第二の刺客4
食堂に行くと、ミュウとラダが食事をしていた。
「あ、バイスさん……そちらの方は?」
「よう、悪りいけどこいつになんか食わせてやってくれないか?」
「は、はい……わかりました。パスタでいいですか?」
未だに赤面しているディーが、こくりと頷く。
食事の手を止めてその様子を眺めているラダに、俺は危機感を抱く……。
「バイスさん、その子むぐうっ!」
「おい、ラダ! このお姉さんは俺たちの昔の同僚だ! お前なんかよりもずっと年上のお姉さんなんだからな、敬意を持って接しろよっ!」
予想通り地雷を踏みぬきそうになったラダの口を押さえ、俺は額の汗を拭う。
「どうも初めまして」
その様子を訝し気に見ていたディーが軽く会釈をする。
どうやら気づいてないようだ……。
「おい、いいか。一切口開くんじゃねーぞ」
そう耳打ちすると、ラダは何度も首を縦に振る。
「取り合えず座ったらどうだい?」
ウィンが椅子を引いて着席を促すと、少し躊躇った後、ディーが腰を下ろす。
そして、俺、ウィン、ラダ、そしてディーでテーブルを囲む。
ディーの視線はラダの皿に盛られたミートパスタに釘付けだ。
「しかしお前変わんねえよな……最後に食ったのいつだよ?」
「えーっと、リネン海軍の巡洋艦でいただいたので――一時間ほど前でしょうか」
よだれを袖で拭いながら目を皿から離さずに答えるディー。
かつて、こいつの胃袋は異次元に繋がっていると、ブランズ内では真剣に議論されたことがある。
「そういやお前が俺の部隊にいた頃、敵の補給物資を勝手に鹵獲して喰いつくした事あったよな」
「そういえばそんなこともあったね。あれのおかげで期せずして敵が撤退してくれたんだ」
「ごほんっ! あれはブランズの隊員らしく臨機応変に対応したまでです。決して食欲に負けたわけではありませんので……」
ディーは新人の頃に、短期間だけ俺の班にいた。
即戦力どころか、初戦にも関わらず一人で戦車部隊を丸々壊滅させたのは忘れられない。
「昔話ついでに言わせて貰いますが、お二人には新人の頃にお世話になったご恩があります……ですので、自分としても出来れば実力行使はしたくないのです。その辺をご理解いただけると――」
ミュウがパスタ山盛りの皿を持ってキッチンから出てくると、ディーは話を止め運ばれてくるまで皿を凝視する。
皿が自分の前に置かれると、プルプルと震えだし、フォークを渡そうとするミュウの手から荒々しくそれを奪い取ると、掃除機みたいな音を立てながらパスタを啜り出した。
こうなったらもう、こいつはほとんど周囲と隔絶される。
「……いや、この人……めちゃ食い方汚ねえな」
話しても良い空気を察したらしいラダがその食いっぷりに呆れていると、ウィンが目で合図を送ってくる。俺が頷くと、ウィンはテーブルの下に潜り込み、ディーに付いてる発信機を焼く。
こいつが飯を食い始めてくれたのは僥倖でしかない。
この隙に逃げ出そうと、俺たちは同時に腰を上げる。
「ミュウちゃん、悪いけど彼女はすごく食欲旺盛なんだ。おかわりの用意しといてやってくれるかい?」
「あ、はい……わかりました」
「じゃ、俺たちはちょっと便所行ってくるわ。お前ら! 絶対こいつをガキ扱いすんなよ。それと食事の邪魔もすんな。そうすりゃたぶん殺されることだけはねーからよ」




