五千人目
「――ああ、そうだ。すぐに出してくれ」
ウィンがヴィシュラフォンでルマンに出港するよう伝えてるのが聞こえる。
ライフルのスコープ越しにおっさんの動きを注視していると、何やら右手を船の腹に向けている。
「……何してんだこいつ」
嫌な予感がする。
ジャングルで擬態していたシルク軍の小隊に急襲される直前にも、同じような予感を覚えたことがある。
こういう勘というのは、俺にとっての生命線のようなもので、これがあったから今まで生き延びてこられた。
だからわかる――今ここで、おっさんの頭を打ち抜かないと、絶対にヤバいことになる。
「ありゃヤバいぞ……絶対にヤバい」
スコープから目を離さずにひとりごちてから、トリガーを引いた。
銃声と共に、おっさんが後ろに吹っ飛ぶ。
――瞬間。
おっさんの掌から、紫色の雷の様なものが飛び出すのを捉えるが、瞬く間に閃光に視界を奪われ、肌を突くようなピリピリ感に続き、轟音が周囲を支配する。
「……い、今のは……」
スコープから目を離し、身構えながら唖然として呟くウィンの方を見ると、その向こう――俺たちのいる場所から少し離れた甲板が焦げ抉れ、手摺りがなくなっている。
咄嗟に後ろを仰ぐと、黒い閃光が空に吸い込まれ消えるのが見えた。
「ゴッズテックだ! 間違いねえ」
あれを捉えられず、事態を飲み込めていないウィンに教えてやる。
射出時に大量の閃光を発する雷速の弾道を、正面から肉眼で捉えるのは不可能だ。
今回はたまたまスコープ越しに射出の瞬間が見えただけに過ぎない。
「ゴッズテック!? あれはニームだけの専売特許じゃないのか?」
「俺が聞きてえよ! 馬鹿野郎!」
ウィンの言う通り、ニーム軍にはブランズの隊員でさえ独断での使用が許可されないゴッズテックという門外不出の技術が存在する。
ゴッズテックはニームだけの技術だと教えられてきた俺たちからすれば、目の前で起こったことは信じられない。だが、見てしまったのだから信じるしかない。
「俺たちがニーム軍に騙されてただけかもしれねえ……」
「……いずれにしても、それを知る術はもうない」
二人で動かなくなった死体を見下ろしていると、船が動き出す。
なんとかリネン海軍が来る前に船を出せたが、モヤモヤした気分は収まらない。
ミュウの依頼を完遂出来なかったからでも、ニーム以外のゴッズテックを見たからというわけでもない。
もっと何か、ものすごく大事な約束を破ってしまった気がする……。
思い出せそうで思い出せないモヤモヤした気分のまま、俺は徐々に遠ざかる死体を眺め続けた。
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