堂前は、しっかり準備していた
堂前烈牙は、本家の門前をゆっくりと見渡した。
受付。
鍋。
寝床へ続く仕切り。
名なしの影たちを奥へ誘導するネム。
板を掲げる豪志。
その前へ集まり始めた、弱い若い衆。
牧人はいない。
クロもいない。
強そうなやつもいない。
強硬派から渡された情報通りだった。
「守谷牧人はどこだ」
まめじいは台帳を開いたまま、堂前を見上げた。
「お答えする必要はございませぬ」
「いないんだろ」
まめじいは否定しない。
それで十分だった。
堂前の口元が持ち上がる。
「運が巡ってきた」
ナナが短剣を抜いた。
「帰れ」
堂前の眉が動く。
「黙れ」
「ここ、お前の場所じゃない」
「今日から俺の場所になる」
堂前は胸元の古い印へ触れた。
白い牙。
かつて多くの隊員が身につけていた、《白閃牙》の印だった。
「今日、白閃牙は戻る」
ニコが板を出した。
白閃牙、受付してない
堂前の額に青筋が浮く。
「受付に来たんじゃない!」
豪志が反射的に尋ねた。
「では、ご用件は何でしょうか!」
堂前は豪志を睨んだ。
「襲撃だ!」
「そこまで正直に言いますか!?」
まめじいは静かに筆を動かした。
堂前烈牙、武装集団を率いて来訪。
本人申告、襲撃。
「書くな!」
「記録係にございますので」
「その台帳から先に奪え!」
堂前が命じた。
武装集団の前列が、一斉に盾を構える。
足並みは揃っていた。
堂前の後ろにいる者たちは、白閃牙の隊員ではない。
探索者。
傭兵。
都市防衛局を外された補助員。
金で集められた者たち。
だが、堂前が一晩で動かし方を決めていた。
正面。
受付側。
寝床へ回り込む外縁側。
三つの隊へ分かれている。
まめじいは一目で配置を見た。
「ミズハ殿」
「分かってるわ」
ミズハが水桶を傾ける。
薄い水が石床を走った。
敵の前列へ向かい、足元をすくうように広がっていく。
堂前が手を上げた。
「吸水布!」
前列の後ろから、大きな黒い布が投げられた。
布は水を吸い、急速に膨らむ。
ミズハの流れが、門前へ届く前に止められた。
「準備してきたのね」
ミズハの声から、わずかに余裕が消える。
堂前は笑った。
「当たり前だ」
「俺は八代とは違う」
ナナが低く身を構える。
「同じ」
「留守を狙った」
「違う!」
堂前の声が強くなる。
「俺は勝つために来た!」
「あいつみたいに、怒りだけで突っ込んだんじゃない!」
堂前は、後ろの者たちへ短く言った。
「右奥には入るな」
「子どもと戦えない者には、手を出すな」
「強硬派からも止められている」
「牧人たちが戻った時の切り札にする」
「それまでは触るな」
その間に、ネムが右奥の戸を開けた。
「子ども、奥」
「戦えない人も、こっち」
子どもたち。
負傷者。
名なしの影。
戦えない魔物たちが、順番に右奥へ下がっていく。
豪志が板を掲げた。
子ども
戦えない人
右奥へ
「慌てないでください!」
「押さずに入ってください!」
ナナが戸口の前に立った。
「ここから先」
「通さない」
堂前が剣を前へ向けた。
「第一陣、押せ!」
盾の列が前進する。
ミズハの水を吸った布を踏み越え、受付へ迫る。
若い衆が動いた。
角の欠けた小鬼。
牙の短い魔狼。
片脚を引きずる獣型。
普段は荷を運び、薪を足し、列を整えている弱い魔物たちだった。
板。
短い棒。
欠けた槍。
使える物を握り、受付の前へ並ぶ。
豪志が慌てる。
「無理しないでください!」
