運び屋バーチ4
様子が変だ。
船尾から船に上がったバーチはすぐに異変に気付いた。
「静かすぎる……」
二班の威嚇射撃は前方に注意を引くためのものだ、本来なら舳先に人が集まっていたり、騒ぎ声が聞こえるはずなのだが……。
一抹の不安を抱えながら、バーチは梯子を下ろし、他の連中を船に上げる。
バーチを入れて六人。こういう仕事に慣れた者ばかりだ。
「…………」
声を出さずにハンドシグナルだけで意図を伝え、それぞれが腰を低めながら散開していく。
目標は船倉のケースに入った生体標本。しかしそれを海上で盗み出すのは難しい。
バーチたちの仕事は、船そのものを拿獲し、シーアイランドまで持っていくことだ。
そのためにはまず、乗組員全員の居場所を把握しなければならない。拿獲後の意図せぬ反撃を防ぐためもあるが、船自体を沈められる可能性もあるからだ。
「生体標本か……」
ゲスの秘書によれば、それはかなり秘匿性の高いものらしく、追い詰められた奴らが船ごと沈める可能性もあるらしい。こういうリスクを最小限にするためにも、乗組員は全員殺した方が良いとバーチは腹を括っていた。
『――船舵室には誰もいねえぞ』
身を隠しながら船内への扉の前まで来たバーチは、イヤホンから聞こえてきた声に顔を顰める。
『確かか?』
『間違いない。こいつは怪しいぜ。どうする旦那?』
『全員甲板まで戻ってくれ。一度立て直したい』
『ガガッ………』
『おい、どうした? 何があった?』
突然、船舵室にいた男との無線が切れる。
『なんだ、どうした? おい指示をくれ』
『とにかく全員甲板に戻れ! 急げ!』
「くそがっ!」
「おい、どうなってるんだ……?」
一番近くにいた男がバーチの下に駆け寄り、無線を通さず直に話しかけてくる。
「バレてる」
ゲスがまた騙したのか……それともこの船の奴らが俺たちの作戦を見抜いていたか……。
『ガガッ……』
「おい、どうした? おい、応答しろ!」
「やばすぎる。もう逃げようぜ!」
別の無線か途切れたのと同時に、さらに二人が戻ってきた。
バーチは呼吸を落ち着けてから、顔の雨を拭った。雨が勢いを増し、海は荒れている。
「二人はもうやられたと思った方がいいな……作戦変更だ。固まって動くぞ。俺が前を行く」
不満そうな男たちをしり目に、バーチは船内へと入った。




