起動!2
一通り咳き込むと、ヌーロンはゆっくりと瞼を開けた。
「オイ、テメエ、コトバ、シャベレルカ?」
「…………」
「社長、なんで片言なんだよ」
「いや、ぽくいくだろ、ここは」
話しかけても、ヌーロンは虚ろな黒い瞳で見つめ返してくるだけだ。
それにしても、こいつからは機械っぽいところが一切感じられない。目ん玉には、俺たちみたいな人間っぽさがあるし。こいつどこが機械なんだ?
「……マスターですか?」
「うおっ、喋った!」
急に話かけられて、俺は思わず飛びのいた。
目ん玉とは裏腹に、こいつの声は冷たく機械的な感じがする。
「そ、そうだ。俺はてめえのマスターであり、いわば飼い主だな。悪い奴らにてめえが売り払われそうなところを助けてやったんだ、感謝しろ」
俺の言葉にヌーロンは立ち上がり、直立不動の姿勢を取る。
「マスター。感謝いたします。何なりとご命令を」
言葉遣いとか態度とか、起き抜けから一々殊勝な心構えのヌーロン。
「よし、てめえはこれから俺の秘書……はアンズがいるから……よし、てめえはこれから俺のペットだっ!」
「「「「「ペット!?」」」」」
「はっ! このセカンド。マスターのペットとして身命を賭す覚悟です」
「おい、俺こいつ気に入った! てめえらも、こういう謙虚な姿勢を見習えよ!」
どいつもこいつも間抜け面で見てくるが、俺は最高の気分だ。
「と、取り合えず、服だ! ちょっと待ってろ」
ルマンが慌てて部屋を出て行った。
ペットなんだから、俺としてはずっと素っ裸でも一向に構わないのだが……。
「あなたは生体兵器ということですが。機械化されている箇所はどこなんですか?」
興味津々といった感じで、ヌーロンを色んな角度で眺めるディーに、ヌーロンは俺に向けるのとはまったく別種の視線――嫌悪を露わにした視線を向ける。
「…………子供風情が、セカンドに気安く話しかけるな」
——あ、俺のペット終わった。
と思う間もなく、超速のハイキックがヌーロンの側頭部を打ち、身体ごと吹き飛ばした。が、
「嘘……いなした?」
ディーの呟きが漏れたのと同時に、ヌーロンはふわりと華麗に着地する。
素っ裸だから色んなところが揺れて、また馬鹿どもが歓声を上げる。
マジか。俺のペットがディーの蹴りを殺しただと……。
「戦闘力指数が、通常の人間のものを遥かに上回っています。マスター。どうやら未知の生命体と会敵したようです。交戦許可を」
こめかみから血を流しながら、謎の報告をしてくるヌーロン。
未知の生命体はお前だろとはツッコまずに、俺は口元を緩める。
「大丈夫だ。そいつは俺たちの仲間だ。仲良くしろ。あと、そいつのことはちゃんと大人として扱え」
「はっ、マスター」
「なんと興味深い! セカンド、あなたはどうやってあの蹴りを?」
ガキ扱いされた怒りよりも好奇心が勝ったのか、ディーが満面の笑顔で問う。
「……さっきの質問に答えてやろう。私は基本的には人間と変わりないが、いくつかの筋組織と内臓、それと脳の一部が機械化されている。つまり、感知能力、運動能力がそれによって強化されている」
「おーっ、なるほど。心肺機能とか脳がブーストされているわけですね……ということは……」
相変わらず見下すような視線をディーに向けちゃいるが、ちゃんと命令に従って会話してやがる!
なんか笑いが込み上げてきた。
「ぶはははははっ! 俺は最強のペットを手に入れたぞ!」
「おい、大丈夫なのかウィン……社長にこんな危ない兵器持たせて」
そう言いながら、ルマンが持ってきた自分の服をヌーロンに渡してやる。
「心強いじゃないか……ディーと同等かそれ以上というのは」
「しかも! 俺の! 言うこと! なんでも! 聞くしな!」
浮かれてウィンの背中を叩いてると、着替えているヌーロンにディーがまた質問する。
「セカンド。あなたが能力を全開にして活動出来る時間は?」
「五分だ」
「バイス社長、だそうです」
なんだよ、制限付きかよ……。先に言えよ。




