港街ライオット14
埠頭に停泊している輸送船『パームビーチ』を目にしたイラは、溜息を漏らした。
攪乱工作を起こしただけでなく、パームカンパニー社屋ビルを破壊し、あまつさえ支部の虎の子である輸送船までをも奪取した豚どもがここに来てようやく白日の下に晒されたことと、間に合ったということへの安堵の溜息である。
ただし、奴らの正体や一連の行動の理由はわからない。
ニーム人が首謀者であるならば、イラには恨まれる覚えがあり過ぎて特定するのは不可能だ。
例の逃亡してきたテロリストとこの街にいるニーム人が共謀しているのは間違いないが、今回の件に関しては、既にニーム人のパームカンパニーに対する怨恨とは無関係な何かであると当たりを付けていた。
ヌーロンを使ってヌーロンを狙ってきた以上、賊がパームカンパニー本部、もしくはそれよりも上を狙っている可能性は非常に高い。
シルクが汎用タイプの製造に取り掛かっていることからも、あの生体兵器の存在自体の秘匿性はそれ程高くはないと思われるが、パームカンパニーがそのプロトタイプを入手したというのは機密情報だ。
パームカンパニーの機密情報というのは、一般企業のそれとは比較にならないほどの秘匿性がある。
これは決められた事案であるはずなのだ。
だとすれば、そこに手を出してくるのは、余程の馬鹿か余程の組織だろう。そして、奴らが既に起動中のヌーロンを所持しているということは、後者と見て間違いない――。
船の前に立つ金髪の男と対面したとき、イラは自分の判断が誤っていないと確信した。
佇まいからして相当に訓練された軍人であると一瞬で察したのだ。
「まあ待てよ、おっさん。先に言っとくけど、たったそんだけの数で俺たちをやるのは無理だぞ」
こちらの数はイラ自身を含めて五人。
その全員に銃口を向けられてなお金髪の男には一切の動揺が見られないことからも、船内には既にあのヌーロンを含めかなりの数がいると見て良いだろう。
「諦めろ。じきに港湾局からリネン海軍に出動要請が出される。地上で死ぬか海上で死ぬかしか貴様らに選択肢はない」
その言葉に男は一瞬目を見開くが、すぐに口角を上げて不敵に微笑んだ。
「なるほどね。なあ、おっさん。あんた見るからにパームカンパニーのお偉いさんだろ? 一つ質問してもいいかい?」
相手のペースに乗るのは嫌いだが、数分先にはこの男を殺すことになる可能性が高い。それに、もしものときのために、リネン海軍が来るまでの時間稼ぎはしておく必要がある。ならば、出来るだけ足止めして、情報を引き出すに限る。
「……いいだろう」
「昔あんたらが攫ったニーム人たちはどこにいる?」
「…………」
予想外の質問にイラは黙考する。
やはり怨恨なのか? だとするならばヌーロンを狙ったのはなぜだ?
あるいは、両方?
パームカンパニーに恨みを持ったニーム人が、どこかの組織に雇われているという可能性もある。
「場所は言えないが、この国にいる」
男は眉を顰め、腕を組む。
「あーあ。てめえ殺しやがったな……」
そして、なぜかイラの嘘を一瞬で見破った。




