明るい未来と暗い過去
取引きを終えた俺たちは、再び変わり映えのしない空と海だけの世界のなか、自由国家連合ウールを目指している。
朝飯を食いに食堂に行くと、ルマン一味が一区画を占領して鼻を突き合わせて何かを言い合っていた。
「――まずはアンゴラに上陸して様子を見た方が無難ですって、ルマン姉さん」
「いーや! カシミヤだ! ウールで一番栄えてるんだぞ。私は一度でいいからシープタワーに登ってみたかったんだよ~」
「栄えてるってことは治安も良いってことだろ? 俺たちみたいなのすぐに捕まっちゃうんじゃね?」
「人が多い所に紛れた方が目立たないんだって!」
平和ボケしたのか、これまで割かし静かだったルマンの部下たちまでもがギャアギャアと喚いている。
「てめーら。何やってんだ?」
「「「「「社長! おはよござまーすっ!」」」」」
チンピラ共が一斉に立ち上がり、挨拶してくる。
ほう、いい心掛けだ。どうやら俺の威光はもはや隠し切れないらしい。
「聞いてくれよ! 私はウールに着いてからの根城は絶対カシミヤだって言ってんのに、こいつらが聞かなくてさー」
聞いた話だと、ウール自由国家連合はカシミヤ国、アルパカ国、キャメル国、アンゴラ国、モヘア国で構成されている。その中でも最も発展しているのがカシミヤ国で、世界の最先端が集まるイケてる国の代名詞的存在らしい。
「カシミヤには世界中の物が集まるんだし、きっと社長も商売し易いと思ってさ」
「姉さんずるいっすよ! さっきはあからさまに観光目的だったじゃないっすか!」
「そーだそーだ! どうせウィンの兄貴とよろしくやろうって算段なんだろ!」
「ぐっ……」
どうやらルマンはすっかり元部下たちにナメられてしまったらしい。
責められているルマンに追い打ちをかけてやろうとしたとき、ミュウが俺の分の朝食を持って厨房から出てきた。このガキはアホどもと違って気が利くから、いずれ幹部にしてやろう。
「みなさんすごく楽しそうですね」
「はっ、こいつらは楽しむしか脳がねえからな」
「バイスさんは楽しみじゃないんですか?」
そりゃ楽しみだ。
金も出来たし、ウールまで行けばニームやらパームカンパニーに煩わされる心配も減るだろうし、何より自由と名の付く国である。女の気風も自由なはずだ。
グラーの話では、エロい格好のちゃんねーも山ほどいるというのだから、楽しみじゃないわけがない。
が、クールな社長である俺は、おいそれと本心を晒さない。
「楽しみなのは仕事だな。とっとと拠点構えて商売始めてえからな」
「……あの~ちょっといいですか?」
ミュウはまだ騒いでいるルマンたちの方をちらっと見てから俺の向かいに腰を下ろした。
「聞いちゃだめなんだろうなって……ずっと思ってたんですけど……私ももう社員なわけですし、聞いてもいいかなって……ば、バイスさんたちはニームでどんなお仕事されてたんですか?」
「なんだよそんなことかよ。お前には言ってなかったっけ? 俺たちは元々ニームの特殊部隊員だ」
「「「「「ッ!!??」」」」」
ルマンたちも一斉にこっちを振り向き、食堂がしーんっと静まる。
どうやら、こいつらにも言ってなかったようだ。




