運び屋バーチ3
昼から降り始めた雨で視界は悪く、海は荒れている。
高速艇の船内で、バーチは雨粒が窓を打つのを眺めていた。
「バーチ、四班が目標を確認したってよ。二班と三班は所定位置で待機してるそうだ」
「よし」
ゲスが手配した海賊の一人が地図を渡しながら報告してくる。
「俺たちが合流するまで四班は距離を保ったまま目標と並走させとけ。二班と三班はそのまま待機だ」
「了解」
不安定な海上に目をやりながらも、バーチはどうにか追いつけそうなことに安堵した。
シーアイランドで運び屋を生業にしているだけあり、バーチも操船には多少自信はあるが、今回は海賊の力を借りることになった。ゲス側の手配だ。
「おい、火持ってるか?」
「ああ」
普段着のような軽装の男がバーチの咥えた煙草に火を着ける。一見海賊には見えないが、修羅場を潜ってきた人間だけが放つ独特な雰囲気がある。
「それにしても一人で乗り込むつもりだったなんてあんたもよくやるよな……」
「そっちの方が気楽だ。何より気づかれにくいしな」
輸送船に乗り付けるだけなら一艇だけで十分だとバーチは考えていたが、ゲスの秘書がそれでは不十分だと別の海域を根城にしている三つの海賊に協力を取り付け、合計で四艇に十人という体制を取ることになった。
「まあ、待機組の俺にとっちゃ楽で美味しい仕事だからな。あんたと荷物を運ぶだけで新しい車が買える」
目標を捕捉したことで気が緩んだのか、男の口が軽くなる。
「くっくっ、それにしても……運び屋バーチが運ばれてちゃ世話ねえな!」
「がはははっ! 違げえねえ」
バーチは、緊張するほど高揚するタイプだ。普段ではクスリともしないであろうジョークが妙におかしく感じる。
「まあ、たまには運ばれる側も悪くねえ。くれぐれも安全に送り届けてくれ」
「任せとけ。今回の仕事は、目標がコットン領海にいる間に追いつけるかどうかが一番の問題だったが、もう心配いらねえだろ。あっちも武器売っぱらった途端に襲われて災難だな! え、おい! くっくっくっ」
ゲスの秘書の話では、目標には三人の軍人らしき男がいるだけで、後は有象無象だろうということだった。しかも、目ぼしい武器はゲスが買い取ったあとだというから、船内に残っているのはせいぜい拳銃かライフルぐらいだろう。まあ、たとえ高火力の武器を残していても、船内で使うのは自殺行為になるから、その心配はない。
「まったくだ。あの世で神様に文句でも垂れんだろうよ」
「だな。おっとそろそろ四班と合流だ.。二班が攻撃始める前に出来るだけ近づけるぞ」
「それじゃ俺っちもそろそろ用意させてもらうか……」
そう言って別室に入っていくバーチの目には、どこか狂気じみたものが宿っていた。




