒナが梁の上で翼を広げた。
「じゃあ、私は上から見る。逃げたら追えるし」
イトの糸が、梁から外へ伸びる。
「先、見る」
クロが門前へ出た。
右の首が低く笑う。
「横は俺だ」
ザガは舌打ちした。
「分かった。親分が行くなら、前は俺。上はヒナ。先はイト。横は若頭」
牧人は鍬を見た。
「俺は?」
「真ん中」
「子ども扱いか」
「親分扱いだよ」
ベロが鍋の蓋を押さえながら言った。
「鍬、持って行くんですか」
「手元にあった」
「親分らしいですけど、相手が勘違いしますよ」
クロの右が言った。
「農具でも、人は止まる」
牧人はクロを見る。
「止めるだけな。潰すなよ」
右は少し遅れて言った。
「……止めるだけだ」
ヒナが上から言った。
「親父、無茶な行動しないでね」
牧人が上を見上げて言った。
「子供じゃないから大丈夫だ。上は頼むぞ」
「はいはい。逃げる足、見るね」
イトが短く言った。
「足、見る」
ナナは戸の前から動かなかった。
「行って」
「こっちは閉めない」
牧人は頷いた。
「頼む」
---
雨よけの外には、男が一人いた。
服は地味で、平凡に見える男だった。
だが、足だけが、落ち着いていない。
雨よけの端から見えるか見えないかの場所で、何度も道の方を見ている。
イトの糸が、梁の上から細く伸びた。
「紙、待つ人」
ザガが男の前に立った。
「何を待ってる」
男は一瞬だけ顔を引きつらせた。
「何も」
「そうか」
ザガは低く言った。
「じゃあ、帰れ」
男は帰ろうとした。
その足首の前に、糸が一本落ちた。
絡めてはいない。
ただ、踏めば分かる位置にある。
イトが言った。
「嘘」
男の足が止まる。
ヒナが上から見ていた。
「逃げようとしてる」
男は道へ向かって走ろうとした。
その瞬間、クロの右が一歩だけ前に出た。
それだけで、男の体が止まった。
牧人は男を見た。
「この紙を渡したのは、あんたか」
男は黙った。
澄玲が布越しに脅迫文を持ち上げる。
「弟の避難枠を材料にしています。都市側の仮避難情報に触れられる立場ですね」
男の顔が変わった。
「知らない」
国枝が静かに言った。
「その返事は、遅すぎます」
男は汗をかいていた。
ザガが低く聞く。
「誰に頼まれた」
「知らない」
「じゃあ、弟の場所はどうやって知った」
男は答えない。
牧人は言った。
「弟は、どこにいる」
男はようやく牧人を見た。
「言うわけ――」
クロの右が牙を鳴らした。
男の言葉が止まった。
牧人は続けた。
「その人を脅すな」
「俺は」
「あの人を怖がらせて紙を書かせるな」
男は意味が分からない顔をした。
「は?」
牧人は真顔だった。
「用があるなら、俺に言え」
ヒナが上から小声で言った。
「やだ、親父が直接の窓口になろうとしてる」
ザガが言った。
「窓口とは違うだろ」
男は半歩下がった。
「何なんだ、お前ら」
クロの右が低く答えた。
「本家だ」
男は黙った。
澄玲が一歩前に出た。
「あなたをここで連行する権限は、私にはありません」
ザガが眉を動かした。
「おい」
澄玲は男から目を離さずに続けた。
「ですが、あなたが持っている情報と接触先は記録します。都市側の仮避難枠を使った脅迫は、市属ダンジョン監察局の案件です」
男の顔色が変わる。
「監察局……」
「市属ダンジョン監察局です」
澄玲の声は冷たかった。
「仮避難枠の名前を、脅しに使いましたね」
男の顔色が変わる。
「俺は、ただ」
「正式職員でも、下請けでも、外部協力者でも関係ありません」
澄玲は脅迫文を布越しに持ち上げた。
「市の保護制度を、脅しに使った時点で、監察局の案件です」
国枝が穏やかに言った。
「それから、商人の側にも話が回ります」
男が国枝を見る。
「商人?」
「避難枠を人質に取る者とは、荷の話をしません」
男の喉が鳴った。
その時、男が懐に手を入れようとした。
イトの糸が、男の袖口を軽く押さえる。
「札」
男は慌てて手を引いた。
その拍子に、小さな札が一枚、地面へ落ちた。
ザガが踏まないように足を止める。
澄玲が布を出し、札を拾った。
「都市側の臨時避難整理補助札です。正式札ではありません」
国枝が札を見て、目を細めた。
「強硬派の周辺が使う札ですね」
牧人は聞いた。
「これで弟を追い出せるのか」
澄玲は首を横に振った。
「正式にはできません。ただし、嫌がらせはできます。窓口を遅らせる、順番を飛ばす、枠を確認中にする。その程度なら」
男は口を開きかけた。
クロの中央が見た。
男は閉じた。
牧人は言った。
「弟を出すな。あの人に近づくな。次にやったら、怒るぞ」
ザガが言った。
「もう、怒ってるだろ」
「怒ってるけどな」
クロの右が低く言う。
「俺も怒っている」
牧人は少し考えた。
「クロも怒る」
男の顔が白くなった。
ヒナが上から言った。
「やだ、脅し文句が雑なのに効いてる」
澄玲は手帳に書いた。
脅迫者側接触者、臨時避難整理補助札を所持。
都市側強硬派周辺との関係疑い。
本人拘束はせず、警告。
冥門組側、脅迫対象者を保護。
書いてから、少し止まる。
これを外がどう読むかは、もう分かっていた。
---
