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もう一人の私 昭和に転生した元財務官僚、失われた30年を防ぐ  作者: 織田雪村
第七章

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躍進期⑮ 大和の都・竣工 前編

2010年(平成22年)3月


奈良県五條市野原町


710年、藤原京から平城京へ都が移されてから1300年。

その節目の年に、JR西日本の五条駅から南へ約1kmの地で、新たな都市、『大和の都』が竣工の日を迎えた。


ついに豊臣グループの本社ビル、リニア新幹線の名古屋~和歌山間、リニアアクセス線の五條~関西空港間、五新鉄道、そして五條市内や天川村洞川地区、和歌山県富貴町を結ぶ3本の地下鉄が竣工・開業を迎えたのだ。


本社ビルはリニア五條駅の北隣、吉野川の南岸に面しており、高さは400m。地上90階・地下12階。

完成した時点で日本一の高さを誇り、延床面積は約68万平方メートル。一つの街にも匹敵する巨大な複合施設だった。


外観は全面ガラス張りの直方体。


奇抜な意匠は一切なく、徹底して機能性を追求したその姿は、見る者に圧倒的な存在感と威厳を与えていた。


低層階にはホテル、商業施設、国際会議場、多目的ホールなどが入り、国内外から多くの人々が集う都市機能を担っている。


中層階から上層階には豊臣グループ各社の本社機能、研究開発部門、国際事業部門などが集約され、約3万人が働く巨大なビジネス拠点となっていた。


最上階である90階は一般には公開されていない。


そこには豊臣グループの中枢である総帥室をはじめ、役員フロアや国内外の要人を迎える迎賓施設が集約されていた。


世界各地の拠点と常時接続されたこの場所は、豊臣グループ全体を指揮する「司令塔」とも呼ばれ、企業経営のみならず、各国首脳や政府要人との会談の舞台としても幾度となく歴史に名を刻むことになるだろう。


華美な装飾はない。しかし、その静けさの奥には、一企業の本社という枠を超えた重みが漂っていた。ここで下される一つひとつの決断が、日本経済だけでなく世界経済さえ動かすことになるはずだ。


地下12階まで広がる基礎部分には、自家発電設備、大容量蓄電池、水素発電設備、データセンター、防災備蓄施設などが設けられ、万一外部インフラが途絶した場合でも長期間にわたりビル単独で機能を維持できるよう設計されている。


最大の見どころは、一般には公開されていない最上部に設置された世界最大級の制振装置だった。


数千トンもの巨大な(おもり)がコンピューター制御によって建物の揺れを打ち消すその仕組みは、最新の耐震・制振技術の結晶といわれ、国内外の建築関係者が視察に訪れるほどだった。


さらに、この建物はわが国最大の活断層、中央構造線に近接するという日本有数の難条件の上に建設されている。


建設計画が公表された当初は「世界でも例のない挑戦」と評されたが、豊臣グループは大規模免震構造と最新の制振技術を組み合わせることで、それを現実のものとした。


高さ400メートルという規模ゆえ航空法上の調整も必要だったが、主要空港から十分離れ、航空機の進入・出発経路への影響も小さい立地であったことから、関係機関との長年にわたる協議を経て建設が認められた。


夜になると最上部の航空障害灯が静かに明滅し、その赤い光は紀伊山地の夜空に浮かぶ新たなランドマークとなっていた。


こうして、数々の法的・技術的課題を乗り越えて完成した日本一の超高層ビルは、周囲の山々を従えるかのように盆地の中央にそびえ立ち、新たな『大和の都』の象徴として訪れる者を圧倒していた。


この本社ビルとリニア五條駅を中心として、周囲には様々な構造物が同時に建設されていた。

本社ビルには及ばないものの、超高層ビルと呼ぶに相応しい4棟の建物が駅の南側に並び立っていた。


まさに『新・平城京』。

1300年の時を経て、大和の地に再び都が誕生したのだ。


中でも多くの人びとの目を引き付けたのが、駅と本社ビルの間に建設された遊水地の中の建物で、工事中は幕に覆われて全体像が伏せられていたのだったが、いよいよ完成してその姿を現した。


これまで、この建物に関しては、近隣の住民に対しても大まかな形状しか開示していなかった。幕に覆われたその姿は異様と表現するしかなかっただろう。なぜなら、南北から見た高さは20m以上で、中央部は50mほどあるという、山を想像させる特殊な形状だったからだ。


テスラの発表会の際には建設中で、当時も「変な形をしたビルを建てている」という話が出ていたものの、北側にある本社ビルの規模と高さ、そして何よりリニア2路線と、地下鉄などの路線が乗り入れるターミナル駅に目を奪われて大きな話題にはならなかった。


