親父の家が、灰環の奥まで届いた
灰環核の奥で、巨大な灰色の輪が露出した。
それは門ではなかった。
受付でもない。
通路でもない。
石板でもない。
輪だ。
灰色の、巨大な輪。
ゆっくりと回っている。
輪の内側には、無数の細い文字が流れていた。
帰還可。
帰還不可。
保留。
不適格。
沈降。
再選別。
名薄化。
役目抽出。
処分路移送。
冷たい言葉ばかりだった。
本家の門前に出現した、不完全な受付門のさらに奥。
その奥底に、灰環核の中心があった。
灰環核は、誰かを無事に帰すためにあるのではない。
帰れる者と、帰れない者を選ぶためにある。
その輪を見た瞬間、牧人は嫌そうに眉をしかめた。
「……ずいぶん、性格の悪そうな形をしてるな」
ヒナが梁の上で、いつもより低い声を出した。
「やだ」
「見てるだけで、勝手に仕分けされそう」
ナナが短く言った。
「大嫌い」
ベロは鍋蓋を抱え直した。
「飯を食う前に分けるな」
「列が乱れる」
ミズハが水桶を握る手に力を入れる。
「熱がひどいわ」
「灰の奥が、内側から焼けてるみたい」
ぷるは、ミズハの足元でへたっとしていた。
それでも灰色の輪を見て、小さく震える。
ぷるん。
イトの糸は、輪の手前で不安げに揺れていた。
「奥、すごく遠い」
「でも、糸、通せる」
「若頭が、さっき噛み破った、隙間ある」
クロが、三つの首を低く構えたまま、灰色の輪を見据えている。
先ほどまで、クロの中に残っていた最後の杭痕は砕けた。
グラウヴィス。
その古い名は戻った。
だが、今ここにいるのはクロだ。
本家の若頭。
肉の量にうるさく、門前で名なしを守り、帰り道を噛み戻す三つ首の牙。
クロの中央が言った。
「親父」
「あれが、灰環の選別の輪だ」
牧人は頷いた。
「つまり、あれをどうにかすればいいんだな」
右が牙を見せる。
「噛み砕ける」
左が静かに続ける。
「だが、ただ噛むだけでは足りん」
「あの輪に繋がった道そのものを、本家の道に変えなければならない」
牧人は門前を見渡した。
ザガが槍を握る。
ナナが短剣を構える。
ヒナが翼を広げる。
イトが糸を張る。
イシコが石畳に両手を置く。
ミズハが水を走らせる。
ぷるが灰毒を吸う準備をする。
ネムが布団を抱える。
ベロが鍋を引き寄せる。
ニコが板を用意する。
まめじいが台帳を開く。
豪志が看板を抱える。
黒冠の影の向こうには、千景が開いた細い帰還路がある。
その足元に、小太郎の気配もあった。
牧人は、息を吐いた。
「じゃあ、やるか」
ヒナが梁の上から言った。
「やるって、親父はいつも簡単に言うけどね」
「今度は門前の小競り合いじゃないよ。灰環核の中心まで相手にしてるんだから」
「だから何だ」
「うん」
「そう言うと思った!」
ナナが短く言った。
「親父らしい」
ニコが板を出した。
やる
牧人はその板を見た。
「ああ」
「やる」
灰環核の輪が、冷たく回る。
その内側から、灰色の文字が一斉に流れ出した。
本家仮受付、侵入。
帰属点、多重発生。
帰還路の牙、復帰。
黒冠接続、干渉。
家主方針、侵入。
排除開始。
ザガが一歩前に出た。
「来るぞ」
灰色の輪から、細い腕のようなものが無数に伸びた。
処分路の手。
回収の手。
選別から漏れたものを掴み、下へ落とす手。
それらが、本家仮受付へ向かって殺到する。
ザガは槍を横に払った。
一閃。
灰色の手がまとめて弾かれる。
「列を乱すな」
ザガの声は低かった。
「ここから先は、親分の門前だ」
