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我ら救世傭兵団!  作者: zionPoP
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【幕間】スキニーとベーター

 ――ニーム国首都インディゴ、国防科学研究所敷地内


 日除けテントの下で計器を見つめながらデータを取る数人の研究者と、空中を飛行する少女を見守りながら、オロオロしている白衣を着た金髪の美女が。


「スキニー様! そろそろ降りてきてください! もう十分データは取れましたので!」


「あははっ! いいわっ! すっごくいい、これっ!」


「あーーーっ! そんな動きは止めてください!」


「見て、見て! ほらっ! うっひょーーーっい!」


「あ、危なっ! そろそろエネルギーが切れてしまいます!」


「なーに? 聞こえなうわああああああっ!」


「スキニー様っ!!!」


 白衣の女の声を聞こうと空中で止まった少女が耳に手を当てた瞬間、糸が切れたように、垂直に落下――


「あああああああああっ、なーんてね!」


 せずに地面すれすれで再び宙に立つ。


「もう! そういう冗談は心臓に悪いので止めてください!」


「ぶはっ! その顔! ベータ―の顔が歪むの見るのって最高!」


 そう言って少女は、呆れた顔をする女の前に降り立つ。


「……スキニー様こそ。そんな下品な笑い方をするなんて人民が知ったらさぞがっかりするでしょうね」


「俺はそんなヘマしないから大丈夫っ! そんなことよりも、これ絶対いいよ! さっそくじーじに言って、飛行部隊作ってもらってよ!」


「大将軍様に報告するなんてまだまだ先です。今回はヴァーユパターンの可能性を調査しているだけなので」


 そう言いながらも、この白衣の美女は、既にこの空中機動ユニットの実用化プランの草案をまとめており、来週の会議で発表する予定だ。


「ふ~ん、まあ、そういうことにしといてあげるわ。俺が知るとまずいこともあるだろうしね」


 鮮やかな藍色の髪をかきあげ、同色の瞳に狡猾そうな光を宿すこの美少女は、ニーム国最高権力者ケミカルウォッシュ・ジーンズ将軍の一人娘にして、扇動省大臣スキニー・ジーンズである。

 

「はい……軍務省は何かと機密事項が多いものでして。ご理解感謝いたします」


 そう深く頭を下げる、一見、高級娼婦のような見た目の白衣の美女は、ニーム国最高意思決定機関である軍務省の直轄組織、国防科学研究所所長ベーター。

 

「こうやって内緒で実験器のテストをさせてくれてるし、いっつも上手いことうちに予算回してくれんだから、俺はベーターにならもし犯されても親父にチクったりしないよ」


「……スキニー様……他の研究者もおりますので、そういう冗談は控えてください」


「あははは! その顔! そういう噂流した方がベーターの男好き隠せていいんじゃないの?」


「…………スーキーニーさーまー」


「ぶははははっ! あーうける。まあ、今日はこの辺にしといてあげる」


 人を辱めることが趣味のスキニーを、ベータ―はむすっとしてジト目で睨む。しかし、この国では神のように崇められている少女にとって、こういう実りのないやり取りが重要なことをベーターは理解している。


 世界を創った者に愛されているとしか思えない出自と才能を持っていたとしても、スキニーはまだ十八歳の少女。抱えられる重圧にも限界はあるはずだ。そんな彼女の息抜きになるのであれば、揶揄われることぐらいベータ―は我慢しようと決めている。


「あっ、そういえばさ、ゴッズテック盗み出した奴ってもう捕まえたの?」


「なっ!? す、スキニー様、どこでそれをっ!」


 ベータ―は咄嗟に計器を片付けている部下たちに目を走らせるが、幸い誰もこっちに耳を傾けていない。


「あのさー、ベータ―の立場もわかってるし、軍務省が機密だらけなのもわかってるけど……俺に入ってこない情報なんてこの国にはないよ」


「……さ、さすがです。スキニー様には隠し事なんて出来ませんね……」


「で、どうなのよ?」


 スキニーは腰まである藍色の髪を弄びながら、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「…………まだ、です」


「やっぱりね~。何かそんな気がしてたんだよね~。ね~?」


 こっちの頭の中を読み取り、全てを見透かすような視線を向けてくるスキニーから視線を外し、ベーターは心底恐怖する。これはもはや揶揄うというレベルではない。


「しかし、必ずや捕縛し、軍法会議にかけます」


「いいって、いいって、無理しなくても~。ね~?」


「ぐ、ぐっ……」


 一体この娘はどこまで知っているのだろう、とニーム随一とまで言われる頭脳をフル回転させるベーター。


「ウィンでしょ? 元貴族エゴ家の嫡男」


「きゃーーーーーーーーーーーっ!!!」


「ウィン、ウィン、ウィンぐむっ」


「いやーーーーーーーっ!! きゃーーーーーーーーっ!!」


 出された名前に悲鳴を上げながら、立場の差も忘れベーターはスキニーの口を塞いだ。


「だ、だめ……お願い止めて。それ以上は言わないで」


 苦しそうにベーターの手を引き剥がし、スキニーはベータ―から距離を取る。


「ちょっと! 俺そんな大声出してないじゃない! あんたのがうるさいっての! みんなこっち見てるよ」


「だ……だって……スキニー様が……」


 もじもじと体をくねらせ、口の下にある黒子を指で押さえるベーターを見るスキニーの藍色の目が光った。


「やっぱりねー。ぶはははっ、まさか国防科学研究所のあの天才ベーター所長が、好きな男のためにわざと国家反逆者を見逃してるとはね~」


「あああっ、あわわわわわ……お願いします! ちょっと静かにしてください~」


 あわやスキニーに飛び掛かりそうなのを自重し、周囲を見回しながら嘆願するベータの姿は、恋する乙女そのものである。

 