「相手は武装した探索者ですよ!」
若い小鬼が震える声で言った。
「でも、ここ、通すと」
「寝床、ある」
魔狼も短い牙を見せた。
「飯、ある」
「親父、戻る」
豪志は言葉を失った。
まめじいは若い衆を一度だけ見た。
「前へ出すぎぬように」
「倒す必要はございませぬ」
「受付まで入れなければ、それでよろしい」
若い衆が揃って頷く。
「はい!」
盾の列が迫った。
その時、旧保全路側から重い足音が響いた。
ごん。
ごん。
ゴルムが外縁通路から姿を現した。
大きな体。
古い傷の残る左肩。
その後ろには、旧保全路の魔物たちも続いている。
ゴルムは堂前たちを見た。
「また、留守狙いか」
堂前は慌てなかった。
むしろ、待っていたように片手を上げる。
「杭を出せ!」
後列の荷車から、太い石縛り杭が運び出された。
杭の先には、魔物の体内を流れる力を乱す術式が刻まれている。
一本ではない。何本もある。
ゴルムは顔をしかめた。
「面倒な物を持ってきたな」
堂前は得意げに笑う。
「お前が来る可能性も聞いていた」
「準備していないと思ったか」
ゴルムが拳を固める。
「準備したやつから壊せばいい」
前へ出ようとするゴルムを、まめじいが止めた。
「ゴルム殿」
「正面からでは、杭の狙い通りにございます」
「じゃあ、どうする」
まめじいは襲撃隊の配置を見た。
杭を運ぶ者。
杭を打つ者。
術式を起動する者。
三者が別れている。
「右へ半歩」
「それ以上は進まずに」
ゴルムが眉を寄せた。
「半歩で何が変わる」
「十分にございます」
ゴルムはまめじいを見た。
少しだけ笑い、右へ半歩動く。
杭を持つ者たちが、慌てて向きを変えた。
その瞬間。
本家の裏手から、小さな矢が飛んできた。
杭を吊るしていた縄だけを射抜く。
どすん。
一本目が床へ落ちた。
続けて二本目。
三本目。
襲撃隊の後列が乱れる。
堂前が振り返った。
「何だ!」
本家裏手の細い抜け穴から、緑色の影が次々と現れた。
ゴブリンの一隊。
盾。
短槍。
弓。
古い装備だが、歩調は揃っている。
先頭の片目の老ゴブリンが、まめじいの前へ進み出た。
その場で片膝をつく。
後ろの者たちも、一斉に膝をついた。
「お呼びにより、参上いたしました」
まめじいは困ったように目を細めた。
「呼びつけるつもりではございませんでした」
「少し、助力を願えればと」
「軍師殿のお呼びとあらば」
「旧緑牙軍、何処へでも参ります」
豪志が、ゆっくりとまめじいを見る。
「軍師?」
ナナも目を瞬いた。
「まめじいが?」
老ゴブリンは深く頭を下げる。
「かつて七つの巣軍をまとめ」
「三倍の敵を、刃を交えず退かせ」
「北穴戦役にて、敵の補給を一夜で断った御方」
まめじいは遠い目をした。
「ずいぶんと昔の話にございます」
「緑牙軍、伝説の大軍師」
「七巣の神算」
豪志が口を開けた。
「伝説の大軍師! すごいじゃないですか!」
まめじいは、わずかに目を逸らした。
「人の世では、『ゴブリン界の孔明』と呼ぶ者もおりましたな」
「あの、自分で言って、照れるのやめてもらえますか!?」
ニコがそっと板を出した。
まめじい、すごい軍師
ナナが短く言う。
「初耳」
「ずっと、ただのまめじいかと思ってた」
「ただのまめじいでございます」
「どっち?」
ベロが鍋の前から顔を出す。
「まめじい、そんなすごい奴だったのか」
「今は台帳係にございます」
堂前が剣を振った。
「昔の肩書きなど知るか!」