「横入りも、引き抜きも、押し流しも禁止だ」
さらに別の手が、仮受付の脇から回り込もうとする。
ザガは石突きで地面を叩き、槍の柄でその進路を潰した。
「回り込みも禁止だと言っただろうが」
ヒナが上空で叫んだ。
「やだ、ザガが完全に受付警備員!」
ザガは灰の手を弾きながら、不快そうに顔をしかめる。
「違う! 外縁を押さえてるだけだ」
ナナが短く言った。
「同じ」
「……今はそういうことにしておけ」
ザガが前線を支えた。
灰環核の輪が、正面から本家仮受付を潰そうとしても、槍の一本がその流れを押し留める。
次に動いたのは、ナナだった。
灰色の輪の下に、また細い裂け目が開きかけていた。
帰れないと判定された者を落とす処分路。
あの冷たい穴だ。
ナナは迷わず、その前に立った。
「ここ、だめ」
灰色の裂け目から、冷たい風が吹き上がる。
不要。
未登録。
不安定。
処分路、正規経路。
石板の文字が流れる。
ナナは短剣を抜かない。
代わりに、片手を処分路の縁へ置いた。
前のように力任せに全部を閉めるのではない。
今度は、流れを読んでいた。
どこから落とそうとしているのか。
どこを塞げば、足元が崩れないのか。
どこを残せば、ネムの寝床の温かさだけが通るのか。
ナナは短く言う。
「捨て場所、閉店」
「寝床の空気だけ、通す」
「人は、落とさない」
処分路の縁が、ぎしぎしと軋む。
ナナの指先に、また灰色が滲みかけた。
牧人が叫ぶ。
「ナナ、無理するな!」
ナナは振り返らずに答えた。
「無理じゃない」
「閉め方、覚えた」
「そんなものを覚えないで!」
ヒナが上から怒った。
ナナは少しだけ口元を動かした。
「でも、閉める」
処分路が、細く閉じていく。
完全に消えたわけではない。
けれど、もう誰かが勝手に落ちる穴ではなくなった。
そこは、ナナが閉じた扉になった。
ニコがすぐに板を出す。
処分路、通行止め
豪志がそれを見て、慌てて大きな看板に写した。
「処分路、通行止め!」
「こちらへ進むのはご遠慮ください」
ナナが短く言う。
「よし」
次に、ヒナの声が飛んだ。
「はい、迷ってる子、聞こえるー!?」
「本家案内係、ヒナです!」
「灰色の輪の中で、変な声に呼ばれてる子は止まる!」
「冷たい方は駄目!」
「温かい方!」
「飯の匂いがする方!」
「布団の気配がする方!」
灰環核の輪が、ヒナの声に反応してざわついた。
案内音声、検出。
処分路誘導、混線。
内部残留個体、進路変更。
ヒナは翼を広げて、さらに声を張った。
「右が分からない子は、いい匂いがする方!」
「左が分からない子は、あったかい方!」
「どっちも分からない子は、その場で座る!」
「座ったら、イトの糸が行くから!」
灰環の奥から、小さな声が返ってくる。
「こっち……?」
「暗い……」
「声が、いっぱい……」
ヒナは即座に返す。
「私の声だけ聞けばいい!」
「うるさいくらい聞こえるでしょ!」
ナナが小さく言った。
「本当にうるさい」
「今は褒め言葉!」
ヒナの声が、灰環核の冷たい管理音を押し返していく。
灰色の輪から流れていた「帰還不能」の文字が、一瞬だけ乱れた。
そこへ、イトの糸が伸びる。
細い。
けれど、前より迷いがなかった。
イトは梁の上から指を動かし、糸を何本も灰環の奥へ送っていく。
「戻る糸」
「寝床の糸」
「飯の糸」
「受付の糸」
「落ちない糸」
糸は、ヒナの声に合わせて進む。
座り込んだ影には、優しく輪を作る。
歩ける影には、前へ進む細い線を渡す。
