ピマに潜む者
現コットン帝は、その類まれなるリーダーシップと善良な人柄から、コットン史上最高の善政を敷いているというのが、国内外問わずの専らの評価である。しかし、光に影が付きものであるように、それを心良く思わない者たちもまた存在する。
破壊神教。
その歴史は旧時代にまで遡ると言われている。
ある時代では世界的に隆盛を極めたこの宗教団体は、現在、秘密結社の色合いが濃くなってきている。というのも、彼らの温床であったコットン帝国で、破壊神教が粛清対象になったからである。
敬虔な救世教徒である現コットン帝オーガニック・コットン一世は、戴冠すると同時にコットン国内での破壊神教の活動を一切禁止した。
当時のコットン国内には数多の破壊神教会が存在し、国内の総神徒数は十万とも二十万とも言われていた。なかでも力を持っていたのが、コットン帝国の中枢にいた大神徒と呼ばれる神官たちである。
オーガニック帝以前のコットン帝国は、この大神徒たちによって運営されていたと言っても過言ではない。それほどに彼らは権勢を振るっていた。
それが突然、自分たちは用済みだとされたのだから、彼らの反発が苛烈を極めたのは当然の帰結と言えよう。
オーガニック帝への暗殺未遂数十回、内乱と戦争を誘発し混乱に乗じて政権奪取を図ること数回、しかしそのどれもがことごとく、オーガニック帝によって事前に封殺された。
企みが失敗に終わる度に神徒は数を減らし、大神徒たちは捕まり処刑されるか、海外の教会を頼り国外へ逃亡。残ったのは、表向き普通の国民を装った隠れ神徒だけになった。
そんな隠れ神徒の一人に、エストウッドがいる。
オーガニック帝に処刑された大神徒を両親に持つ彼女は、いつかこの国に一矢報いることだけを夢見て、秘密裏に国内で活動を続けてきた。
彼女が拠点にしているのは、コットン最大の港湾都市ピマ。この歴史ある港街に溢れている多様な文化と色とりどりの犯罪は、隠れ蓑として利用するには最適だった。
現在、エストウッドはピマで偽造屋を営みながら、破壊神徒として暗躍している――
「エストウッド様。街で『儀式』に使えそうな女がいるとの報告が」
筆跡を完璧にトレースしながら偽造文章の作成をしていたエストウッドは、同志の報告に顔を上げる。
「そうなのか? 美人であるかその女は?」
「極上との報告です」
「重畳であるな。ではでは、すぐに儀式を開始せよ。もし、この最後の儀式が成功し、ジェンバ様とニジェンバ様が復活された暁には、貴様らを幹部に推挙してやるのである」
「おおっ……では、すぐにいつもの二人に声をかけさせます。客人はどうしますか?」
「そのまま待つように言うのである」
「承知しました」
部屋から出ていく同志を見送ってから、エストウッドは立ち上がり、鏡の前に行く。
襞の多いフリフリと呼ばれる黒いワンピースに、白いエプロン。両側で縛った金髪は、顔を中心にカーブを描いている。そして、頭には黒いプリム。
エストウッドは色んな角度で、自分の姿を確認し、最後に濃くきつめに施されたメイクを確認する。
「ああっ、早く破壊神様に憎きオーガニックを滅ぼしてもらいたいのである」
そう呟いて、真紅の口紅が太く引かれた唇を歪めた。