「ゴブリンが増えたところで同じだ!」
まめじいは、ゆっくりと台帳を閉じた。
ぱたん。
小さな音だった。
だが、ゴブリン隊の空気が変わる。
片膝をついていた者たちが、一斉に立ち上がった。
まめじいが片手を上げる。
「第一列、盾」
盾持ちが受付前へ進む。
「第二列、槍」
「左右、弓」
「寝床前は空ける」
「受付の列を横切らぬように」
「若い衆はゴブリン隊の後ろへ」
「押された場所だけ、二列目が支えてくださいませ」
命令が落ちるたび、狭い本家門前に無駄のない陣形が組み上がっていく。
鍋を塞がない。
寝床へ敵を近づけない。
名なしの影たちの避難路を残す。
ミズハの水が通る場所も空ける。
ゴルムが動ける正面も残す。
若い衆も、ただ後ろへ下げられたわけではない。
盾列の隙間。
倒れた者を引く位置。
受付へ入ろうとする者を押し戻す場所。
それぞれに役目が与えられた。
豪志が板を抱えたまま、目を見張った。
「俺の案内ルートまで残ってる……本当に軍師だ……」
「豪志殿」
「はい!」
「感心するのは後に」
「案内を続けてくださいませ」
「はい!」
まめじいの目が、堂前の部隊を捉える。
吸水布。
石縛り杭。
三方向へ分けた隊列。
「ミズハ殿」
「左へ流した水を、今度は引いてくださいませ」
「引くの?」
「吸わせたまま、片側へ寄せます」
ミズハが指を動かした。
黒い吸水布の中で、水が一方へ偏る。
膨れ上がった布が急に重くなり、持っていた襲撃者たちがよろめいた。
「重っ!」
「手を離すな!」
「無理だ!」
布が傾き、盾列の足元へ倒れ込む。
襲撃隊の前列が乱れた。
「ゴルム殿」
「今度は左へ一歩」
「半歩じゃないのか」
「今は一歩にございます」
ゴルムが大きく踏み込む。
前列がゴルムを避けようと右へ寄る。
その先には、ゴブリン隊の槍列が待っていた。
穂先は体ではなく、盾や武器だけを狙う。
盾を跳ね上げる。
剣を絡め取る。
足元へ柄を入れ、転ばせる。
堂前の第一陣が押し返され始めた。
「下がるな!」
堂前が怒鳴る。
だが、堂前はすぐに部隊の崩れを見た。
前列はこのままでは持たない。
吸水布は利用された。
杭も半分が床へ落ちた。
まめじいの指揮は、予想以上だった。
「第一陣、下がれ!」
襲撃者たちが驚いて堂前を見る。
「下がれと言ってる!」
堂前の号令で、第一陣が吸水布を手放し、左右へ退く。
ゴブリン隊は追わなかった。
まめじいが命じていないからだ。
堂前は息を整えながら、後ろへ片手を上げた。
「第二陣」
まだ動いていなかった十人が前へ出る。
顔には防塵布。
背中には煙筒。
手には、黒い筒を持っている。
まめじいの目が細くなった。
「音響具でございますか」
堂前は剣を構え直す。
「軍師がいることまでは聞いていなかった」
強硬派から渡された資料にも、まめじいの過去は書かれていなかった。
だが、堂前は引かなかった。
「俺は、一手で終わるつもりはない」
第二陣が煙筒へ火をつける。
まめじいが声を張った。
「耳を塞いでくださいませ!」
次の瞬間。
黒い筒から、耳をつんざく音が放たれた。
ゴブリン隊の陣形が大きく揺れる。
若い衆が耳を押さえ、何体かが膝をついた。
ゴルムも顔をしかめる。
同時に、煙が門前へ広がった。
人間には薄い煙。
だが、嗅覚の鋭い魔物には強く効く。
ミズハの水が一瞬乱れた。
ナナも顔を背ける。
ゴブリン隊の前列に、初めて隙間が開いた。
「第二陣、入れ!」
堂前が剣を振り下ろす。