震えて動けない影には、無理に引っ張らず、その場にとどまる輪を置く。
「急がない」
「でも、迷子にしない」
イトの糸が、灰環核の奥に細い帰還路を描いていく。
灰環核の輪が冷たく明滅した。
帰還補助線、増加。
迷走個体、固定。
処分路流入、低下。
イトは怖そうに唇を結んだ。
でも、糸を離さなかった。
イシコが、石畳に両手を押し当てた。
「石」
「行く」
灰環の奥に、小さな本家石が一つ生まれた。
ぽつり。
また一つ。
ぽつり。
イトの糸が伸びた先に、イシコの石が置かれていく。
足場だ。
沈まない。
消えない。
覚えている。
飯の湯気。
受付の声。
牧人の足音。
名なしが初めて立った門前の感触。
それらを抱えた小さな石が、灰環核の冷たい中心へ向かって、点々と並んでいく。
イシコは静かに言った。
「ここ、落ちない」
「ここ、戻れる」
「ここ、本家の石」
灰色の輪が、石を押し潰そうと震えた。
だが、イシコは両手で石畳を押さえた。
「石、動かない」
「帰る場所、動かない」
ザガが前で灰の手を弾きながら叫ぶ。
「いいぞ、イシコ!」
「足場があれば、列が崩れねえ!」
イシコは少しだけ嬉しそうに頷いた。
ミズハが、水を流した。
灰環核の中心は熱かった。
冷たい灰のくせに、内側は焼けている。
帰れないと判定された者たちの声。
沈められた記録。
処分され続けた怒りと悲鳴。
それらが、輪の内側で熱を持って暴れている。
ミズハの水が、そこへ細く流れ込んだ。
じゅ、と音がする。
白い蒸気が上がる。
「熱すぎるわ」
「こんなところ、弱った子が通れるわけないでしょう」
ミズハは眉を寄せながら、水をさらに広げる。
「冷やす」
「でも、凍らせない」
「歩ける温度にする」
水が、本家石の周りをめぐる。
灰色の熱が少しずつ落ち着いていく。
その隙間を、ぷるが動いた。
ぷるはまだ疲れている。
灰毒を吸いすぎて、体の中には薄い濁りが残っていた。
それでも、灰毒の濃い場所を見つけると、ぺちゃんこになった体を震わせながら近づく。
ぷるん。
小さな体が、灰毒を吸う。
「ぷる、濃いところだけでいい!」
牧人が声を上げる。
ぷるは、力なく、しかし得意げに揺れた。
ミズハがすぐに水をかける。
ベロが塩水を渡す。
「薄める」
「締める」
「無理はさせない」
ぷるが吸う。
ミズハが薄める。
ベロが補助する。
灰毒の霧が、少しずつ安全な濃さへ変わっていく。
ヒナが案内に混ぜて叫んだ。
「ぷる先生がぷるんってしたところは、一応通れる!」
「でも、ぷる先生がぺちゃんこになってるところは、まだ待って!」
豪志が看板を高く掲げた。
「ぷる先生の指示に従ってください!」
「ぷるんは安全の合図です!」
ナナが短く言った。
「分かりやすい」
ぷるは、かすかに誇らしげに震えた。
次に、ネムが布団を広げた。
灰環核の中心に近づくほど、そこにいる者たちは弱っていた。
歩けない。
声が出ない。
名前以前に、自分がいることすら分からなくなりかけている。
そんな影たちへ、ネムの布団の気配が届く。
「寝る子、こっち」
「歩けない子、寝ていい」
「起きたら、飯」
ネムは半分眠たげな目で、しかし確かに見ていた。
起きている者には見えない、寝る直前の小さな声。
夢と消失の間で震える気配。
そこに、ネムは布団の影を敷いていく。
灰環核の冷たい底に、丸くなれる場所ができる。
「ここ、寝床」
「捨て場所じゃない」
灰環核の輪が、また乱れた。
処分領域、休眠所化。
対象輪郭、微回復。
処分進行、遅延。
