ピマ
「――ここコットン帝国第三の都市ピマには、数多くの歴史的建造物が当時の状態のまま残されています。旧時代に使われていた発電所や、破壊神が封じられているという『じぇじぇじぇ岩』、中でも救世主ドゥルガー降臨の地とされる『光の丘』は、いつも観光客で溢れかえっているんですよ」
「救世主様降臨の地っ!!」
街の中心にある観光案内所のねーちゃんから説明を受けている最中に、普段は大人しいミュウが珍しく声を荒げる。そんで、俺の方を向き、いつも通りもじもじし始める。
「しゃ、社長……私事で大変恐縮なんですが……光の丘に巡礼してみたい、です」
「ん? ああ、問題ねえだろ別に」
パーッと花開くような笑顔になるミュウを、横目で見てから、俺はまた視線を戻す。
「えー、俺はこっちのじぇじぇじぇ岩に行きてーよ」
「じぇじぇじぇ岩ってなんだよっ! じぇじぇじぇの部分だ特に!」
姉と同じようなことを言う馬鹿な弟には目もくれずツッコむだけに留める。
なんで俺には厳しいんだよっ! とか言ってるのが聞こえるが、今はどうでも良い。
「じぇじぇじぇ岩のじぇじぇじぇは、封印されていた破壊神の口癖が由来とされ……あの~、私のお尻に何か付いてますか?」
「ねーちゃん。あんた自分の尻が一番の観光スポットだとはうおっ!」
「お姉さんありがとうございました! 社長行きますよ!」
ミュウが力任せに俺をぐいっと引っ張るから、せっかくの口説き文句が台無しになった。
このガキは大人しいかと思うと、たまにこういう強引さを発揮するから読めない。
「なー、社長。ああいうのってセクハラって言って、普通の会社だと訴えられるって聞いたことあんぜ」
「はんっ! てめーみてーなガキの情報なんて当てにならねえよ。それにな、あのねーちゃんは見られて喜んでんだ。まあ、まだわからねーだろうなー、ガキには」
「バイス社長っ!」
突然ミュウが声を荒げ、怒りに燃えた瞳を俺に向け、
「そ、その、あまり……いえ、なんでもないです。すいません……」
と、言葉を濁す。
どうやら、こいつは今日はあまり機嫌が良くないらしい。
このガキは、ガキの癖にリネンでの一件で中々の働きを見せた。
こいつらにはまだ、クライアントとして依頼が失敗した補償を受け取る権利が一応あるのだ。
うちの社員になれたからいいとこいつらは言うが、俺としては、ガキに損をさせたままってのは引っかかる。
こういうことをしっかりやってないと、まともな会社とは言えねえ。
補償をどうするか真剣に考えていると、飯を買いに行ってたアンズが戻ってきた。
「しゃちょ、お待たせ。ピマビーフ100%のサンドイッチ買ってきたネ」
この街にいると至るところから牛の絵やマークが目に入ってくる。さっきの案内所の前には、でっかい牛の銅像なんかもあった。
「うめえ! これマジでうめえ!」
「すごい、口の中が美味しいでいっぱいになります」
ラダが貧乏な孤児丸出しで舌鼓をうち、ミュウもえらく気にいったみたいだ。まあ、こいつらが嬉しそうなのを見るのは悪い気はしない。
「しゃちょ、どうする? そろそろ集合場所行くか?」
「いや、俺たちはちょっと観光してひくほ」
サンドイッチを頬張りながら答える俺にアンズは眉根を寄せる。
「だめよ。遅れるは相手に不審思われる」
「大丈夫だろ、ウィンがいるしな。パスポートなんて別に腐るもんでもねーだろ」
俺が折れないと察したのだろう、アンズは深くため息を吐く。
「仕方ない……で、どこ行く?」
「光の丘だ」
結局、俺は社員サービスで機嫌を取ることによって、補償の出費を節約する作戦を選んだ。




