イタチの最後っ屁
たとえ、大きな失態を犯したとしても、イラが会社に粛清されることはないだろう。
パームカンパニーは幹部のあらゆる失態を見逃す。そういう組織だ。
しかし、今まで『決められた事案』が阻害されたことなど、イラの知る限り一度もない。
故に、目の前の賊共を取り逃がした先に待つ自分の未来は、――未知。
会社に消されるかもしれないし、何らかのペナルティを課せられる可能性もある。
「いや……そんなことはどうでも良いのだ。もはやこれはそういう問題ではない」
会社への忠誠心はかつて自国に抱いていたものよりも遥かに大きくなっている。
団長と人事部長ロエは、約束通り、欲望を満たすために犯した全ての罪を帳消しにしてくれた。
それは大恩といっても良い。
パームカンパニーに大きな借りがある以上、パームカンパニーをここまでコケにした輩を許すわけにはいかない。
「貴様―っ! ニームの豚ああああああっ!」
イラの怒声に賊の足が止まる。
「なんだよおっさん。ニームの豚でも食いたいのかよ?」
「黙れっ!! 貴様らは滅ぼされるべき民族っ! この世の癌っ!」
「あのさー、年甲斐もなく負け惜しみとか恥ずかしいぞ!」
あまりの怒りに子供のような罵声を飛ばしてしまうイラをよそに、相変わらず飄々とした態度を崩さず、賊は階段を登って行く。
「うおおおおおおおおっ!!」
「うおっ、危っねーっ! てめえ! 殺されてーのかっ!」
「死ね、死ね、死ね、死ねーーーーーがぐっ!」
男に向けて拳銃を乱射していたイラの手が狙撃される。
血まみれの取れかけた指を押さえながら、弾道の方に目をやると、別の賊が甲板からライフルを構えているのが見えた。
「ぐぐぐぐうううううぅぅぅ……っ!!!」
戦闘車両まで行けば、貫通ロケット弾CSM95が積んである。あれならば船に致命的なダメージを与えることが出来るだろう。
しかし、動けば殺される。
イラは血が出る程強く唇を噛んだ。
『――もし戦場でどうしようもない状況に直面したら、こう、右手を開いて敵に向けてぇ~、右腕の関節……ここを強く押して下さいねぇ~。私たちからのプレゼントですぅ~』
それがどういうものなのかはわからない。
なにしろ今の今まで、その存在すら忘れていたのだから……。
「おい、ウィンっ! ここは俺が見とくから、さっさと船出すように伝えろ!」
「お、お前……迂闊に名前を呼ぶなよ……まあいい。油断するな」
賊どもが話す声が微かに聞こえてくる中、イラは人差し指の取れかけた右手を船に向けて開いた。