ネムは小さく頷く。
「遅延でいい」
「ずっと遅れてて」
ベロが鍋を前へ押し出した。
大鍋から、湯気が立ち上る。
粥の匂い。
出汁の匂い。
少しの肉。
野菜。
塩。
本家の門前の匂い。
ベロは、灰環核の奥へ向かって堂々と言った。
「飯の列を作る」
「立てる者から順番」
「立てない者には、運ぶ」
「名前は、飯の後でもいい」
灰環の奥から、小さな声がした。
「食べて、いいの……?」
ベロは即答した。
「いい」
「熱いから、気をつけろ」
牧人は小さく笑った。
「そこは絶対言うんだな」
「火傷はよくない」
「そうだな」
ベロの飯の匂いが、ヒナの案内と混ざって奥へ流れる。
飯の匂いを追って、小さな影たちが少しずつ動き始める。
まめじいは、台帳を開いていた。
すでに頁は増えすぎている。
灰環仮受付。
黒冠仮受付。
処分路内休眠所。
名なし個体。
仮名。
未定。
呼称保留。
飯希望。
休眠希望。
声のみ確認。
それでも、まめじいの筆は止まらない。
「仮受付一番、飯へ」
「仮受付二番、休眠」
「仮受付三番、名は後日」
「仮受付四番、声のみ」
「仮受付五番、黒冠経由、所属保留」
「仮受付六番、歩行不可。ネム殿の寝床へ」
灰環核の輪が強く光る。
記録増加。
名薄化、阻害。
処分対象、個体固定。
帰還不能判定、保留。
まめじいは静かに言った。
「保留で結構」
「保留の間に、こちらで受け付けます」
その声は穏やかだった。
だが、誰よりも強かった。
ニコが板を出した。
捨てるな
次に、もう一枚。
帰るならこっち
さらに、もう一枚。
飯は並べば出る
豪志がそれを見て、目を見開いた。
「ニコさん、それです!」
「それを一番目立つところに立てましょう!」
豪志は三枚の板を抱えた。
腕は震えている。
それでも、下ろさない。
「親分さん!」
「俺、これを灰環の中心に見えるように掲げます!」
牧人は頷いた。
「頼む」
「ただし、落ちるなよ」
「はい!」
「落ちたら看板の意味がなくなりますから!」
「お前の身も心配してるんだが」
ナナが短く言った。
「豪志、落ちるな」
「板も落とすな」
「責任重大!」
ヒナが笑った。
「やだ、豪志がついに板と同じくらい心配されてる!」
豪志は本家石の足場を踏みしめ、イトの糸に腰を支えられながら、灰環核の中心へ向けて進んだ。
ザガが前を守る。
ナナが落ちる道を閉じる。
イシコが足場を増やす。
ヒナが上から声を飛ばす。
豪志は、灰色の輪の手前で足を止めた。
そして、三枚の板を、力いっぱい掲げる。
捨てるな
帰るならこっち
飯は並べば出る
灰環核の中心に、その板が立った。
一瞬、すべての音が止まった。
灰色の輪が、きしんだ。
石板に文字が走る。
本家板、中心到達。
処分命令、阻害。
帰還誘導、発生。
飯場接続、発生。
家主方針、中枢到達。
ヒナが声を上げた。
「やった!」
「板、立った!」
ナナが短く言った。
「豪志、役に立った」
豪志は涙目で叫んだ。
「その一言で、腕の震えが報われます!」
ニコが誇らしげに、さらに小さい板を出した。
豪志、がんばった
豪志はその場で崩れ落ちそうになった。
「追加で褒められた……!」
だが、灰環核は当然、止まらなかった。
輪の奥から、黒く濁った影が噴き上がる。
灰でもない。
処分路でもない。
もっと奥に溜まっていた、危険な影。
---
千景の黒冠側の道にも、その影が絡みつこうとした。
黒冠の道が一瞬、ざわりと揺れた。
黒冠側で道を開いていた千景も、その異物に気づいた。
