表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我ら救世傭兵団!  作者: zionPoP
87/225

運び屋バーチ5

 船内はまるで亡霊船の中を思わせる静寂に満ちていた。


 人のいる気配がまったくしない。

 

「ここまで気配がないってことは……一箇所に固まってる可能性が高いな」


 バーチはゲスの秘書から港で受け取った簡易な船内図に目を走らせる。

 怪しいのは十数人を収容出来る場所——ボイラー室やエンジンルーム。そして――


「本命は船倉だが……まずはこの階の食堂だ」


 前後左右をそれぞれが警戒し、薄暗い船内を進む。微かな足音すら気になるほど神経がささくれ立っているのがどこか懐かしい。それ故に――


 今ならまだ戻れるぞ!


 脳内の叫びを無視する。これは直感でもなんでもない。自分の臆病な面が顔を出しただけだ。もし戦場から逃げるのならば、この声に耳を傾け続けるべきだが、戦場に立ち続けるならば、この声は死神の声だ。絶対に耳を貸してはいけない。それがバーチの戦場でのルールだった。


 通路の突き当たりの船室から一際強い灯りが漏れている。船内図によれば、食堂に間違いない。

 

  仲間に目で合図を送ってから、ライフルを構え食堂に入ると、一人の少女が椅子に座っていた。目の前にはなぜか調理用の鍋が置かれている。


「手を上げろ。他の奴らはどこだ?」


 バーチたちが銃口を向けながら近づくと、少女は両手を上げ立ち上がった。

 よく見ると、子供ではなく背の低い女だ。


「皆さんは船倉にいます」


「お嬢ちゃん、嘘付いたらッ!?」


 男の一人が言い終わる前に、その身体が吹き飛び、衝突音が食堂に響く。

 バーチを含め誰もその男がどうやって吹き飛ばされたのかわからない。鈍い音が聞こえ、突如として顔が歪むほどの風圧を感じただけだ。

 一斉に後ろの壁を振り向き、動かなくなった男を見てから即座に女の方に向き直る。


「誰がお嬢ちゃんだ、ごらあっ! この糞袋がっ!」


 女はいつの間にかバーチたちの正面に立っており、壁の方に向かってどすの利いた罵声を飛ばす。


「あ、あ、あ……」


「なんだこいつ!!」


 もう一人が女にアサルトライフルの銃口を向けると、女は瞬時に銃身を握り、捻じ曲げた。


「「「ッ!?」」」


「……失礼。取り乱しました。戦力差はわかったでしょ? それよりも早く船倉に行きなさい」


 捻じ曲がった銃を見つめ固まっている男をよそに、女はまるで子供に話しかけるような口調で語りかける。


「ど、どういうことだ……なんなんだ……」


「早く行った方がいいですよ。そこにあなたたちの目的のものがありますので」


 目の前で起こったことを処理するのに脳の容量を全て使い、バーチはもう正しく思考することが出来なくなっている。


「さあ、早く!」


 そう言って女は、しっしと両手を振る。


「……おい、バーチ。逃げよう。絶対におかしい」


「逃げたら私が捕まえることになっているので、あしからず」


 銃を曲げられた男の言葉に、女は笑顔で返す。


「ほら、そこの階段を下りてからもう一階下りたら着きますから。いってらっしゃい」


「…………おい、行くぞ」


 未だ狐につままれたような気分のまま、バーチはそう呟き踵を返した。

 銃を乱射しながらなら、なんとか逃げられるのではないか。甲板まで出れば海に飛び込めばいい。

 そう考えたバーチの目に、壁に叩きつけられた男の姿が映る。

 

「ひ、酷え……」


 誰かが呟いた。

 眼球が飛び出した真っ暗な眼窩。開けっ放しの口にはどろっとした血溜まりが淀んでいる。

 食堂の方を振り返ると、女がにこやかに手を振っているのが見えた。

 バーチは迷わず階段の方に足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