雨よけに戻ると、女は膝を抱えていた。
逃げていない。
イトが梁の上から言った通りだった。
女は、牧人たちを見るなり頭を下げた。
「すみません」
「すみません」
牧人は言った。
「弟の場所は、澄玲さんが調べる」
澄玲は頷いた。
「市属ダンジョン監察局として確認します。仮避難枠から外されるような処理があれば、止めます」
女は泣いた。
その泣き方は、さっきまでの怯えた泣き方とは違っていた。
ネムが右奥から顔を出す。
「泣いた」
「右奥?」
女は少しだけ困った顔をした。
ヒナが笑った。
「やだ、泣いたら右奥の規則、適用されそう」
ザガが額を押さえる。
「泣き方で分けるのか?」
ネムは少し考えた。
「こわい泣き」
「少し、寝る」
牧人は頷いた。
「寝てこい」
女は戸惑った。
「でも、私は」
「悪いことしたのは分かってる」
牧人は言った。
「だから、逃げるな」
「飯は食え」
「寝ろ」
「弟のことは、明日だ」
女は、もう何も言えなかった。
ナナが短く言う。
「武器、なし」
「紙、預ける」
「右奥」
女は頷いた。
ニコが板を出した。
内通者
ザガが即座に怒鳴った。
「出すな!」
ニコは素直に頷いた。
少し考えて、書き直す。
紙を書かされた人
ザガは止まった。
「……それなら」
ヒナが梁の上で小さく笑った。
「やだ、やさしいけど説明が重い」
まめじいが低く言った。
「その板は、内へ向けるだけにしましょう」
ニコは頷いた。
「外、だめ」
「そうだ」
ニコは板を右奥の方へ向けた。
女はそれを見て、また泣きそうになった。
ネムが袖を引く。
「寝る」
女は、今度は小さく頷いた。
---
夕方、ローが来た。
来た瞬間、ザガが言った。
「撮るな」
ローは記録石を持ち上げていなかった。
「撮らない」
「本当か」
「本当。今日は撮らない方がいい。外で、もう話が出始めてる」
牧人が聞いた。
「何の話だ」
ローは言いにくそうな顔をした。
「冥門組、内通者を処刑せず保護」
「都市側の情報員を取り込み」
「封環層入口の情報漏洩を逆利用」
「内通者を使って都市側強硬派を探る」
ザガが目を閉じた。
「最悪だ」
ヒナが小さく言う。
「やだ、外の方が怖い話にしてる」
ベロが鍋をかき混ぜながら言った。
「実際は?」
ローは雨よけの奥を見る。
女は右奥で寝ている。
ネムが毛布をかけている。
ニコの板は外から見えないように置かれている。
ローは言った。
「脅されてた人を寝かせた」
牧人は頷いた。
「そうだな」
「外には通じませんね」
澄玲が静かに言った。
「通じなくても、記録します」
国枝が頷く。
「私の方でも、都市側の仮避難枠に出入りしている商人を洗います」
ザガが聞く。
「国枝さん、どこまで動く気だ」
「本家への荷の流れを脅しに使われると困ります」
「商人の顔してるな」
「商人ですから」
ヒナが少し笑った。
「やだ、今日は頼もしい方の商人」
---
夜、右奥では、女が眠っていた。
眠りは浅い。
何度も肩が震える。
ネムは近くに座っている。
「怖い夢、来る」
イトが梁の上から言った。
「足、まだ逃げない」
ナナが戸のそばに立っている。
クロは門前にいた。
右の首だけが、まだ怒っていた。
牧人はクロの横に座った。
「怒ってるな」
右は答えた。
「怒るだろ」
「そうだな」
ミズハが言った。
「誰だって、怒るわね」
「そうだな」
牧人は頷いた。
「だから、脅した方を止める」
クロの右は牧人を見た。
「それで足りるか」
「足りないかもしれない」
「なら」
「足りないなら、また止める」
右は黙った。
中央の首が、少しだけ牧人を見た。
牧人は言った。
「怖くてやったやつを潰しても、怖い方が残る」
「それは、嫌だ」
右はしばらく黙っていた。
ミズハが低く息を吐いた。
「親父は、面倒な方を選ぶものね」
牧人は少し考えた。
「そうか?」
「そうよ」
「でも、そっちの方が後で楽だろ」
クロの右は、ほんの少しだけ笑った。
「たぶん、逆だ」
---
その夜、市属ダンジョン監察局の一次記録には、こう書かれた。
避難者内に情報漏洩者一名。
封環層入口および門前配置の写しを所持。
本人は都市側仮避難枠を材料に脅迫を受けていた可能性が高い。
冥門組本家側は即時処刑、拘束、追放を行わず。
脅迫者側接触者を確認。
対象避難者を右奥へ移し、休息させた。
備考。
冥門組本家側の判断基準は、処罰ではなく、恐怖の発生源の除去に向いている。
その記録のうち、危険評価に関わる項目だけが、都市防衛局へ共有された。
翌朝には、外で別の呼び名が増えていた。
冥門組、内通者を取り込み。
本家では、誰もその言葉を使っていなかった。
牧人は、朝になっても同じことを言った。
「弟の場所、分かったか」
澄玲は手帳を閉じた。
「確認中です」
「じゃあ、先に飯だな」
ベロが鍋の蓋を開けた。
「飯は裏切りませんからね」
ヒナが梁の上で少し笑った。
「やだ、今日のベロ、変な名言っぽい」
ザガは外を見ていた。
イトも外を見ていた。
クロも外を見ていた。
雨よけの外には、まだ誰もいなかった。
けれど、怖い方は、まだ外にいた。