「……灰環の影が混じってる」
千景は《夜鴉》を構え直す。
足元の小太郎が、すっと前へ出た。
「わふ」
たった一声。
だが、黒冠の道が震えた。
小太郎の影が、細く鋭く伸びる。
あの恐ろしい古い獣の気配を、ほんの一瞬だけ滲ませる。
それだけで、灰環核の濁った影が怯んだ。
千景が低く言う。
「黒冠の影と、灰環の汚れた影を一緒にしないで」
「小太郎、払って」
小太郎が走った。
茶色いトイプードルの小さな足が、黒い道の上を軽やかに駆ける。
その影だけが、巨大な獣道のように伸び、灰環核の危険な影を払っていく。
黒冠側の道が澄む。
千景が《夜鴉》を振るい、残った濁りを切り裂いた。
「黒冠側、開くよ」
「帰りたい子の声を通す」
「でも、灰環の汚い影は通さない」
セイランの声が、影の奥から静かに響く。
「姫、道標を設置します」
黒冠側に、小さな黒い道標が立った。
帰るなら、こちら
本家の板とは違う。
けれど、向いている方向は同じだった。
---
牧人は、灰環核の中心へ向かって立った板を見た。
捨てるな
帰るならこっち
飯は並べば出る
その横に、黒冠の道標が細く伸びている。
さらに、クロが前へ出た。
三つの首が、灰色の輪へ向かう。
クロはもう、古い杭に縛られていない。
グラウヴィスの名も、クロの名も、どちらも持っている。
だからこそ、灰環核の輪に牙が届く。
中央が言った。
「帰還路を閉じるな」
右が牙を剥く。
「親父の板が立った」
「なら、そこへ向かう道を噛み戻す」
左が静かに続ける。
「迷った者を、帰れないと決めるな」
クロが、灰色の輪へ噛みついた。
ばきん、と音がした。
輪の一部が欠ける。
灰環核が悲鳴のような音を上げる。
ごん。
ごん。
ごん。
だが、輪はまだ壊れない。
むしろ、その奥からさらに大きな光が浮き上がってきた。
灰環核の本体。
これまで石板や白帳や処分路を通して動いていた、その中心そのもの。
巨大な灰色の輪の奥に、核の本体らしきものが姿を見せ始める。
それは、人でも魔物でもない。
丸い核でもない。
無数の札と、古い帳面と、折れた帰還札と、名前を削られた木片が寄り集まってできた、巨大な灰色の塊だった。
その中心に、冷たい目のような光が一つ灯る。
まめじいが低く言った。
「親父殿」
「灰環核の本体が、露出いたしました」
ヒナが翼を震わせる。
「やだ……」
「今までの石板とか白帳とか、全部あれの外側だったってこと?」
ザガが槍を構え直した。
「ようやく本丸か」
ナナが短く言う。
「倒す」
ベロは鍋を守りながら言った。
「飯場は守る」
ネムが布団を抱え直す。
「寝床も」
イトが糸を張る。
「道も」
イシコが石を置く。
「帰る場所も」
ミズハが水を走らせる。
「熱も、冷ます」
ぷるが、ぷるんと震えた。
ニコが新しい板を出す。
本体、出た
牧人は、灰環核の本体を睨みつけた。
巨大な灰色の塊。
帰れなかった者たちの声を閉じ込め、帰る資格なしと判定し続けてきた古い中心。
牧人は、お玉を握り直した。
「ようやく顔を出したな」
灰環核の目のような光が、牧人へ向いた。
その光は、冷たく、無機質で、そして今までで一番はっきりと敵意を持っていた。
牧人は、立てられた三枚の板を一度見る。
捨てるな
帰るならこっち
飯は並べば出る
それから言った。
「うちは、まだ受付中だ」
「勝手に閉めるな」
灰環核の本体が、低く、重く鳴った。
次の瞬間、巨大な灰色の輪が、すべての本家仮受付を押し潰すように回転を始めた。