煙の向こうから、十数人が一斉に走り込んだ。
ゴブリン隊の盾へ体当たりする。
一枚目。
二枚目。
三枚目。
音で乱された前列が、押し込まれていく。
若い衆が後ろから盾を支えた。
「押す!」
「寝床、行かせない!」
「受付、守る!」
強くはない。
それでも、震える足で踏ん張った。
豪志も板を抱えたまま、若い衆の背中を押す。
「俺も押します!」
ニコが新しい板を出した。
豪志、板
「分かってます!」
「板も守りながら押してます!」
前列がさらに押される。
ゴルムが助けに入ろうとした瞬間、残っていた石縛り杭が一斉に放たれた。
一本がゴルムの右側の床へ刺さる。
二本目が左。
三本目が背後。
杭同士の術式がつながり、灰色の鎖がゴルムの体へ巻きついた。
「ぐっ……!」
ゴルムの足が止まる。
堂前の顔に笑みが戻った。
「かかった!」
ミズハが水を走らせようとする。
だが、別の吸水布がすでに左右から投げ込まれていた。
水の流れが分断される。
ナナは受付へ回り込んだ二人を止めた。
一人目の腕を切る。
二人目の膝を蹴る。
だが、三人目が外側から入る。
ベロが鍋蓋で顔を殴った。
「鍋に近づくな!」
「飯番まで戦うのか!」
「飯番だから戦うんだよ!」
ぷるへ、いくつもの袋が投げ込まれた。
毒に似せた強い臭いだけを付けた囮袋だった。
中身が危険かどうかは、ぷるにも吸うまで分からない。
ぷるが一つを吸う。
次を吸う。
三つ目で、体が大きく膨らんだ。
ぷるん。
動きが鈍る。
堂前は、本家の戦力を調べていた。
一つずつ。
役割ごとに。
確実に止めようとしている。
まめじいは煙の中で全体を見た。
第一列が押されている。
ゴルムは杭。
ミズハの水も分けられた。
ナナとベロだけでは、受付と寝床の両方を守れない。
若い衆も限界が近い。
堂前は本当に準備してきた。
「軍師殿!」
老ゴブリンが叫ぶ。
「一度、奥へ退きますか!」
まめじいは首を横に振った。
「ここより奥には、寝床がございます」
「下がれませぬ」
「では!」
「持たせます」
「あと少しだけ」
何を待っているのか。
老ゴブリンは聞かなかった。
まめじいがそう言うなら、待つ。
それが昔からの緑牙軍だった。
堂前の第二陣が、もう一歩前へ出る。
ゴブリン隊の盾が軋む。
若い衆の一体が押し倒された。
ネムが寝床から飛び出し、その体を引きずって奥へ戻す。
「寝て」
「今は、寝てて」
若い衆は立ち上がろうとした。
「まだ、守る」
「怪我、治ってから」
ネムは言い切り、また寝床の入口へ戻った。
豪志が周囲を見回す。
「このままだと、本当に入られます!」
まめじいも分かっていた。
ゴブリン隊が来ても。
ゴルムが来ても。
堂前の準備は、それを上回ろうとしている。
このままでは、受付前の列が崩れる。
その時だった。
門前へ広がる煙の中で、低い唸り声が響いた。
わずかな声だった。
だが、襲撃者たちの足が止まる。
ゴブリン隊も。
ゴルムも。
ミズハも。
その場にいる魔物全てが、反射的に煙の奥を見た。
茶色い小さな影が歩いてくる。
短い脚。
巻いた毛。
どこから見ても、ただのトイプードル。
小太郎だった。
堂前の前列が笑いかけた。
「犬?」
だが、笑い声は最後まで続かなかった。
小太郎が一歩進む。
煙が左右へ割れた。
床に落ちていた灰が、小太郎を避けるように流れる。
堂前の連れてきた探索者たちの顔から、血の気が引いた。
ゴルムが鎖に縛られたまま呟く。
