イラ
アセテート王国の絨毯屋を営む両親に育てられたイラは、幼少から軍人になることだけを志し、ガールフレンドはおろか友人すらもいない孤独な青年期を過ごした。
性格が暗かったわけでも、見た目が悪かったわけでもない。イラは同年代の子供たちと比べると少しだけ堅物だったのだ。
少等部の頃、クラスメイトから鬼ごっこをしようと誘われると、鬼役の子にもっと鬼になりきれと真顔で強要したり、中等部の頃には、隣の席になった女子に国防の心構えを延々と説く、といった類の堅物だった。
そして18歳のとき、念願の王国正規軍に志願し採用された。
夢にまで見た職場は、イラの性に合っていた。
しかし、軍規に煩いこの男は、仲間からは疎んじられていた。
よって、ここでも友人は出来ず、女性との出会いもなかった。
仲間からは嫌われていたが、命令に忠実な性格からか、上司には可愛がられていた。そんなイラ、25歳のときに見合いの話が持ち上がった。
既に士官していたこともあり、それに合わせて相手はそれなりの家柄の娘ということで、イラにとってはかなりの良縁だったといえる。
見合いの席は終始和やかに進み、仲人を務めたイラの上司も機嫌良く家に帰った。
が、見合いをした翌日に、上司の下に断りの連絡が来た。
「――斯様な要望に全てお応えする自信がないらしく、せっかくですが今回のお話は見合わせていただきたいとのことです」
先方の仲人の話では、若い二人だけで散歩をしていたときに、イラが結婚してからの要望書なる五十枚綴りの冊子をその娘に手渡していたという。
呆れた上司がすぐに詫びを入れて冗談だったと伝えろと電話したところ、イラは「軍命でないのであれば従う義務はございません」と断固としてそれを拒否。
結局、この縁談は流れた。
同じようなことは何度もあったが、仕事熱心で、戦場では大いに活躍していたイラの昇進に響くことはなかった。
35歳という若さで中将に拝命されるが、翌年、ニーム軍との戦闘で右腕を失い、率いていた師団はほぼ壊滅。
アセテート王国正規軍では、中将ともなると降格される事はほとんどないため、イラへの責任追及は上層部によってもみ消されることとなった。
しかし、当の本人はそのことを悔やみ、38歳のときに自ら辞表を提出した。
未練はなかったといえば嘘になるが、師団を全滅させた無能、と後ろ指をさされながら指揮官を継続するのは、彼のプライドが許さなかった。
もはや王への忠誠は失っていた。この国でそんなものを持ち合わせている奇特な軍人は、精鋭の近衛隊だけであろう。
こうして、あれ程までに夢見ていた軍を、イラは驚く程あっさりと去った。
無為な生活を送り、酒に溺れる日々――でも送っていればまだ良かったのかもしれないが、この男はそれまでに溜めに溜め込んだ鬱憤が爆発し、夜な夜な色町に通う日々を送るようになる。




