運び屋バーチ2
「――という仕事。バーチさんいつも運び屋の仕事ばかりけど、ほんとはこういう仕事のが得意なの知ってるネ」
安全な運び屋の仕事だけをするというのが、妻と所帯を構えるときの条件だった。
イイ女だ。ぞっこんになったのはバーチの方だった。
長く女気のない荒んだ生活を送っていた白黒の人生に、色彩を与えてくれた女。
結婚し、妻のためならとバーチは危険な仕事から足を洗った。そして子供が生まれた。
運び屋の仕事だけでも家族三人食べて行くには問題ない。
バーチは今の生活に満足している……だが。
刺激がない。
コットン帝国軍を退役後、首都ギザで有数の傭兵団に所属し、あらゆる戦地を渡り歩いてきた。
傭兵を辞めたあとも、命のやり取りに発展するような仕事を進んで受けた。
硝煙の臭いがベビーパウダーの香りに代わった今、バーチはときどき過去を振り返り懐古の念を抱かずにはいられなかった。
ゲスは胡散臭い。だが、血沸き肉躍る命のやり取りへの予感は、バーチにとって抗いがたい魅力がある。
もちろん断るべきだ。俺には妻と子供がいるのだ――
「――報酬は前金で二千万、仕事おわたら残り三千万。費用全部こっちで請け負うネ」
電話越しに秘書が提示した額に、バーチの口角が上がる。破格だ。この仕事を受ければしばらくは安泰。親子三人でウールにでも旅行に行くのも良いかもしれない。
おい、待てまて! なんで受けようとしてるんだ。
それはバーチの理性の声だ。
あいつを裏切るのか? 娘を裏切るのか?
妻と子供の顔が脳裏に過る。
とにかく、受けるにしろ断るにしろ、これだけは確認しなくてはならない。
「もし、こっちに損害が出た場合の保証は?」
「保証? そんなのあるわけない。これ裏の仕事、わかってるでしょ。もし保証欲しならまっとうに働くことお勧めするネ」
もっともだ。
自分は裏稼業の人間。一度失敗しただけで、弱気になり、疑り深くなっていたのかもしれない。
報酬は破格。しかも仕事は得意分野だ。
今回はしくじらなければ良いだけの話だ。
だめだ! 止めておけ。絶対に後悔するぞ!
「……わかった。受けよう」
バーチは秘書から詳細な情報を聞き出し、必要なものを揃えるよう指示する。
もう、理性の声は聞こえなくなっていた。