「……ただの犬ではないな」
まめじいも目を細める。
確かなことは、まだ分からない。
ただ、小太郎の小さな体の奥に、古い何かが見えかけていた。
小太郎は本家側へ歩いてくる。
千景に言われて、助けに来たのだろう。
まめじいが息をつく。
「やはり、来て下さった」
豪志の顔が明るくなった。
「助っ人です!」
しかし、堂前は慌てなかった。
「想定済みだ」
全員が堂前を見る。
堂前は外套の内側へ手を入れた。
「強硬派の情報にあった」
「黒冠の姫が飼っている犬」
「危険度は不明」
「だが、犬なら対処法はある」
堂前は小さな袋を取り出した。
得意げに掲げる。
袋の表には、可愛らしい猫の絵が描かれていた。
豪志が目を凝らす。
「それ……」
堂前は袋の口を開けた。
香ばしい匂いが広がる。
「犬のおやつだ!」
豪志が叫んだ。
「それ猫用ですよ!」
「袋に、ものすごい笑顔の猫が描いてあります!」
堂前は袋を見た。
デフォルメされた猫の絵を見る。
一瞬だけ、動きが止まった。
「……犬も猫も、似たようなものだろ」
「全然違いますよ!」
「誰に騙されて買わされたんですか!」
ナナが短く言った。
「失敗」
堂前の連れてきた者たちまで、不安そうに堂前を見る。
堂前は、ここで引くわけにはいかなかった。
「獣は獣だ!」
「匂いがよければ何でも食う!」
袋から一つ取り出し、小太郎の前へ投げる。
ころん。
猫用のおやつが石床を転がった。
小太郎が止まる。
匂いを嗅ぐ。
全員が固唾をのんで見守る中、一歩近づいた。
豪志が小さく言う。
「いや、まさか……」
小太郎は猫用のおやつを食べた。
かり。
門前が静まり返った。
豪志が頭を抱えた。
「猫用のおやつに釣られた!」
堂前の目が輝く。
「見たか!」
堂前が続けて二つ投げる。
小太郎は、どちらも迷わず食べた。
そして堂前の前へ座り、手にある袋を潤んだ瞳で見上げる。
「効いたぞ!」
堂前は勝ち誇ったように笑った。
「犬の扱いなら、俺に任せろ!」
「猫用ですけどね!」
豪志が叫ぶ。
小太郎は堂前の横へちょこんと座った。
本家側へ完全に背を向けて。
ナナが目を見開く。
「裏切った」
まめじいが困ったように髭を撫でた。
「助っ人のはずでしたが」
ゴルムが鎖の中で言う。
「猫用に負けたのか」
小太郎は周囲の視線など気にせず、次のおやつを待って尻尾を振っている。
堂前は袋を高く掲げた。
「準備の勝利だ!」
「これが大手ギルドを率いた男の戦略だ!」
豪志が頭を抱える。
「こんなくだらない作戦が成功してるのが一番嫌だ!」
堂前の第二陣が、再び前へ出た。
小太郎は動かない。
堂前の隣へ座り、次のおやつを待ちながら戦いを眺めている。
ゴブリン隊の盾がまた押された。
若い衆が踏ん張る。
まめじいは台帳を抱え直した。
助っ人は来た。
だが、猫用のおやつに釣られた。
状況は、来る前より悪くなっていた。
しかも、納得できない理由で。
その時、黒冠へ続く道から、冷たい風が一度だけ吹き抜け、その奥から一人の女が歩いてくる。
黒い髪。
背負った大剣。
黒冠の姫、鴉宮千景。
豪志が静かに言った。
「姫……」
千景は門前へ立つと、まず押されている本家を見た。
次に、堂前の隣へ座っている小太郎を見る。
猫の絵が描かれた袋。
口を忙しそうに動かしている小太郎。
千景の目が、すうっと細くなった。
「小太郎」
小太郎の耳が、ぴくりと跳ねる。
「君は、何やってるの?」




