夢2
そうだ、俺は世界の終わりを見せられたことがあるんだった。
「ようやく思い出した?」
この女ののことも思い出した。
確か――
「救世主っていうのが一般的かな。でもまあ、君はサティーとでも呼んで」
「てめえ、何か話し方が流暢になってないか?」
「そりゃそーだよ。とうとう君が約束を果たす時が来たからね」
そうだ。
こいつと大昔に約束をしたんだ。
「とうとう五千人殺しちゃったね」
「ガキの時分にした約束だ。あんなのは無効だろ」
「ん~? それは出来ないよ。吾は何度も君に警告してきたし、それこそ物心ついてからの方が多く接触しているはずだよ。何度も約束を破ってきた君に吾はこれでもかというほど譲歩してきた。方向転換の機会はそれこそ何度もあったはずだ」
「…………」
「君が殺めた一人ひとりには、それぞれこの世での役割があった。五千通りもの役割がね」
「…………」
「おかげでプラーナの天秤はマイナスに傾いてしまった。君はその一役を担った責任を取る必要があるんだよ」
「…………ふざけんな。誰が好き好んで人殺しなんてするかよ! ああやって生きていくしかなかった。そんなことで責めるってんなら、俺を放ってくたばった親とかニーム軍のクソどもが先だろうが」
「いや……違う。吾は全てを見てきたからね。覚えてないだろうが、君は君自身で選んだ道の上にいるんだ。そして、こうなることを避ける道もあった。しかし君はそれを選ばなかった。それだけ」
全部思い出したから、本当はわかっている。
こいつは何度も俺の前に現れてその度に警告してきていた。
「本来なら君はとっくに死んでいたんだ。君の親が……君を助けてくれと僕に祈らなかったら、君はもうとっくにこの世にはいない」
「はっ! 何とでも言いやがれ! てめえとの約束なんざ知らねえし、守る義理もねえ」
「吾との約束というのは契約だからね。今回ばかりは、君がそう思っていても強制力が働く。だから約束通り君はもう吾の駒なんだよ。そしてそれは決して悪くない道だよ。そう、それは償いの道でもあるし、何より――吾の奇跡が受けられる」
「信じねえ」
「うん。それで良いよ。信じて得る奇跡よりも、信じずに得る奇跡の方が新鮮な感動があるだろう。こっちもやりがいあるってもんだよ」
「…………」
「さて、そろそろ時間もないから奇跡の説明をしておく。君は吾の使徒として目的を遂行するにあたり、これまでに死にかけた回数だけ奇跡を受けられる――十五回だ。でも同時に君はこれまで受けた十五回の奇跡を返さなければいけない。詳らかに言うと、奇跡を授ける度に君の寿命を貰う。ここまでは、良いかい?」
「良くねえよ。なんでこれまでのを返さなけりゃなんねーんだよっ! しかも分割払いとか新手の金貸しかよ!」
「君は吾の奇跡を受けていながら、約束を破り、世界の法則を乱した。その代償を分割で払うだけであって、君が新たに吾に借りを作るわけでもない。こんな良心的な金貸しがいたらさぞ苦労しているだろうね」
「はんっ! こんなせこい奴が救世主様だなんて聞いて呆れるぜ」
「仕方がないんだよ。現状では、契約がないと吾はこの世で力を行使出来ない。それは前にも言ったはずだよ?」
「…………いちいち覚えてねえ」
「ほんとに君は変わらないね……まあいい、もう時間もないしね。とにかく、君は吾が現世に復活するのを何としてでも阻止してくれたまえ。そして奇跡が必要になったら手を天に翳してこう叫ぶんだ――」