「富士山のオブジェでも作っているのだろうか?」というのが、幕に覆われたこの建物を見た際に漏らす、多くの人びとに共通する言葉だった。


だが、山ではなかった。

東西の長さは250m以上あって、リニアの線路に沿って伸びているが、対する南北の奥行は40m程度で、山のオブジェにしては不自然だったからだ。

しかも、普通の建物にしては少し形が変だと感じた人は多かったのではないか。


なぜなら、この建物を上空から見た場合、西側先端部が異様に細く、中央部に向かって幅が徐々に太くなるという、およそ効率的なビルの形状とはかけ離れているからで、「あれは一体なんだろう?」、「容積率か建ぺい率の制限でもあるのか?」という疑問や噂話は早くから出ていた。


ただし、その使用目的は最初から開示されていた。内部はコンサートなどができるホールと、展示場として利用できる小部屋が作られるのだと。


したがって「理由は分からないが、東京国際フォーラムに似せた形で建てるのだろう」という意見もあった。確かに有楽町駅前に建つあのガラス棟は、上空から見た場合には両端がすぼまった細長い楕円形状だったから、そのような意見はある程度の説得力を持って語られていた。


工事が終わって幕が外され、建物の全容が姿を現した瞬間、それを目撃した人々は一様に驚愕の声を上げた。


その驚きは、かつて小田原城攻めの際、一夜にして現れた石垣山城を目撃した北条方の将兵にも通じるものがあったはずだ。


なぜなら、人々の眼前に現れた建造物は、誰も予想していなかった姿をしていたからだ。


東京国際フォーラムのガラス棟のような華やかなガラス張りではない。外壁そのものは無機質な濃灰色と赤褐色の鉄筋コンクリート造で、素材だけを見れば決して派手な建物ではなかった。


だが、人々の視線を釘付けにしたのは、そんな素材ではない。


その異様なデザインだった。


まず目に飛び込んできたのは、屋上部分に設けられた3つの箱状構造物だった。そして、それぞれの箱からは長さ20mはあろうかという太い筒が3本ずつ突き出していた。合計9本。


それらの箱は西側に2台、そして中央の構造物を挟んで東側に1台配置されている。その姿は単なる装飾や自己主張などという言葉では片付けられない。圧倒的な存在感を放ち、見る者に強烈な違和感と威圧感を与えていた。


これは、通常の建物だったら絶対に必要としない物体であり、屋上中央部には大きなドーム状の箱が整然と並び、そこから延びる細い筒状のものが多数、天を睨んで突き出していた。それらに囲まれた塔の威容は圧倒的で、塔の東側に屹立する、故意に東側に傾斜させた巨大な構造物と三角形をなすポール状の物体は、ある種の美しさと禍々しさを同時に演出していた。


屋上から最下部に目を移すと、西端には大きな球体を思わせる膨らみがあった。反対側の東端の地面近くには、4本の軸に付けられた直径5mはあろうかという、扇風機を思わせる羽根が構造物から東側に向けて突き出ていた。その羽根の数は各3枚。

中央部には左右を隔てるかのように、垂直に取り付けられた大きな板が取り付けられていた。


この構造物の真下に立ち、見上げるだけではこれが一体何なのか、どうやら船を模した建造物であるという以外には誰にも分らなかったかもしれない。


だが、五條駅から見たり、本社ビルから見下ろすと、その正体はもう一目瞭然で、多くの日本人が呻き声を出した。



「……大和だ」と。


誰が見たとしても見間違えようがない。


巨大な3連装主砲が3基。力強くも美しい塔型の艦橋デザイン。特徴的な後部マストと、一体感を持たせた傾斜角度の煙突。艦首へ向かって流れる独特のシルエットにバルバス・バウまで、誰もが知るあの戦艦そのものだった。


奈良県の旧国名にちなんだ艦であり、この場所に相応しい存在だろう。


しかも原寸サイズというおまけつきで、「戦艦大和」出現の噂はあっという間に全国へと広がり、駅の周囲は見物人でごった返した。ご丁寧なことに全体は半地下構造であり、いわゆる喫水線から下は大きな堀の中に埋められているみたいに見える。


つまり、地面に立っている人間には喫水線から上の濃い灰色部分しか見えないが、地下3階まで降りていけば、喫水線下の赤褐色を含め、全容を見上げることが可能となっている。


しかもこの堀は、水で満たすことが可能な構造となっているというのが特徴で、上流で豪雨が発生した際には、吉野川から水を誘導し、洪水対策として利用されると説明された。

遊水地のサイズは東西300m、南北100m。深さは15m。この空間は、普段は公園として利用される予定だ。

もしも満水となったら、あたかも大和が海に浮かんでいるように見えるだろう。


これはもちろん、戦争を賛美するものではない。

あくまでもコンサートや式典、展示会として使用するのだ。艦上構造物は見学が可能で、最上部の第一艦橋は昼はレストラン、夜はラウンジとして利用される予定だ。後部艦橋は喫茶室やバーとして利用される。


