運び屋バーチ6
一番下の階まで下りると、そこは暗闇と静寂の空間だった。
バーチは懐中電灯を点け、周囲を照らそうと――
目の前に変な髪型をした男の顔が浮かび上がった。
「うおっ!」
あまりにも突然の出来事に、情けない声を出してしまう。しかし、バーチがそれを情けないと思うよりも先に、体がグイっと後ろに引っ張られ――肩に掛けていたサブマシンガンが奪われる。
「ぐっ、くそっ!」
慌てて光を後方に向けるが、そこにはバーチと同じく武器を奪われ右往左往している二人がいるだけだ。
再び懐中電灯を前方に向けたとき、ぱっと視界が明かるくなる。
「よう、雑魚ども。てめえらの狙いはこれだろ?」
声のする方を向くと、金髪の男が生体標本の入ったケースを叩いて、不敵に笑いかけてきた。そして、その後ろには、この船の乗組員全員と思われる十数人が立っている。
「残念だったな……って、おい、お前らもう一人いるはずだろ?」
男は気が抜けるような声で尋ねてくる。
「……上で殺された」
「えっ! まじかよ……あいつ……」
バーチは男の質問に答えながらも、自分の置かれた状況を完全に理解する。
この船に乗った時点で、いや、乗る前から結果はこうなると決まっていたのだ。
「まあいいや……残念だったな、お前らは完全に下手打ったってわけだ。で、誰に頼まれた?」
「…………」
裏稼業にも不文律のルールはある。中でも、こういう状況下でクライアントの名前を出すことは特に嫌われる。ここでゲスの名前を出せば、バーチにはもう運び屋の仕事すら回ってこないだろう。
「ほう、この後に及んで、口を割らねえつもりか? バーチ」
「ッ!?」
どうして、自分の名前を……?
バーチは再び混乱する。
事前に全てを知られていた? どうやって? まさか、また俺はゲスに騙されたのか?
「まあ、俺としちゃあ、そこの二人に聞いても構わねえんだが……てめえには、美人の嫁さんと娘が――」
「ゲスだ」
男が妻と娘のことを仄めかした瞬間、バーチは全てを捨てた。
この男は、こっち側の情報を全て把握しているのだ。自分はどうなってもいい。だが、妻と娘だけはなんとしてでも……。
「お、おお、そうか……てかてめえ、どんだけ嫁と子供好きなんだよ」
「別にいいだろ……私はそういう男嫌いじゃないよ」
「よし! もういいだろう。彼はゲスを裏切った。ということは敵ではなくなったということだ」
誰もが振り向くであろう極上の美女が前に出てくるのに続いて、信じられないほど容姿の整った男が手を叩いて言う。そして、その後ろからは――
「お、お前ら……」
連絡の途絶えた二人が、ばつが悪そうな顔をしながら出てきた。
そういうことだ。
バーチの情報を話したのはこの二人。
一杯食わされたのだ。
「ぶははっ、簡単に引っかかったな! じゃあ今からてめえらは俺のために働け。ちゃんと報酬は払ってやる」
船に乗り込んでから数十分足らずで、バーチたちは寝返った。