「大丈夫だって、誰にも言わないから、ね? 私にだけ言ってみ? 言わないとバラすよ」


「う~~~~~~いじわる~~~~~」


「ほら、早く。どうやって捕まえずに誤魔化してるの?」


「……わざと欠陥のある者を送ってるんです……」


 ベーターはぼそっと答えると、俯いた。


「え? でもあんたが送ったのって十一位のリーと三位のディーよね……あいつらって欠陥あるの?」


 不思議そうな顔で尋ねるスキニーに、ベーターはこくりと首肯する。


「……そもそもリー君はウィ、ウィン君と仲が良いんです。それに、かすり傷を負っただけで使い物にならなくなるという重大な欠陥がありまして……それから、ディーちゃんの方は、食事中はほぼ無力化してしまい……食欲で国を裏切る可能性があると軍務省の人事部も以前から危惧しておりまして……」


「うっそ……知らなかった。あんな強いのにそんなポンコツ要素あんだ、あの二人……。それで、あの子たちは今ウィンと一緒にいるの?」


「……接触後に二人に付けた発信器の通信が途絶えたので、おそらくは……」


「ふーん。あいつらってウールに向かってんだよね?」


「はい……その可能性が非常に高いかと……はっ!?」


 いつの間にかスキニーのペースに乗せられぺらぺらとしゃべってしまっている自分に気付き、ベータ―はしゃんっと背筋を伸ばした。


「スキニー様、この後に及んで弁解はしませんが……この件くれぐれも内密でお願いいたします」


「いや、そんな神妙な顔されても……ぶははっ、内容が内容だから、ねっ!! あははははははっひーっひっひ!」


 顔を真っ赤にしながら頭を下げているベータ―に、容赦のない嬌声が降りかかる。


「まあ、安心しなよ。俺は絶対に誰にも言わないから」


 そう言って、慰めるように震えるベータ―を抱きしめてから、スキニーは耳元に囁きかける。


「でもね、――ゴッズテックとディーは絶対に返させないとだめ。じゃないと、じーじが動くよ」


「ッ!?」


 今日初めての真剣な声音に、ベータ―は思わずばっと顔を上げる。


「それはあんたが一番よくわかってるでしょ?」


「は、はい……」


「もしゴッズテックの存在が他国に知られたら、この国の軍事的優位性が崩れる。あと、普通のブランズならまだしもディーは『開花』した純血ジェーヌ人。あんな人間が存在するってこと自体が国家的機密事項なんだから、ね?」


「…………はい」


 わかっている。ベーターはそのことを誰よりも理解している。なぜなら、ゴッズテックを開発したのも、ジェーヌ遺伝子の持つ可能性を引き出したのも、自分と両親なのだから。


「あんたほどのポジションの人間が、あいつらの捕獲作戦に口出ししてまで、わざと失敗するように仕向けてんだから――せっかくの経歴に傷がつくのも、俺としては見過ごせないのよ。だから、出来れば次はちゃんとやりな、いい?」


「…………」


 この期に及んでも、ベータ―はウィンを見逃してあげたい。


 自分が節操のない卑猥な女だいうことも自覚している。けど、ウィンを想うような気持ちを他の誰かに抱いたことは一度もない。


 初恋にして今恋相手。


 彼の前だけでは、ベータ―は初心な少女になってしまう。


「はあーっ。もう、それならあんたが直接交渉して取り返したら? それならいいでしょ?」


「ッ!?」


「半年後にウールで開かれるB5に私も出席するから、あんたも同行しなさい。それまでは盗まれたゴッズテックとディーの件で、じーじが動かないように俺が手を回したげるから」


「えーーーーっ!? 本気で言ってるんですか?」


「……本気も何も、もう決まっちゃったのよ。まあ、久々の外国だから、俺は超楽しみ!」


「ま、まさか、我が国が世界主要国会議に出席するなんて……年次計画にはなかったはず」


「俺が急遽軍務省と決めたからね。知らなくても当然よね」


 軍務省は国家予算の管理と年次計画を策定するニーム最高意思決定機関であり、他の省庁は実質的に軍務省の下部組織に過ぎない。


 スキニーは将軍の娘とはいえ特別扱いはされず、扇動省の一大臣として扱われている。いくら彼女が自由に振る舞おうとも将軍がそれを許さなかったのだ。それが今、年次計画を変更するほどの発言権を得たというのだから、ベータ―はただただ驚愕する。


「ベーター。あんたにだから教えたげるけど、これからニームはじゃんじゃか変わってくよ。あ、それと、私の肩書も変わるから。これからは宣伝扇動省大臣ね。対外的には宣伝大臣だから、そこんとこよろぴこ」


 空中機動ユニットを脱ぎながら、何気なく話すスキニーを見ながら、ベータ―はこの少女のことを甘く見ていた自分の態度を改めることを誓う。


「ウールでは俺も忙しいだろうから、あんたはそのウィン君とやらに会ってきなよ。ゴッズテックとディーさえ戻ってくれば、あとは俺がなんとかしたげるから」


「……は、はい」


 ウィンに会う。そう考えただけで、ベーターは全身が熱くなり、脳みそがオーバーヒートしそうになる。


「……く、くっくっくっ……」


 地面に腰を下ろし足のユニットを外しているスキニーが、笑い声を押し殺しているのがベーターには聞こえていなかった。


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