最上甲板は散歩が可能となっており、巨大な主砲塔は人気の観光コースになるだろう。


しかも、一部の人間にしか知らせていないが、この主砲塔、および最上部に設置された15m測距儀は旋回可能で、砲も上下運動が可能な仕様だ。

何かのイベント時に公開するとしようか。


もちろんリニア駅からの見学も可能となっているし、列車からもよく見えるから、乗客たちはその威容を見て驚愕の声を上げることだろう。


私の計画ではこの場所は当初、地下空間を利用したいわゆる「地下神殿」として利用する予定だったのだが、小二郎が言ったのだ。


「地下空間なら誰でも思いつくけど、原寸大の軍艦を象徴として使うなんて凄いアイデアでしょう?普段は水を抜いた公園として運用し、洪水時だけ一時的に水を流し込む構造にする。そして中央部の高台に軍艦を建てるんだ」


洪水時に池の中で浮かぶように見える建造物と聞いて、厳島神社の荘厳な社殿やタージマハルの白亜の宮殿を思い浮かべた。夢があって素晴らしいと思ったが、同時に危惧も抱いた。


「だが、ヤタガラスやAMATERAですら、神話を利用していると言われかねないと気を使ったくらいなんだ。まして原寸大の戦艦大和となれば、狂ったように非難する連中は必ず出てくるんじゃないのか?」


近年では学校教育で日本神話は昔ほど体系的に教えていないそうだし、私が極端な右翼思想を持っていると誤解されるとビジネスにも影響しないだろうか。


だから私は手放しで賛同したわけではない。小二郎の提案をいったんは保留し、メリットとデメリットを天秤にかけてじっくり考えてみた。


そして決断した。


「何をどうやっても形あるものへ批判は必ず来る。しかし、洪水から街を守り、地域経済を活性化させ、さらに、戦後長く触れにくかった歴史を冷静に見つめ直す場としての価値の方が大きい」


こうして大和以外にも軍艦を模した建造物の建設が始まった。

途中で横やりが入らないよう、現場は目隠し用の膜で覆われ、近隣住民へも詳細な内容は伝えなかった。


まるで、かつて本物の大和型戦艦を建造した際に、厳重な防諜体制を敷いたみたいだった。


だが、完成した姿を見た人々からは予想通りに様々な反応が寄せられた。

実物を見た際の反応は、大きく三つに分かれたのだ。


賛美する者。


強い拒否感を示す者。


そして善悪ではなく、複雑な違和感を覚える者だった。


賛美する人々は口を揃えて言った。


「これは凄い」と。


日本一の超高層ビルの足元に、原寸大の戦艦大和。

しかも単なる張りぼてやギミックではなく、文化施設として活用される巨大建築物としての復活。


その圧倒的な存在感は、目撃した人々の目を奪った。


「日本人なら一度は見てみたいと思うだろう」、「これだけで観光名所になる」、「まさに大和の都だ」


そんな声が多く上がった。


一方で、嫌悪感を示す人々も少なくなかった。


「軍国主義の復活を連想させる」、「なぜ今さら戦艦なのか」、「平和国家の象徴として相応しくない」。特に一部の自称知識人や左翼系活動団体からは批判の声が相次いだ。


また、戦艦大和は多くの将兵と共に海へ沈んだ悲劇の象徴でもあり、その姿を巨大建築物として再現することに違和感を覚える人たちもいた。


だが、それらの議論そのものが私の狙いでもあった。


誰も無関心ではいられない。

好きな者も嫌う者も、あるいは違和感を抱く者も、その巨大な建造物を見れば何らかの言葉を発する。


そして気が付けば、五條市の名前は全国へ広まっていく。

少なくとも一つだけは確かだった。


この日からしばらくの間、日本で最も話題となったニュースは、政治経済でも事件でもスポーツでもなく、奈良県五條市の遊水地に現れた戦艦大和だったのだ。


あらゆる報道番組や新聞・週刊誌において連日にわたって大きく取り上げられ、ネット空間における盛り上がりは空前のものとなった。


※戦争を賛美する目的はありません。あくまでもロマンを形にしただけですので悪しからず。

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― 新着の感想 ―
ヤマトホテル()って揶揄よく見かけるので面白い建造物だとは思うしみて見たいけど 左翼が騒ぐのもよくわかる ただ一企業グループの看板が軍艦は要らぬ誤解を与えるから国際的にマイナスイメージ強く出ないといい…
イズモ計画……w
ヤマトホテル(笑)の再現ですからね。 喫茶店やバーでは、ラムネをつかったカクテルが名物になりそう。
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