イラ4
「――というわけで、新人研修は受けてもらい、その後いくつか仕事をこなして貰えれば、後は支部長として港湾都市を管轄していただきたい」
本部の会議室の一つ。
ヒルとロエに向かい合う形でイラは座らされ、この会社での自分の今後について説明を受けていた。
アセテート王国軍とは勝手が違うが、民間とはいえ兵隊は兵隊。
ルールは違うが、扱うものは同じである。
「あなたはその腕を治したいですか?」
仕事内容を頭の中で反芻していたイラに、ヒルは唐突に問いかけてきた。
ニーム軍との戦闘で失った右腕があった箇所には、今は義手が付いている。
ヒルの視線は、それに向けられていた。
「治すも何も治すものがもうないので」
イラにしては珍しくジョークのつもりで言ったのだが二人とも笑わず、静かに腕を亡くした経緯を尋ねてきた。
「――なるほど、ニームの豚どもに……。まったくもって忌むべき連中です。だが、奴らの戦闘技術は侮れません」
腕を失った経緯を聞いたヒルは、それまでの真摯な態度を一変させ、憤りを露わにした。
イラ本人としては、そこまでニーム軍を恨んではいなかった。
アセテートでは、戦場での負傷というのは勇者の誉でもあるからだ。
反ニーム感情を隠しもしないヒルを見て、傭兵団も選り好みするのかとイラは思うだけだった。
「ときに、……失礼ですが、その義手はかなり粗末と言わざるを得ません。そんなことで見くびられては中将も不本意でしょう」
「あら、あらあらあらあらあら、団長ったら本当に失礼ですねぇ~。中将、この人は誰にでもこうなのでお気になさらないでくださいねぇ~」
自分の義手が蔑みの対象になるなんて考えもしなかったイラにとって、ヒルの発言は寝耳に水でしかなかった。
しかし、治せるものなら治したい。
「……元に戻るというのですか?」
「ここの技術なら可能です!」
ヒルは手を組み前のめりになり、
「元に戻すことも、それ以上でも」
と言って、イラの目を真っすぐに見つめてきた。
手術後、病室で新しい自分の右腕を眺めていたイラの下に、ロエが訪ねて来た。
「——中将ぉ~、もし戦場でどうしようもない状況に直面したらその右腕の関節……ここを強く押して下さいねぇ~。私たちからのプレゼントですぅ~」
術後の状態などを報告し、研修の日取りなどを話してから、彼女は唐突にそう言ってきた。
イラがそのプレゼントについて質問しても、いざという時以外は押さないと理解していれば良いとにべもない態度。
そして、ロエは仕事があるからと立ち上がり、
「おめでとうございます。これであなたはパームカンパニーの一員となりました。約束通り、この先あなたがあなたでいられるよう、あなたの犯す全ての罪を会社が背負いましょう。あの夜に我々があなたにしてあげたように、ね」
いつもと違う折り目正しさでそう言って、微笑んだ。




