リネン海軍の追跡
「巡洋艦二隻だ! こっちよりも足が速い。すぐ追いつかれる!」
部屋に入るなりルマンが慌てて叫んできた。
こういう経験がないのだろう、所詮ただのチンピラ風情どもが泡を食ったようにオロオロしている。
ルマンから双眼鏡をひったくり、後方の様子を確認してみる。
「なーんで中立国なのにあんな立派な軍艦持ってんだ?」
「本来は防衛目的だろうね。中立国とはいえ専守防衛ぐらいはするだろうさ」
確認し終えた俺から受け取った双眼鏡を覗きながら、ウィンが答える。
なるほどな。だから、射程に入っているにも関わらず撃ってこねーのか。
「あれじゃあ、軍艦の意味ねーじゃねーか」
「その内、警告信号でも出してくるんだろう。停船させて拿捕って考えじゃないかな」
「お気楽だね~。そんなんで俺たちが止まるわけ――」
「あ、あのさ……お話の最中に悪いんだけど……どうすんだよ!? なんでそんなに余裕なんだよ!?」
相手の動向を探っている俺たちに、ヒステリー女が割って入ってくる。
今朝もそうだったが、この女はすぐに狼狽えやがる……よくこんなんで組織のボスが務まっていたものだ。
「心配ないよ。奴らにはどうこう出来ない。進路妨害にだけは気を付けてこのまま無視して進もう。こっちから攻撃しなければ大丈夫さ」
「そうだな、それで行くか。あんなのただのハリボテだろうしな。領海外に出りゃその内諦めて帰んだろ」
「ま、待てよ! こっちは港湾局の職員まで拉致ってんだよ!」
「「あっ……」」
ウィンもそのことをすっかり忘れていたのだろう、俺たちは声を揃えた。
「……それは不味いな。公務員を拉致しているとなると、奴らもそうそう諦めないだろう……」
「ちっ、面倒臭せーなったくよー! おいバンダナ、停船だ! お前らはその職員たちってのを甲板に連れてきとけ! ウィン、てめえは無線打って、職員は引き渡すって伝えろ」
俺の指示で全員が動き出す。
もうこうなったら、お荷物だけでも返すしかない。
人質にしてもしなくても、向こうから攻撃して来ないのなら、ここはあいつらの目的を引き渡してお帰り願う方が良い。
ただ、どうやって帰ってもらうか、だが……。
「おいおい、奴さんも……停船したぞ……」
頭をひねっていると、イバンが呟いた。
いつの間にか、目視で確認出来るほどに接近していた巡洋艦が二隻とも停まっている。
ウィンの方を向くと、肩を竦める。まだ、無線は打っていないらしい。
そもそも、無線を打ったとしても、この距離だとまだ停船する意味がない……。
「こっちが停まったから警戒でもしてんのか?」
「そうだとしても警告信号なりがあるはずだ……おいっ! 何か様子がおかしい! 一隻だけケツをこっちに向けようとしてるぞっ!」
備え付けの双眼鏡から目を離したイバンが叫んだ。




