久しぶりの地面
ニームを出てから港街しか見てないが、ここピマは、他のとはスケールが違うようだ。そんで、俺たちの雰囲気もいつもと違う。
「すっげーっ! なんだあの橋!」
「あれは、ホールデン・ブリッジネ。世界で一番長い橋よ」
海峡を繋ぐ巨大な橋を指さし、ラダがガキらしく叫ぶのに、アンズが答えてやってる。
「――ちょ、ちょっとだけだって! そんな迂闊な真似しねーからさ」
「あなたは潜入を何だと思っているんですか? 私たちは不法入国者。不要な買い物なんて謹んで当然です」
最近、妙に仲の良いルマンとディーが言い合っている。
今日は、二人とも見たことないタイプの服を着てる。コットンではこういうのを、カジュアルというらしい。
「……ふーん。あんた、もしかして『ピマビーフ』知らないの?」
「な、何ですか、それ……?」
「ここピマは肉の街って言われててねえ、ピマチキン、ピマポークも絶品だけど、中でもピマビーフは、皇帝の大好物として知られる世界最高級の食材なんだぜ!」
「仕方ないですね。買い物には私が同行します。あなたは見た目的に男性に目を付けられやすいですからね」
もはや躊躇いもなく前言を覆すディー。
「……え、わ、私はウィンと行こうと……」
どうやら、化け物の扱いに慣れていい気になっていたルマンの思惑が外れたようだ。
「さあ、行きましょう! すぐ行きましょう! では、社長! 皆さんとは目的地で合流しますので」
灰色の瞳を充血させたディーの鼻息が荒い。
「ディー! わかってるのか? 絶対に何を言われても冷静に、だぞ。」
「もちろんです、ウィン副社長。私の自制心はここ数年で飛躍的にアップしましたからね。では、お先に失礼します」
「おう、あんまり目立つんじゃねーぞ!」
「何笑ってんだよ、社長! ちょ、この子止めてくれよ、わ、あああああっ、ウィーーーンッ!!」
ディーにズルズルと引きずられていくルマンを笑顔と親指で見送ってやってから、俺はスーツ姿の男たちに向き直った。
「よっしゃ、じゃあ、俺たちもバラけてから現地集合だ。警察とかに気ぃ付けろよ」
「「「「「「「「ウィッス!!!!!」」」」」」」」
どう見てもビジネスマンには見えない馬鹿面たちが、満面の笑顔で声を揃える。
どいつもこいつもまったくと言っていいほど、スーツが似合ってない。
ただ、こいつらが笑顔になる気持ちはわかる。
そう、俺たちはあのパームカンパニーの船を処分し、ようやく久しぶりの土を踏んだことで、テンションが上がっているのだ。
「それじゃあ、俺たちはもう出発するぜ」
「僕たちも行くとしよう。じゃあ、後ほど」
イバンたちの班に続いて、ウィンたちの班も動き出す。
先に上陸し、下見を兼ねて服などを調達してきたアンズとイバンが、流石にこの人数で固まって動くのは目立つと言うから、俺たちは上陸地点から班ごとにばらけて移動することにしたのだ。ちなみに、勝手に色々決めるあいつらに、誰が社長かをわからせてやろうと、男を全員スーツにしたのは俺だ。認めたくないが、後悔してる。
「じゃあ、社長、自分もお先に」
イカサマの班も動き出した。この班の実質的な班長はリーだが言葉があれなので、イカサマを代理にした。
「イカサマさん、この前しゃちょのことずっと褒めてた。なにあった?」
「ああ、それな。あいつがカードごとすり替えてる証拠突きつけてやったんだよ」
この人気のない岩場からは、所狭しと停泊してるクルーザーが、何かの動物の群れみたいに見える。その向こうには、キラキラと目に煩いなんちゃらブリッジがある。
「はあーっ、俺、あの船好きだったのになー」
「仕方がないじゃない。これも会社の方針なんだから」
「そうそう。クヨクヨするの一番時間無駄。私たちもっといい船買えるようになるネ」
愚痴るラダを諭す実姉と最近二人の母親っぽいアンズ。
ラダはサスペンダーとかいうのでズボンを吊り上げている。中には襟付きのシャツを着てて。なんか生意気にもまっとうなガキに見えなくもない。
アンズは、俺の見立て通りのでか尻でか乳の持ち主だったが、それを上手く隠すふんわりした服装をしている。そこが逆にエロいのだが、普通の奴らにはわからないのかもしれない。
ヌーロン改め俺のペットセカンドは、体形が似ているということでルマンが選んだ服を着ているが、なんか街の不良みたいな格好になった。俺は常時水着を主張したのだが、セカンド本人以外は誰も賛成してくれなかった。
一番変わったのがミュウだ。俺の勘はやはりいつも正しい。何か知らんが、服装を変えただけで、こいつは驚くほどの美少女に生まれ変わったのだ!……ってか、そんなことはどうでもいい。
「おい、ミュウ。なんでお前、会社の方針とか言っちゃってんの?」
「え? あの~、私最近、アンズさんに、社会人としての心構えを教えていただいてて……」
「ミュウはすごく飲み込み早いよ。きっとすぐ出世する」
「あ、ありがとうございます」
褒められ慣れてないのだろう、アンズのお世辞にミュウがはにかむ。
「へっ、まあせいぜい良い社員になってくれや! そんじゃ俺たちも行くか」




