ゲス商会の会長と秘書
「――アンズ! 貴様、なぜあんなにペラペラと教えなくても良いことを……ぐっ、もう少しでヌーロンを破格で手に出来ていたのだぞ! わかっているのかっ!」
「……最初にヌーロンのことしゃべったはかいちょ。あそこで嘘付く悪手。あの男見た目よりも抜け目ないネ」
船上での取引の帰路。
ゲスは自分の秘書が取った軽率な態度に激昂していた。
ただ、この女が自分よりも優秀であることは、誰よりもゲス本人が一番わかっている。
「私はそれよりも奪う方が安くつく思たよ」
相手の油断を誘う言動というならば、さっきのアンズの態度は得心がいく。仲間割れを見せられれば、誰でも相手を軽く見てしまうだろう。
「ふんっ、まあ良い。それはわしも考えていたことだ」
「流石かいちょ。でも、あんなに執着したのなんでか? あの男……少し警戒してたネ」
「ぎゃ、逆だ逆。あの微妙な駆け引きは貴様にはわからんだろうな……あの男にわしが商売のことにしか目がない男と思わせるための芝居だ」
「おー深いネ。さすが、かいちょ」
今回の取引で、あんなにも欲の皮が突っ張った態度を取るつもりはゲスには毛頭なかった。
しかしヌーロンを一目見たとき、密貿易人としての――いや、人身売買で身を立て築き上げた地位をもう一段上げてみたくなったのだ。
「貴様は見どころはあるが、まだまだ青いな……」
「精進するネ」
十年前、シルクの人身売買組織からアンズを買ったのは、ゲスにとって最高の判断だった。
貧農の出で学もなく、まだ十五という若さにも関わらず、この娘は信じられないほど頭脳が明晰だった。
今ではゲス商会の運営全般だけでなく、経営に関する重要な決断にも彼女の意見を重宝するようになっている。
「して、あのヌーロンどうやって手に入れる?」
「あの鼻に傷ある男と美男子は軍人臭い。あと、あの大きいハゲ頭も強いよ。他は大したことない思う。けど、かいちょの手駒のチンピラは役不足。今回は使えない」
ゲスの問いにアンズは淡々と答える。
「でもあっちはただの輸送船。武器も私たち買い取ったばかり。ここはバーチ雇うが得策ネ」
「ふんっ、『運び屋バーチ』か……」
シーアイランドだけでなく、本土にも名を轟かす元傭兵の名前を聞き、ゲスは不快な気分になる。
出来れば、あの男を雇うことは避けたいが、アンズの言う通り自分の子飼いの悪党共では手に余るだろう。
「港に着き次第すぐにバーチに連絡しろ。交渉は貴様に任せる。出来るだけ早く動けと伝えておけよ……奴らがまだコットン領海にいる内に何としてでもヌーロンを手に入れるのだ」




