ヌーロン
「おい、爺さん。なんだ、ヌーロンって?」
「……い、いやいやいやいや忘れてくだされよく見たら違ったようですな」
秘書に肩を借りながらまくしたてるように話すゲスは、取り繕った様に悠然と尻をはたくと、秘書の肩に手を置いたままガラスケースの傍まで行き、まじまじと中身を眺める。
「……ふむふむ。おおっ! やはりこれはただの生体素材。いわば、ただの人間標本ですな。どうでしょう、このゲスならこういった物を欲しがる好事家にも顧客がおりますので、そうですな……一千万モメンでは?」
「いやだめだ」
俺の即断に狼狽の色を濃くするゲスを見て、俺は確信する。
これは絶対に値打ちものだ。
「それよか、ヌーロンってのは何だ? 詳しく聞かせろよ」
間髪いれずに質問を投げつけ、ゲスの反応を窺う。
「え? あー、私、そんなこと言いましたっけ?」
「かいちょ、この人もう気づいてるネ……嘘付く墓穴掘るだけ」
「ば、馬鹿!」
「へっ、やっぱりな!」
とぼけて誤魔化そうとするが、思いがけず秘書にバラされたのだろう、あからさまに狼狽するゲスを嘲笑う。
俺の嘘を見抜く能力をなめてもらっちゃー困る。
「爺さんのさっきの反応といい、嘘吐いたことといい、こりゃかなりの値打ちもんなんだろ?」
「……この期に及んで嘘を重ね続ても仕方ない……そうです。これはヌーロンというシルク国で開発された生体兵器です」
嘘がバレて本性が出たのか、ゲスはさっきまでの紳士な振る舞いと打って変わり、不機嫌そうに言う。
「……まあ、価格は二千万モメンというところですな」
「生体兵器。シルクはそんなもの作っているのか……」
「ほう、武器マニアのてめえでも知らねえのかよ、ウィン」
「そちらの方が知らないのも無理ないネ。ヌーロン知ってるまだほとんどないよ。パンピー知らない当たり前」
ゲスに睨まれながらも、なぜかこの秘書は口が軽い。
「――ヌーロンまだこの世に三体しかないネ。あなたどうやってこれ手に入れた?」
「待てまて! あんたらがそんなこと訊いてくるなんてどういう了見だい? ルール違反だろそれ」
女の不用意な発言にルマンが声を荒げる。
俺とウィンもルマンたちから、入手経路を相手に話さないのが密貿易のルールだと聞かされていたが、この訛りのきつい女にはそんなことを気にしている様子はない。
なぜかこっちに有利な発言をする理由と合わせて考えると、この女はどこか怪しい。……だが、今はそんなことはどうでもいい。
「かいちょ、これ欲しなら、どこで手に入れたか聞く大事よ。前例ないは真贋見抜く疎かなる」
「おい、俺たちはまだ教えるなんて言ってねーぞ……まあいい、こいつの価値がわかっただけでもこっちは収穫だ。別にてめえらじゃなくても買い手はいるだろうしな」
俺の発言にゲスは目を怒らせて秘書を睨みつけるが、睨まれている方はどこ吹く風だ。
「それがいいよ。かいちょ、これ危険過ぎ。欲出したら私たちも危ないネ」
「き、貴様! でしゃばり過ぎだ! 黙っておれ! あ、これはこれは失礼しました……ぐぬ~っ、わかった! わかりました! ここの武器と合わせて二億モメン出そう! それで売っては貰えんかね?」




